ペロロンチーノの災難 original end~モモンガによろしく~ 作:善太夫
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『…いや、決してモモン殿の様子を見にきたわけじゃないぞ?勘違いするな。』
キーノは何故か慌てていた。
ペロロンチーノはキーノに深刻な話をしたいと説明してどこか落ち着ける場所に移動する事にした。
酒場につくとキーノが口を開いた。
『改めて自己紹介しなくてはな。キーノ・ファスリス・インベルン。王国アダマンタイト冒険者、蒼の薔薇のマジックキャスター、イビルアイでもある。』
『ペロペロことペロロンチーノだ。』
ペロロンチーノはこれまでの事を全て話した。
ユグドラシルというゲームの事、この世界に来た事、アインズがかつての友人の残滓である事、全てを。
黙ってじっと目を閉じて聞いていたキーノは静かに言った。
『……信じられない話ではあるが…嘘を言っているのではなさそうだな。……』
キーノは再び目を閉じるとしばらく遠い記憶を弄るように黙り、やがてゆっくりと息を吐いた。
『昔の話だが、かつての神話―物語の一つに八欲王と呼ばれる存在がいる。神の力を奪った者たちとされて、絶大なる力でこの世界を支配したと伝えられている者たちだ。まあ、かれこれ500年も前の話だが。彼らは欲望の限り悪事をなし、やがて竜王と対峙した。』
キーノは目を開くと机の上のジョッキを見つめた。
『八欲王と竜王の戦いは熾烈を極めたが互いに共倒れとなり、最後は八欲王の同士討ちがあって滅亡した。』
『……六百年前には六大神という者たちがいて、その内の一人が生き残っていた。滅びる前、八欲王はその生き残りを殺し、従者が残された。六大神という主を失った後、彼らは魔王となり各地に災いをもたらした。……かの十三英雄が滅ぼすまでな。今からざっと二百年前の話になる。』
キーノは何かを思い出すかのような遠い目をしていた。
まるで目の前のペロロンチーノが存在しないかのように。
そしてその表情はどことなく寂しげだった。
ふと、ペロロンチーノの視線に気がつくと頭をふりながら言葉を結んだ。
『ただの…ただの言い伝えだ。…単なる、な。』
キーノは多分、嘘をついている。
彼女が過去にどんな体験をしたのかはわからないが、今の話はきっと彼女も深く関わっているのだろう。
でなければあんな表情を見せるはずがなかった。
キーノはじっとペロロンチーノを見つめながら重々しく口を開いた。
『ペロペロ、いや、ペロロンチーノ。あなたはかの十三英雄のリーダーに似ている。もしかしたらあなたが言う通り、十三英雄のリーダーもかつての八欲王や六大神たちも“ぷれいやー”なる存在なのかもしれぬな。すると魔導王やその部下達はかつての魔王といったところか。』
キーノの話からすればナザリック地下大墳墓のNPC達が主たるプレイヤー―ギルドメンバー―を失った場合、暴走して世界を滅亡させかねない。
本来、拠点NPCは拠点が失われた際に消滅するのだが、この世界にNPCが存在するという事は何らかしらの理由でナザリック地下大墳墓が存在している、という事だろう。
もしかしたらこの城塞都市エ・ランテルと融合しているのかもしれない。
じっと黙ったまま考え込むペロロンチーノを見ながらキーノが尋ねた。
『で、どうするのだ?このまま放置するのか?それとも世界を救うのか?』
ペロロンチーノは答えなかった。
『そうだ。漆黒のモモン様の力を借りよう。うん。それが良い。』
『…それは止めておくべきだな…』
ペロロンチーノはかつて二人をエ・ランテルで見かけた事を思い出した。
あれは他人の空似ではない。
間違いなく戦闘メイドの一人…ガンマだ。
とするとモモンは一体…
そもそも俺はどうすべきだろう?
このままナザリック地下大墳墓のNPC達が暴走するのを座視して良いのだろうか?
ペロロンチーノにとって彼等は愛すべき存在だ。
しかしこのままでは…
長い沈黙の中で、ペロロンチーノは考え込んでいた。
NPC達を解放するのは俺にしか出来ないだろう。
NPC達の解放―ナザリック地下大墳墓もしくはそれに変わる拠点の破壊―
とうとうペロロンチーノは決心した。
『……ギルド武器を破壊する。……そしてNPC達を解放して世界を救う……』
その声は震え、悲壮なものだった。