2012年10月19日発行 1252号

【尖閣諸島とオスプレイ/領土対立を利用する戦争勢力/紛争をあおり配備を正当化】

 米軍の新型輸送機MV22オスプレイが沖縄に配備され、訓練飛行を始めた。民主主義を踏み にじる暴挙に人びとの怒りが高まる中、「オスプレイは尖閣諸島の防衛に役立つ」との言説がさかんに流布されている。日米の戦争勢力がオスプレイ配備をはじ めとする軍拡を正当化するために、尖閣問題を利用していることは明らかだ。

「尖閣防衛」のウソ

 野田佳彦首相は8月27日の参院予算委員会で、オスプレイについて「有用性もしっかり訴えないといけない。こういう厳しい状況で、南西方面の防衛力、抑 止力を考え、沖縄とコミュニケーションをしていくことも大事だ」と述べた。尖閣諸島の領有を主張する中国へのけん制になるとの観点から、沖縄配備に理解を 得たい考えを示したものだ。

 読売新聞も同様の主張をしている。「見過ごしてならないのは、オスプレイの優れた機能による在日米軍の抑止力の強化である。(中略)尖閣諸島をめぐる中 国との軋轢(あつれき)が高まり、今後も中長期的に続く恐れがある中、日米の防衛協力を通じて、南西諸島の離島防衛や北東アジアの安定に貢献しよう」 (9/20社説)

 このように、尖閣問題と結び付けてオスプレイの沖縄配備を正当化する言説が最近目立つ。「防衛」という言葉にごまかされてはならない。オスプレイは殴り 込み部隊である海兵隊の輸送を目的とした侵攻用兵器なのだ。

 オスプレイの売りは何か。行動半径の大きさである(約600㎞。空中給油をすれば約1100㎞)。輸送機の航続距離が長ければ、海兵隊は強襲上陸作戦を 行う際に艦載機を目標に近づけなくてもいい。対中国で言うと、中国軍の対艦攻撃用ミサイルが届かない距離からオスプレイを使った侵攻作戦が可能になる、と いうわけだ。

 オスプレイの沖縄配備は明らかに米軍の中国封じ込め戦略の一環である。戦略上価値のない尖閣諸島の「防衛」など米軍の眼中にはない。

 「在日米軍の侵攻力を向上させることが尖閣を狙う中国への抑止力になる」といった意見もあるだろう。だが、そのような論理で軍拡を進めていけば、中国も 対抗措置をとるだろうから、この地域の軍事的緊張は高まる一方だ。一歩間違えれば本当の武力衝突に発展しかねない。

武器購入迫る米国

 もっとも、軍拡を狙う勢力にとっては日中が軍事的緊張関係にあることは好ましい事態である。というより、連中は軍事力増強に合意を取り付けるために尖閣 をめぐる争いを焚(た)き付けている。

 まずは米国だ。アーミテージ元米国務副長官らが8月に公表した日米同盟に関する報告書は、日米両国は台頭する中国の脅威に直面していると主張。「特に日 本は…尖閣諸島を事実上の『核心的利益』と位置付け、海軍を増強している中国軍との偶発的な衝突に備え、米軍と自衛隊の相互運用能力を高めるべき」と強調 した(8/16産経)。

 昨年3月に沖縄侮蔑発言で更迭されたケビン・メア元米国務省日本部長はより露骨に語っている。「日本は中国の脅威に対処するために、さまざまな手を打た なければなりません。…具体的に言えば、制空権をとるためにF35戦闘機の調達計画を加速、拡大してイージス艦を増やし、先島諸島に自衛隊の駐屯地を作っ て、海上保安庁の偵察能力を向上することです」(『文芸春秋』10月号)

侵略軍化狙う日本

 こうした米国の要求を日本政府は仕方なく聞き入れているのではない。日本側も自らの軍事的野心を実現するために、「尖閣カード」を有効に使っている。そ の象徴的な事例が、「離島防衛」を名目に、海から陸に攻め上がる海兵隊的な能力を自衛隊に持たせようという動きだ。

 すでに陸上自衛隊は沖縄の米海兵隊と共同で、「離島奪還」を想定した訓練をグアム島で行なっている。来年度予算の概算要求には水陸両用強襲車(兵士25 人を運べ、重機関銃を搭載)の購入費を盛り込んだ。さらに政府は、自衛隊の訓練拠点を米国領テニアンに設けようとしている。

 「殴り込み」を主任務とする海兵隊の能力を自衛隊に持たせるなんて、「専守防衛」の原則を完全に逸脱している。どこからみても憲法違反だ。そのような暴 挙が「我が国固有の領土を守れ」の掛け声の下、大した議論もないまま進められている。

 日本の支配層にとって、自前の軍事力を海外で行使できる体制を作ることは積年の課題であった。憲法と世論が実現を阻んできたその願望を、彼らは尖閣問題 =中国脅威論を利用して成し遂げようとしているのである。

   *  *  *

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、来年度に打ち上げる予定の観測衛星を使って領海監視を行うことを検討しているという。もはや「尖閣を守れ」と言え ば、何でもありな状況になってきた。尖閣問題を戦争勢力の「打ち出の小づち」にしてはならない。軍拡競争は民衆にとって何のメリットもない。  (M)


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