王都はまさに戦場と化していた。
一角を炎の壁で切り取られ、そこはまさに魔界のように無数の悪魔やアンデッドの軍勢が闊歩していた。
キーノならばこの状況を説明してくれる筈、なにしろこの事態を予測したかのような忠告までしていたのだから。
しかしながら王都のあちこちを探してもキーノの姿はなかった。
街の噂では今回の騒動を鎮圧する為国王みずから兵士を動員して、元凶の悪魔を討伐するらしい。
事に当たっては冒険者組合もバックアップするというから、キーノも忙しいのだろう。
本来ならば魔術師組合に所属しているペロペロ―ペロロンチーノも参加しないとまずいのだが、今回、怪我を負った事にして前線に出ないですむようにした。
ちなみに“不死王”デイバーノックはモモンガではなかった。
彼ら六腕はことごとく悪魔に殺されてしまったという。
もし、モモンガだったらそんな悪魔程度に倒されるはずはないし、もし危なくなっても彼にはワールドアイテムがあるのだ。
それでもペロロンチーノは他のギルドメンバーがこの世界に存在している可能性を信じていた。
ある種の願望でもあったが。
とりあえず情報だ。
情報が欲しかった。
下手に動いて命を失うのは避けたい。
ペロロンチーノはキーノと連絡がつくまで自重する事にした。
酒場でようやくキーノの姿を見つけたのはその三日後だった。
『しばらくいろいろあってな、ここに来れなかった。すまない。』
言葉の割に悪びれた様子がないのはいつもの事だ。
キーノはこれまで王都で起きた事件を語った。
この街の暗部、八本指が悪魔ヤルダバオトの探しているマジックアイテムをこの街に持ち込んだらしく、それを探しにヤルダバオトが破壊行為に及んだという。
幸いアダマンタイト級冒険者、漆黒と蒼薔薇を中心にした冒険者と王国兵士達によってヤルダバオトを追い払う事が出来たそうだ。
なんだか“漆黒のモモン”の活躍をさも見てきたかのように熱く語る様にはちょっとひいてしまったが、流石は情報通のキーノだと感心させられた。
ペロロンチーノはキーノの最後の言葉にショックを受けた。
『しかしながらヤルダバオトは倒された訳ではない。まあ、当分は姿を見せる事はないが、もし現れたとしてもモモン様が今度こそ倒してくれるだろうな。』
どうやら近いうちに争いに巻き込まれる可能性があるらしい。
せっかく王女とのロマンスを夢見てこのリ・エスティーゼ王国に来たが、その為に命を失っては元も子もない。
しばらく王国を離れるか……ペロロンチーノは際限なく“漆黒のモモン様”の雄志を誉めちぎるキーノをぼんやり見ながら考えていた。