女子教育が世界を救う/畠山勝太
9月中旬にOECDの「図表でみる教育」が出版されました。毎年この季節になるとこの報告書から日本に関するデータがフィーチャーされて巷を賑わせます。今年、最も興味深かったのは「日本は大学で学ぶ金銭的なメリットの男女間格差が先進諸国で最大」という報告の原因についてネットで色々と言及されていた点です。
そこで今回はOECDのデータを紹介するとともに、その原因に関する議論の問題点を指摘したいと思います。
大学で学ぶ金銭的なメリットの男女間格差
図1は、男女別の大学で学ぶ金銭的なメリットを示しています。ほぼ全ての国で、女性が大学で学ぶ金銭的なメリットは、男性のそれを下回っています。この現象の原因について報告書は「この現象の原因には様々な要因が存在する。例えば女性の低い賃金、低い雇用率、パートでの雇用の多さ、男女間での大学の専攻の違いなどが挙げられる。安価で質の高い幼児教育が利用できるかどうかも女性の労働参加の結果(雇用率や賃金などー筆者補足)に影響を与える」といった解説をしています。
日本のデータを見ると、女性が大学で学ぶ金銭的メリットはほぼ無いばかりか、男女間格差は先進国で最大となっています。報告書はこの結果について次のように解説しています。
「日本は男女間格差が最も大きく、その差は13倍にもなる。日本では税制と労働市場の構造が、女性の大学で学ぶ金銭的なメリットを引き下げる傾向がある」
「税制?」「労働市場の構造?」と不思議に思う読者が多いかもしれません。しかし、本連載の熱烈なファンの方なら、本連載はすでにこれらの問題について解説してきたことを思い出すのでないでしょうか(きっとそんな人はいないと思いますが…)。
日本の女性は教育の恩恵を社会に手渡し過ぎている
去年の10月に「日本の女性は教育の恩恵を社会に手渡し過ぎている」という記事を執筆しました。詳細はぜひもう一度記事を読み直して頂きたいのですが、ここでは要点のみまとめます。
2017年の「図表でみる教育」によれば、日本の大学教育の私費負担額は約1300万円と、世界で最も重たいものになっています。その一方で、女性が大学教育を受けることによって日本政府は約1600万円のメリットを受けています(例えば、大学教育で知識やスキルを得ることによって、大学卒業者の生産性が向上し、大学卒業者の平均賃金が高校卒業者よりも高くなり、政府が累進的な課税をかけている場合、大学卒業者の納税額は高校卒業者よりも多くなるので、日本政府の税収も高くなります)。この金額はOECD諸国で29番中10番目と飛びぬけて多いわけではありません。しかし日本政府は、国民が大学教育を受けられるようにするためのお金をほとんど出していません。アメリカの場合、学費が高い一方で、れっきとした「奨学金」を政府がかなり出しているので、個人の負担は思ったほどには重くありません。日本の場合、学費はアメリカほど高くない一方で(大陸ヨーロッパと比べれば高いですが)、教育ローンでしかない「なんちゃって奨学金」を主に使っているので、個人の負担が重くなります。つまり日本政府は、国民に教育費の大半を負担させる一方で、そのアガリだけは他国以上に持って行く、「個人の努力にタダ乗り」しているのです。
そして、政府の個人の努力にタダ乗りする割合が男女間で大きな差があることも日本の特徴です。先進国では、男性の方が納める税金の額が多い一方で、政府から受け取る支援が少ないので、男性の方が女性よりも大学教育を受けた恩恵を政府に手渡す割合が高い傾向があります。しかし日本はこのようなトレンドから大きく離れ、女性は男性の3倍以上の比率で大学教育を受けた恩恵を政府に手渡しているのです。このことは、女性のひとり親への支援が少なく、シングルマザーの貧困問題が大きな社会問題となっていることからも読み取ることができると思います。
「図表でみる教育」はこうした日本の現状をみて、税制が原因のひとつであると指摘したのでしょう。
1 2