サウジ記者殺害事件が米英政治の波乱要因に

人々の想像力をかきたてる、トルコ当局の「情景描写」

2018年10月23日(火)

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 サウジアラビア政府を批判してきた著名記者ジャマル・カショギ氏の殺害について、国際社会が厳しい批判の目を向けている。カショギ氏は10月2日に婚姻の手続きをするために、トルコ・イスタンブールにあるサウジ総領事館に入館した際に殺害された。カショギ氏は、独裁色を強めるムハンマド・ビン・サルマン皇太子に批判的な記事を執筆していた。

トルコ・イスタンブールにあるサウジアラビア総領事館で殺害されたジャマル・カショギ氏。欧米メディアでの露出が多かった(写真:AFP/アフロ)

 当初、サウジ政府はカショギ氏は総領事館を立ち去ったと説明していた。だがその後、トルコメディアや欧米メディアによって次々と殺害の詳細が報道されていく。BBC(英国放送協会)は時系列で事件を追ったり、殺害に関わったとみられる15人を分析したりして特に報道に力を入れている。

 サウジの国営メディアは20日、カショギ氏が総領事館で争いになり死亡したと報じ、サウジ政府は関連する政府高官の更迭を発表した。21日にはサウジ外相がサウジ関係者によるカショギ氏の殺害を認めた。だが、説明に矛盾点は多く、国際社会は不信感を募らせている。

 本当に記者を殺害したとすれば、それは許しがたい暴挙だ。だが一方で、サウジ国内では多くの反体制派の人物が拘束されているという冷めた見方もある。

 今回、これだけ世界的な注目が集まっているのには3つの理由がある。1つ目は、カショギ氏が欧米メディアでの露出が多く、一般のサウジ人と比べて「身近」な存在だったことだ。同氏は米紙ワシントン・ポストにコラムを持っていた。死後に最後の原稿が掲載され、強烈な印象を残した。また殺害の数日前にはロンドンでのイベントに登壇し、その映像が繰り返し放送されている。

 2つ目はトルコ検察当局のリークを基にした報道の影響だ。エルドアン政権に近いメディアが、政府当局者の情報として殺害の詳細を報じている。それは人々の想像力をかきたてるような内容だ。

 「身体を切断した」「殺害中は仲間に音楽を聞くように促した」「殺害の音声が録音されている可能性がある」。こうした情景描写に加え、カショギ氏がサウジ総領事館に入っていく映像が繰り返し流されると、視聴者は否が応でも残虐な殺害シーンを想像してしまう。

 想像力は強烈な力を持つ。繰り返し流れるカショギ氏の映像は今回の事件の残忍さだけでなく、サウジ国内で起きている問題についても、多くの視聴者の関心を呼び起こした。従来よりサウジの問題を身近に捉えるようになった人も多いようだ。

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「サウジ記者殺害事件が米英政治の波乱要因に」の著者

大西 孝弘

大西 孝弘(おおにし・たかひろ)

日経ビジネス記者

1976年横浜市生まれ。「日経エコロジー」「日経ビジネス」で自動車など製造業、ゴミ、資源、エネルギー関連を取材。2011年から日本経済新聞証券部で化学と通信業界を担当。2016年10月から現職。2018年4月よりロンドン支局長。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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