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Kubernetesは銀の弾丸ではない――エンジニアが生き残るために必要な技術とは【デブサミ2018 関西】

【C-6】Javaを活用したマイクロサービスのためのKubernetes活用

2018/10/24 14:00

 今後、アプリケーションの開発企業および開発者は二極化していく。価値あるエンジニアとして生き残るためには、学び続ける姿勢が大切だ。技術者にとって最も重要なのは、「このシステムにはKubernetesが合う」「このシステムはKubernetesでなくてもいい」といった技術の見極め、つまり適材適所に技術を選択する力だ。ではどうやってそれらを選択していけばいいのか。また、マイクロサービス化に取り組む上で考えるべきことは何か。さらにKubernetes導入におけるつまずきがちなポイントについて、日本マイクロソフト シニアクラウドデベロッパーアドボケイトの寺田佳央氏が解説した。

目次
日本マイクロソフト株式会社 シニアクラウドデベロッパーアドボケイト 寺田佳央氏
日本マイクロソフト株式会社 シニアクラウドデベロッパーアドボケイト 寺田佳央氏

問われるのは技術力。だから学び続けることが重要

 「Kubernetesについて紹介しようとすると1時間では話しきれない。そこで今日は当初のアジェンダを変更して、インターネットにまだあまり出てこない内容を紹介したい」

 こう冒頭で切り出し、寺田氏のセッションは始まった。

 2000年~2014年の14年間の間に、Fortune 500の企業のうち半数以上が倒産しているという。その背景にあるのがデジタル革命だ。現在、時価総額のトップにいるのは、AppleやAmazon、Facebook、Microsoftといった新興のデジタルネイティブな企業である。「また世界中には、今までITに直接関連しなかった企業もたくさんあるが、こうした伝統的な企業は、デジタルネィティブな新興企業が発明するサービスから危険に晒されている」と寺田氏は話す。例えば米タクシー会社であるイエローキャブ社はUberやLyftに乗っ取られつつある。

 グローバルマーケットにおける日本企業の地位も低下している。寺田氏は平成元年と平成30年の世界時価総額ランキングを提示。平成元年のランキングでは、トップ50位以内の多くが日本企業で占められていた。しかし現在、50位以内にランキングされているのはトヨタ自動車の1社のみ。しかも時価総額は30年間で541億円から1939億円と、約4倍の成長しかない。「もうひとつ注目してほしいのが、50位のNetflix。テレビ会社が入っていないのに、新興のNetflixが入っている。これが現実だ」と寺田氏は続ける。

 ではこうした厳しい現実の中で、どうすれば企業は生き残ることができるのか。既存のエンタープライズ企業は、DevOpsやOSS活用による、いち早いサービスの提供、不確実性が当たり前としたトライアンドエラー、顧客ごとに予想していくためのビッグデータの活用など、デジタルネイティブな新興企業のやり方を模倣し出している。つまり「重要なのは会社が変わること」だという。

 一方、エンジニアとして生き残るためには何が必要か。「それは腕、つまり技術力だ」と寺田氏は続ける。

 「どこの会社で働いていたかは関係ない。そこで何をやったのか、どういう技術力を持っているのか。それがちゃんと話せるエンジニアが価値のあるエンジニアとして生き残っていける。そのためには学び続ける姿勢が重要だ。これをやめるとエンジニアではなくなってしまう。もうひとつ大切なのは英語力。もし今新しいプログラミング言語を覚えようと考えているのなら、それではなく、ぜひ英語を勉強してほしい。新しい技術をキャッチアップする時間は英語力によって大きく変わるからだ」

 アプリケーション開発のトレンドも年々変わっていく。それをどう選択していけばいいのか。「銀の弾丸はない。したがって最も重要なのは、『このシステムにはKubernetesが合う』『このシステムはKubernetesではない』といった技術の見極め、適材適所に選択する力を身につけることだ」と寺田氏は語る。そしてもうひとつ覚えておきたいのが、他社の成功事例をマネても意味がないということ。

 「ノウハウとして参考にするのであればいいが、他の企業でうまくいったやり方をそのまま自社でやってもうまくいかない。自社にとって最適な構成を一生懸命考えることだ」

 モノリシックとマイクロサービスのどちらがいいのか、「これも銀の弾丸はない」と寺田氏は言う。考えなければならないのは、何のためのマイクロサービスなのかということ。「いち早くサービスを提供したい」「柔軟にスケールしたい」「独立したサービスを行いたい」「耐障害性を高めたい」「変更に強いシステムを作りたい」など、目的はさまざまだろう。

 最もダメなパターンは、Dockerを導入したいからといってマイクロサービスに手を出すことだ。例えば先に挙げた、「いち早いサービスの提供」「柔軟なスケール」「独立したサービス作り」は、マイクロサービスではなくIaaSやPaaSでも実現できる。マイクロサービスが有効なのは、「変更に強いシステム」といった動きのあるシステムを作る場合だという。

デジタル時代のシステムにはスピード、不確実性、顧客ごとの予想が求められる
デジタル時代のシステムにはスピード、不確実性、顧客ごとの予想が求められる

 では変更に強いアプリケーション開発をどうやって実現していくのか。まずはTwelve-Factor AppやThe Reactive Manifesto、組織作り、TDD(テスト駆動開発)、アジャイル、継続的インテグレーション、Infrastructure as Code、継続的デリバリーなど、マイクロサービス化するために必要な知識を獲得することだ。というのも、マイクロサービスはモノリシックのアプリケーションの作り方とはまったく異なるからである。

 次にソースコード管理の方法から変えること。寺田氏は「マイクロサービスではサービスごとにレポジトリを作成するべき」と指摘。なぜなら、サービスごとの履歴管理・ロールバックの把握が容易になるからだ。

 3つ目は並列処理や非同期、ノンブロッキングの処理をきちんと考えること。例えばすべてのサービスの呼び出しを同期型で書くと、いち早く開発できるかもしれない。しかしすべての処理が終わるのに時間がかかる。これを並列処理にすることで、処理にかかるトータル時間を短くできる。パフォーマンスやリソースの使用量に大きく影響するため、これらの仕組みを理解することが今後は非常に重要となる。

 4つ目は障害が起きることを常に頭に置いておくこと。「今まで冗長構成や二重化を行ってサービスが落ちないように頑張ってきた。しかし、サービスは落ちるしネットワークも止まる。だからこそ、これからは1つサービスが落ちても他に影響しないような作り方をすることが重要になる」と寺田氏は言う。つまり重要になるのは分散コンピューティングを意識したシステム開発である。それを学ぶためにおすすめの書籍が『Release It! 本番用ソフトウェア製品の設計とデプロイのために』。

 「古い書籍だが、この本にマイクロサービスをやる上で重要なことが書かれているので、ぜひ読んでほしい」


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