シロッコ手習鑑

高卒シニアが放送大学の心理と教育コースで学んでいます。人間と文化コースにも興味があります。学んだことを基に自分の考えを組み立てて伝えていきたい。

歌舞伎はどこが面白いのか・「三人吉三巴白浪」「大江山酒呑童子」「佐倉義民伝」

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(Wikipedia「歌舞伎座」より)

目次

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91歳の義母は歌舞伎が大好き

歌舞伎を観に行くことにしました。観に行くのは中村勘三郎さんの七回忌追善公演。91歳の義母の話によりますと、普段はこれほど有名な役者さんが揃うことはなく、特別な公演だからなのだそうです。

91歳の義母は歌舞伎が大好き。 歌舞伎好きが高じて、 NHKに手紙を出したこともあります。私に見せたくて録画してた「勧進帳」を間違って消してしまい、再放送をして欲しいとお願いをしたのです。

もちろん、それほど簡単に再放送はされません。  

歌舞伎名作撰 勧進帳 [DVD]

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そのとき買ったのが このDVD。でも、これとは違うと言います。義母の言っているのは「十二代目 市川 團十郎」さんが弁慶、市川海老蔵さんが富樫を演じているというのです。

義母は中村勘三郎さんの初舞台を見ています。4歳の勘三郎さんが桃太郎の役、勘三郎さんのお父さんが鬼の役だったそうで、心配そうに見ている鬼が今でも印象に残っていると言います。

それからずっと中村勘三郎さんを見て来ましたから、特別な思いがあるのだと思います。

そんな訳で「歌舞伎座百三十年 芸術祭十月大歌舞伎 十八世中村勘三郎七回忌追善」を見てきたのでした。

歌舞伎を見るなら千秋楽がいい

 義母は「見るなら千秋楽がいい」 と言います。なぜかというと、始まったばかりは役者さんが慣れていないくて、毎日公演を重ねる度にだんだんとこなれてくる、だから、理想としては千秋楽がいいというのです。

しかし、千秋楽では良い座席がとれなくなってしまいます。それは「松竹歌舞伎会」に入っていると一般より早くチケットを購入でき、千秋楽に近い良い座席は先になくなってしまうからです。

今回のチケット販売スケジュールはこんな感じです。

十八世中村勘三郎七回忌追善 10月1日(月)~10月25日(木)

  • 「松竹歌舞伎会」ゴールド会員 9月8日(土)~
  • 「松竹歌舞伎会」特別会員   9月9日(日)~
  • 「松竹歌舞伎会」会員     9月10日(月)~
  • 一般販売           9月12日(水)~

義母は新聞の芸能記事を見たのが9月25日。「松竹歌舞伎会」に入っている人は既に良い座席を確保していると思われます。

「座席は前から三列目くらい。花道の近くがいい。千秋楽は無理。土日を避けて19日あたりにしましょう」と言います。

確保できた座席は以下のとおりです。

  • 10月19日(金)昼の部
  • 1階 14列 11番
  • 1階 14列 12番

「松竹歌舞伎会」会員になるほどではないですが、なるべく早く公演情報を受け取れるようメールマガジンを受け取るよう設定しました。

桟敷席に馬蹄形劇場の雰囲気を感じた

ホールへ入る扉の横に中村勘三郎さんの遺影があり、写真を撮る人、手を合わせる人。私も手を合わせてきました。

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歌舞伎座歌の中に入るのは初めてです。感じたのはそれほど広くないということ。何年か前、井上ひさしさん作の小林多喜二を描いた「組曲虐殺」を市川文化会館で見ましたが、そのときは大きなすり鉢の底で、やっているようでした。それと比べると全体的に小さな劇場という印象でした。

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記者席のようにテーブルがあるのが一番高価な桟敷席です。これが左右にあります。

2階、3階はコの字型に1階の座席を取り囲むように配置されています。

これで思い出したのが、「舞台芸術の魅力」で聞いたヨーロッパの伝統的な劇場の話でした。そこで聞いたのは一番見やすいと思われる正面は立ち見で、使用人などの貧しい人が見る場所だったというのです。

お金のある貴族は馬蹄形の一段と高い舞台横の桟敷席でみます。そこは芝居はよく見えません。貴族は芝居を見るというよりも、自分の着飾った姿を見せるために劇場に来ていたのです。

歌舞伎座の桟敷席も横を向いていて、ひとつひとつの座席の後は濃い臙脂(えんじ)の幕で飾られています。見せることを意識した座席のように思えます。ここに美しい和服を着た人たちが並べば、さぞ壮観でしょう。

両脇の桟敷席に馬蹄形劇場の雰囲気を感じました。

歌舞伎はマイクを使わない「三人吉三巴白浪」

「吉三」と名乗る三人が出会って話が始まるのですが、出合ったところで幕。

あれ? 話はこれからなのに・・・って感じでした。

  • お嬢吉三・中村七之助
  • お坊吉三・坂東巳之助
  • 和尚吉三・中村獅童 

最初、ふたりの男が争っていて、何か奪われるところから舞台は始まりました。

これは、お坊吉三の父が将軍家から預かった名刀を何者かに盗まれるシーンなのでしょうか・・・。

ここで気が付いたのは歌舞伎はマイクを使わないということ。肉声ですから、大きな劇場の遠くの席では声が聞こえなくなります。

うーん、・・・聞き取りにくい。それに言葉が現代の話し方と違いますから、意味がすんなりと入ってこないのです。

舞台の一段高くなっているところが川岸。前はブルーシートのようなものが敷いてあって川面です。

川岸を夜鷹のおとせがやってきます。客が大金を落としたので行方を探しています。

そこへ、お嬢吉三が来て最初は優しくするんですけれども、「百両」と聞くと財布を奪いって夜鷹を川へ突き落とします。

夜鷹はぽんと川へ飛び降り、シートに出来た口から舞台の下へ消えて行きます。

そこで有名な七五調のセリフ。

月も朧(おぼろ)に 白魚の
篝(かがり)も霞(かす)む 春の空
冷てえ風も ほろ酔いに
心持ちよく うかうかと
浮かれ烏(からす)の ただ一羽
ねぐらへ帰る 川端で
竿(さお)の雫(しずく)か 濡れ手で粟(あわ)
思いがけなく 手に入る(いる)百両
(舞台上手より呼び声)御厄払いましょう、厄落とし!
ほんに今夜は 節分か
西の海より 川の中
落ちた夜鷹は 厄落とし
豆だくさんに 一文の
銭と違って 金包み
こいつぁ春から 縁起がいいわえ

 (Wikipedia「三人吉三廓初買・見どころ」より)

酷い話です。 客が大金を落として困っているのではないかと心配しているところを、女装した悪党が奪って川へ突き落としてしまう。そして、「こいつぁ春から 縁起がいいわえ」を喜ぶシーンなのです。

義母の話では、七之助はまだ若くて声が細いと言います。女装しているんだけれども、本当は男の悪党、図太いイメージがいいのだそうです。

そこに、駕籠の中からお坊吉三が、その百両をよこせと出てきます。「嫌だ」「よこせ」と争っているところへ割って入るのが和尚吉三。

和尚吉三が、争いの元となった百両をどうするか、二人をなだめながらのやり取りにユーモアがあります。

一件落着して、義兄弟の盃を結んで幕がおります。

「あれ? 」って感じでしょ。話はこれから。人情話へと展開していくようです。

この続きが見たいから、次の歌舞伎へいくそんな仕組みになっているのでしょうか。

鬼が主役の「大江山酒呑童子」

「大江山酒呑童子」とは大江山に住んでいた酒好きの鬼の頭領、あるいは盗賊の頭目のことです。

酒呑童子(しゅてんどうじ)は、丹波国の大江山、または山城国京都と丹波国の国境にある大枝(老の坂)に住んでいたと伝わる鬼の頭領、あるいは盗賊の頭目。酒が好きだったことから、手下たちからこの名で呼ばれていた。文献によっては、酒顛童子、酒天童子、朱点童子などとも記されている。彼が本拠とした大江山では洞窟の御殿に住み棲み、数多くの鬼共を部下にしていたという。 

 (Wikipedia「酒呑童子」より)

  • 酒呑童子・中村勘九郎
  • 振付・二世藤間勘祖

女の肉を食う大江山の鬼神が源頼光に退治される話。源頼光たちは持参した酒を飲ませ酔っているところを殺します。

この歌舞伎の見どころのひとつがバックの長唄囃子です。総勢30人はいるでしょうか。黄色い裃をつけた三味線、鼓、太鼓、笛の見事な演奏。

それに合わせて、鬼が踊ります。

大きな盃に酒が注がれ、鬼が両手で口元に近づけて飲もうとするとき、あまりに酒が好きな酒呑童子はニコニコと表情を変えて首を振ります。鬼の表情が急に愛想よく変わり、客席からは笑い声がこぼれます。

捕らわれていた三人の女性が踊ります。

松を背景にした舞台装置。美しく並んだ長唄囃子連中。山伏の姿をした源頼光の部下たち衣装。華やかで美しい舞台です。

不思議に思ったのは、退治される鬼が主役であること。ラストには、酒を飲んで酔って殺だれた酒呑童子が起き上がり、用意された台に乗りポーズを決めて幕となりました。

直訴をする佐倉惣五郎「佐倉義民伝」

重税に苦しむ農民のため、佐倉惣五郎が将軍への直訴をする話です。

領主堀田氏の重税に苦しむ農民のために将軍への直訴をおこない、処刑されたという義民伝説で知られる。代表的な義民として名高いが、史実として確認できることは少ない。惣五郎の義民伝説は江戸時代後期に形成され、実録本や講釈・浪花節、歌舞伎上演などで広く知られるようになった。

(Wikipedia「佐倉惣五郎」より)

  • 木内宗吾・松本白鸚
  • 女房 おさん・中村七之助
  • 渡し守 甚兵衛・中村歌六
  • 徳川家綱・中村勘九郎

物語を説明する浄瑠璃だけれど

舞台右手の高いところにブラインドのようなものがおろされた一角があり、浄瑠璃語りと三味線がいます。浄瑠璃が三味線に合わせて物語を説明するするのですが、マイクがありませんからよく聞こえません・・・。聞こえたとしても浄瑠璃の古い言葉ですから、簡単には通じないのです。

印旛沼渡し小屋の場

佐倉藩の江戸屋敷、老中への直訴をしたが受け入れられなかった木内宗吾が家族に言い会うために家へ向かいます。そのためには印旛沼の渡しを通らなければなりません。しかし、日暮れに渡し船を出すことは禁止され、渡し船は鎖と錠前で繋がれているのです。

ならず者の幻の長吉が渡し小屋にやってきます。お上の御用を伺って宗吾を捕えようとしていると甚兵衛に告げます。

対立の中で木内宗吾が説明される

甚兵衛は長吉に帰ってくれと言いますが、長吉は帰りません。甚兵衛と長吉が対立するようにして、芝居が進展します。長吉が帰らない理由を告げているうちに、木内宗吾の人なり、今までのことが説明されます。

解決の手段は外からやってくる

そこに役人が渡し船が錠前で繋がれていることを確認しに来るのですが、長吉を見て「さぼってないで、村を見回れ」と言います。

甚兵衛は長吉に帰ってくれと言うのに宗吾を待つという長吉。そのままではドラマは進展しないのですが、解決の手段は外からやって来ます。

宗吾と甚兵衛のドラマ

船を出してくれという宗吾。甚兵衛は日暮れに渡し船を出すことは禁止されていることを告げます。

宗吾が将軍へ直訴しようと知った甚兵衛は宗吾を妻子に会わせるため船を出そうとします。それでは、甚兵衛が打ち首になってしまうと甚兵衛を止めます。

ここで立場が逆転しています。

家族に会いには行かないという宗吾に、掟を破って船に乗せようとする甚兵衛。

宗吾が「達者で暮らせ」と甚兵衛をつきとばして外にでると、隠れていた長吉が小刀を持って襲いかかります。

その長吉をナタでやっつけ、さらにナタを振り上げ船をつないであった鎖を切ります。そして「乗らっしゃいませ」と無理やり宗吾を船に乗せます。

宗吾は「甚兵衛かたじけない」と甚兵衛を拝み、船が出て行きます。

木内宗吾の場

見せ場は引き留める子どもたちとそれを振り切って木内宗吾が出て行くところ。

木内宗吾裏手の場
回り舞台になっていて、舞台が回ると木内宗吾家の裏窓からおさんや子どもが分かれを告げます。

東叡山直訴の場

上野の寛永寺が舞台です。

印旛沼渡し小屋や木内宗吾の家と違って、紅葉が映え、美しく華やかです。赤い欄干の一番高いところの徳川家綱を中心に左右に裃をつけた武士が並び、欄干の下にも左手に武士がならびます。

欄干の高さが将軍の地位を、並んだ武士の数が権力の強さを表しています。

徳川家綱に訴状を渡そうとした、木内宗吾は武士に取り押さえられてしまいます。

戻ってきた家綱に「上様に直訴」という宗吾。

松平伊豆守が訴状を読みあげ、「直訴は取り上げられない」と言い訴状を懐に入れます。

あれ? 直訴は取り上げられないの? そう思ったのですが、口では「直訴は取り上げられない」と言ったけれども、訴状を懐に入れたから取り上げたということなのだそうです。うーん。

歌舞伎は視覚で楽しむもの?

筒井康隆さんが、贔屓が歌舞伎をダメにする、と書いていたのを思い出しました。歌舞伎のセリフは何を言っているかよく分からない。それでも、ご贔屓は話の内容をよく知っているから楽しめる。けれども、初めて見るひとはそれでは分からないという話だったと記憶しています。

そこで、イヤホンガイドや字幕ガイドのお世話になることになるのでしょうか。

それを借りなかったのが失敗だった?

義母は「佐倉義民伝は前進座でも出来るし、あまり歌舞伎らしい演目ではなかったね」と言います。

「大江山酒呑童子」、「佐倉義民伝」の「東叡山直訴の場」は華やかで歌舞伎らしいのではないかと思ったのですが・・・。