王都を後にしたペロロンチーノはリ・エスティーゼ王国を出る事にした。
次に目指すのは活気があり、周辺国では強国とされるバハルス帝国だ。
カッツェ平野まで向かう街道の宿を利用しながら数日かけてカッツェ平野までやってきた。
ある宿屋では主人がここ数日間は通るのを避けた方が良いなどとしきりに引き留めたが、いまのペロロンチーノは資金に不安があり、いち早く帝国について稼ぎたかった。
もちろん、宿屋代が勿体ないというのも理由だったが。
カッツェ平野にはアンデッドが出没し、中には幽霊船のようなものの目撃情報もあるらしい。
まあ、警戒にこした事はないだろうが、あのまま王都で人間と悪魔の戦いに巻き込まれるよりはマシだろう。
とにかくカッツェ平野を通り過ぎてしまいさえすれば帝国は目と鼻の間の距離なのだ。
さっさと通り過ぎてしまおう、そう気楽に考えていた。
ただ、毎年恒例の王国と帝国との会戦がまだ行われていない為、そろそろ注意しなくてはならないらしい。
これだけ広い土地だから、近寄らなければ巻き込まれる事はあるまい、そうタカをくくっていた。
どんどん街道を歩いていくと、遥か彼方に王国軍の旗差物がずらっと並んでいた。
その遥か向かいには同じように帝国軍の旗差物が並んでいた。
全体の数はどうやら王国軍の方が多いようだ。
ペロロンチーノは彼らに近づかないように街道を進んだ。
異変は突然起きた。
なにやら風向きが変わったというか、風がやんだというか、やたらと重苦しい空気が流れてきて、ペロロンチーノは不安に感じた。
と、帝国軍の頭上で大きな魔法陣が展開している。
何度かユグドラシルで見た事がある魔法陣、おそらくは超位魔法の“黒き豊饒への貢”だと思われた。
マズい。マズいぞ。これはマズい。
ペロロンチーノは背を向けて走り出した。
どうやら魔法自体はユグドラシル時代と全く同じなようだった。
ペロロンチーノは振り向く事なく全力で走った。
やがて聞こえてくる山羊のような鳴き声。
ペロロンチーノは見なくてもその鳴き声の正体を知っていた。
ユグドラシルではいつでも傍観者であり、味方の放つ魔法だった。
しかし今現在ペロロンチーノが直面しているのはまさに目の前の恐怖以外のなにものでもない。
なんてこった!なんでこんな所に来たんだろう?よりによって俺が出くわしたタイミングでこんな超位魔法をぶっ放さなくたって良いじゃないか。
ペロロンチーノはもはや泣きそうだった。
グチャグチャグチャグチャ!
なにやら踏みつけながら黒山羊がやってくる。
きっとあっという間に追いつかれてしまうだろう。
そして跡形もなく肉団子と化してしまうのだ。
イヤだ。イヤだ。絶対イヤだ。
こんな事ならユグドラシルをやらなければ良かった。
積みゲーを消化していれば良かった。
ペロロンチーノは泣き出していた。
ああ、お願い。たすけて、神さま!
いつしかペロロンチーノは頭を抱えてうずくまっていた。
一歩も歩けない。
捨て鉢な思いで顔を上げると、あたりはただの静寂が支配していた。
理由はわからないが黒山羊は追ってきていない。
どうやら助かったらしい。
ペロロンチーノは神に感謝しつつ自らのもつ強運を確信した。
ここで物語の分岐
一つのエンディングとして
※ペロロンチーノの災難 original end~モモンガによろしく~※
へ続く