台湾の人情食堂
#70
漢字一文字で台湾料理を見分ける方法〈2〉
文・光瀬憲子
台湾は漢字圏なので、看板でもメニューでも文字を見ればだいたいの見当はつく。前回に引き続き、今回も食堂や夜市などで漢字一文字で台湾料理を見分けるコツをご紹介しよう。
酥→サクッとした
パン屋さんでときどき見かける「酥(スー)」という字はサクッとしたパイのような食べ物を指す。例えば「酥餅」ならサクッと丸いお菓子。そう、クッキーやビスケットだ。
「酥皮」という名前がついていたら「皮がサクサクしてるんだな」と考えればいい。台湾の代表的なお土産、パイナップルケーキは台湾名を「鳳梨酥(フォンリースー)」と言うが、中にパイナップル(鳳梨)が入っているサクッとしたお菓子という意味だ。
鳳梨酥(フォンリースー)
甘いものだけではなく、屋台メニューにもこの字は使われている。例えば台湾人が大好きな夜食「鹽酥雞(イェンスージー)」は塩味のサクサクした鶏肉、という意味。聞いただけでビールが飲みたくなってくる。鶏の唐揚げに限りなく近い料理だが、鶏肉以外にいろいろなものをサクッと揚げた揚げ物を総称して「鹽酥雞」と呼ぶ。
鹽酥雞(イェンスージー)
粿→お腹にたまる、モチモチの軽食
「粿(グオ)」という字は日本ではあまりなじみがないが、台湾ではよく見かける。米偏がついていることからもわかるように、米の粉やもち米の粉を練って作った食べ物、という意味だ。
米粒が見えないほどよく練られているので、米が使われている感じがしない。夜市ではあまり見かけないが、ランチや午後の軽食として台湾人に愛されている「碗粿(ワッゴエ)」という食べ物は、「粿」料理の代表格だ。米の粉を練ったものを肉や卵、野菜とともにお椀の中に詰めて蒸した料理で、最後に甘辛い醤油ダレをかけていただく。かなり腹持ちがいい。
碗粿(ワッゴエ)
また、「芋粿(ユーグォ)」は粿に芋をプラスして、ほんのり甘くしたおやつ。かつてはどの家庭でも作られていた伝統料理だが、昨今ではあまり見かけなくなった。
芋粿(ユーグォ)
條→一条、両条と数える長細いもの
「條」という漢字は「条」の旧字体。中国語では「一本、二本」と数えるときの数詞に使い、「一條、両條」となる。
つまり、この漢字が使われるのは細長い形をした棒状のもの。前項の「粿」と組み合わせた「粿條(グオテャオ)」という食べものは、米の粉を練って作られたきしめん風の太麺のこと。
粿條(グオテャオ)
観光客にもおなじみの細長い棒状揚げパンは「油條(ヨウテャオ)」だ。油で揚げた棒、ということになる。
油條(ヨウテャオ)
料理名ではないが、台北には「五條通」「六條通」などと呼ばれる通りがあるが、これは日本時代の名残り。かつて「五条通り」「六条通り」と呼ばれていたものがそのまま使われている。
包→包んであるもの
人気の小籠包の「包」という字は日本語と同様「包む」という意味。日本でもおなじみの、いわゆる肉まん、あんまんは、台湾では総称して「包子(バオズ)」と呼ばれている。これをさらに中身の具によって「肉包(ロウバオ)」、「菜包(ツァイバオ)」、「紅豆包(ホンドウバオ/あんまん)」というように区別して呼ぶ。小籠包(シャオロンバオ)はその名の通り、小さな籠に入れて蒸した包子のこと。
小籠包(シャオロンバオ)
肉まんを蒸し焼きした生煎包(シェンジェンバオ)
ちなみに、台湾の肉まんは丸い形で、中央にギュッとシワが寄っている。野菜まんは丸ではなくしずく型をしていて、中央に縦にシワが寄っている。そして、あんまんなどの甘い餡がはいったものは丸くてシワがない。
包むのはまんじゅうばかりではない。「蛋包飯」は何だか想像がつくだろうか?「蛋」は前回登場したタマゴ。ご飯を卵で包むこの料理は日本風オムレツだ。台湾人が大好きな日本料理のひとつである。
漿と醬→実はちょっと意味が違う
「豆漿(ドウジャン)」は日本人旅行者にもおなじみの豆乳。どこの街でもよく見かける豆漿店は、台湾人にとっての朝の憩いの場だ。温かい豆乳、冷たい豆乳、塩味の豆乳などのほかに、焼餅と呼ばれるサクサクパイやたまごクレープの蛋餅などが定番メニュー。
豆漿の「漿」は汁や液体という意味があるため、豆漿はまさに豆の汁ということになる。
豆漿(ドウジャン)
ほかにも米から作られた米漿、アーモンドから作られた杏仁漿などがある。
一方、漿と同じ「ジャン」という発音だが、漢字が少し違う「醬」は、タレのように味が濃く、ドロッとした調味料を指す。醤油がその一例だ。紛らわしいが、台湾料理には豆醬という調味料がある。大豆から作られた味の濃いタレで、煮込み料理などに使われる。炸醤麺(ジャージャーメン)もタレがかかった麺、という意味だ。
大豆系のタレで煮込まれた客家料理、豆醬燒豆腐(ドウジャンサオドウフ)
紅燒 vs 清
味付けを表す漢字で覚えておくと便利なのが「紅燒(ホンサオ)」と「清(チン)」。「紅燒」は醤油煮込みの黒っぽいスープ、清は透明なスープや塩味を指す。豚の角煮や黒っぽいスープの牛肉麺(ニョウロウミェン)などは紅燒だ。たっぷりの醤油で長時間煮込んだもので、味がしみている。
一方、「清」が付く調理法は「清蒸(塩蒸し)」、「清燉(塩煮込み)」などあっさりした味付け。牛肉麺の専門店では「紅燒」と「清燉」の両方を出すところも多い。
牛肉麺(ニョウロウミェン)の紅燒(左)と清燉(右)
清蒸魚(チンジェンユー)は魚の姿蒸しのこと
(つづく)
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著者:光瀬憲子 1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/ 近況は→https://twitter.com/keyword101 |