気がついたのは地下牢みたいな場所だった。
かなり高いところに鉄格子がついた窓が一つ。
天井に扉みたいな細工があるからおそらく二階のヒルマの部屋からそのまま落ちてきたらしい。
どれ位気を失っていたのか判らないが、窓から差し込む日光はかなり明るく、もう昼近くのようだった。
外部への出入り口は一つだけ。
頑丈な鉄製のそれには下部にスリットが開いていて、どうやらそこから食事等を出し入れするものだろう。
つまり、ペロロンチーノは監禁部屋にいる、というわけだ。
どうやら八本指の奴隷売買の組織に売り渡されるのだろうか。
男でも需要があるとは…と思ったが、自分が現在、男装してはいるが女だった事を思い出した。
(まずい…まずいだろ…このままじゃ…)
(落ち着け…落ち着け俺。…考えるんだ。何か道があるはず。)
ペロロンチーノはふと、キーノの忠告を思い出していた。
(明日はどう、とか言っていたな。つまり今日、今か…何があると言うのだろう?)
頑丈な鉄製の扉が開けられ、二人の男達が入ってきた。
『さあ、兄ちゃん。アンタはラッキーだったな。ヒルマ様が思し召しだそうだ。ま、出荷前の味見みたいなもんだな。』
二人の男達に両側から抱えられてペロロンチーノは昨日のヒルマの部屋に連れてこられた。
『どうだい?寝心地は良かったかい?……私の寝心地も良いと良いのだけれども。』
舌なめずりをするような様子でペロロンチーノを眺めていたヒルマは急に表情を変えた。
『!!!ッあ、アンタ女かい?』
どうしてかペロロンチーノが女だと見破られたらしい。
『直ぐに女達を送る部屋にコイツも押し込めておきなさい。』
ペロロンチーノは叫んだ。
『ま、待ってくれ!実は不死王デイバーノックは多分昔の知り合いなんだ。確認してみてくれないか?“エロゲ大王”のペロロンチーノと言えばわかると思う。』
ヒルマはしばらくペロロンチーノを見つめていたが、やれやれという風に両手を広げた。
『やれやれ。もしそれが本当ならゼロの奴に大きな貸しを作っちまう。まあいいさ。確認出来るまで別の部屋に入れておきな。』
男達はペロロンチーノを連れ出した。
ペロロンチーノは普通の客間のような部屋に移された。
(もし、デイバーノックがモモンガさんなら助かるが…違ったらどうしよう……とりあえず果報は寝て待て、か。)
ペロロンチーノは開き直り、ベッドに大の字に飛び込んだ。
どれくらい経ったのだろうか?
妙に静かだった。
まるで建物が無人のように静かだった。
ふと、扉の向こうでカサカサカサという音が聞こえた。
音は大きくなってくる。
そして器用に扉が開けられ虫のようなムカデのようなものがワサワサと入ってきた。
ペロロンチーノはじっとしていると虫達は死体と思ったのだろうか、ペロロンチーノを沢山のムカデが背に乗せて運び出した。
ペロロンチーノが運ばれた先は死体が沢山積まれた場所だった。
どうやら先程のムカデ等の虫達が建物の外に順番に運び出しているらしい。
建物内はおそらく虫達によって全滅なようだ。
ペロロンチーノは虫達に運ばれて外に出られるタイミングを待った。
この虫達に肉団子を作る習性がない事を心から祈りながら。
※ ※ ※
想像を絶する苦労の末、なんとか建物の外に出た。
建物の上では激しい戦いをする物音、通りのあちこちには悪魔のようなモンスターが徘徊していた。
一角には真紅の炎の壁が立ち上がり、なにが起きたのか全くわからない。
ふと、キーノが忠告めいた事を言っていたのはこの事かもしれないな、と思った。
ほうほうの体でペロロンチーノは逃げ出した。
もはや助かる事しか頭の中にはなかった。