これだけ長く、これだけ広範囲に障がい者の雇用を奪っておいて、「恣意(しい)的だが意図的ではない」との結論は合点がいかない。

 中央省庁の障がい者雇用水増し問題で、弁護士らによる第三者検証委員会が調査報告書を公表した。

 国の33行政機関にヒアリングを実施した結果、28機関で3700人を不適切に「障がい者」と計上していたことが明らかになったのだ。うち国の指針で定めた障害者手帳などの所持が確認できていない人が9割に上った。

 最も多かったのは国税庁だが、障害者雇用制度を所管する厚生労働省でもルールは守られていなかった。水増し分を除くと雇用率は1・18%に下がり、法定のほぼ半分となる。

 障害者手帳などの文書を示し、法定雇用率に達していなければ納付金が課される民間からすれば、到底あり得ないことだ。

 さらにあぜんとしたのは悪質な手法である。

 亡くなった人や退職した人も計上(国土交通省)▽精神障がいの明確な基準を持たず、仕事に来られなくなった人や仕事になっていない人も加えた(外務省)▽矯正視力によるべきところを、しぐさなどから視力が悪そうな人を計上(農林水産省)

 それなのに検証委は「障がい者の対象範囲や確認方法の恣意的解釈が不適切な計上の原因」とし、「意図的に不適切な対応をした例はない」と結論付けた。

 法令を熟知している官僚が「意図しなかった」というのは、にわかには信じ難い。

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 多くの省庁で水増しの開始時期はよく分かっていないが、財務省は障害者雇用促進法の前身となる法律が制定された「1960年ごろ以降」と回答している。

 問題が放置され続けた背景には、監督機関のチェックがなく「公的機関が不正をするはずがない」という過信があったのだろう。

 中央省庁で引き継がれた勝手な解釈の裏には「障がい者にできる仕事ではない」という排除の論理が働いていたのではないか。

 報告書は誰がどのような経緯で始めたかについては踏み込まず、内容は不十分だ。法律をゆがめ、障がい者の権利を大きく損ねたというのに責任の所在もあいまいである。

 不正の全容を明らかにするためにも、きょうから始まる臨時国会で真相究明に向けた審議を進めるべきだ。  

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 再発防止に向け、政府は障害者雇用促進法を改正し、厚労省の調査権限を強化する考えを示す。来年末までに中央省庁で4千人超の障がい者を採用する計画も立てる。

 しかし省庁の中には「自力通勤」や「介護者なしでの業務遂行」を応募条件としているところがある。施設のバリアフリー化も進んでいない。 法定雇用率を優先するあまり、軽度の人に偏ったり、「数合わせ」に走ることを危惧する。

 障がい者雇用に誠実に向き合い、障がいの種類や程度に応じたきめ細かな対策を講じ、信頼回復に努めてほしい。