キーノから聞いた八本指や六腕の情報は、彼女自身の主観もあるだろうが“悪のシンジケート”といったものだった。
うーん…悪の魔王ロールプレイのモモンガさんはともかく、たっちさんがそんな事するのは納得いかないが…それともアンデッド等の異形種を守るといった使命があるのだろうか?
いくつか教えてもらった情報の中で比較的接触し易そうなヒルマという幹部の館を訪ねてみる事にした。
別れ際、キーノは警告めいた一言を呟いた。
『明日は…やめておけ。』
ヒルマの館は王都の郊外にあり、武骨な荒くれ者達が警護していた。
門番も兼ねたその男に事情を話してヒルダに面会を求めた。
しばらくして男は手をヒラヒラさせながら戻ってきた。
『ダメだな。ヒルマ様はお忙しい。ま、気が向いたらそのうち、アンタの会いたいという六腕の拠点は教えてやるかもしれない、とさ。』
ペロロンチーノは肩を落として踵を返した。
(やれやれ。門前払いか……ま、仕方ないよな。どこの馬の骨かわからないような輩が犯罪組織の幹部が同郷の知り合いだから合わせてくれっていっても無理だろう。仕方ない。六腕についてまたキーノに聞いてみるか…』
不意に上から呼びかける声がしたのでペロロンチーノは見上げてみた。二階の窓から女がペロロンチーノを呼んでいる。
『ペロペロってのはアンタかい?結構可愛いお兄さんじゃないか。気が変わった。アンタの欲しい情報をあげるから入ってきな?』
やや、年増ながらまだ妖艶な雰囲気を残す女―ヒルマに誘われるまま、ペロロンチーノは館に入っていった。
※ ※ ※
中世風のゴージャスな雰囲気の部屋に招かれたペロロンチーノは身を固くした。
入り口で緊張した様子のペロロンチーノにヒルマは声をかけた。
『そんな所に突っ立ってないで、こちらにお座りよ。それとも何かい?なんか違う事でも期待してるのかい?』
正直にいえば、ペロロンチーノは少し期待してしまっていたが、それは男の性なので仕方ない。
ペロロンチーノは女の向かいの席に腰掛けた。
『早速ですが、六腕の、あの…』
ヒルマは手を降ってペロロンチーノの話を遮った。
肩から腕にかけての蛇の入れ墨が妖艶にうねる。
『野暮な子だね?まあ、まずは何か飲んだらどうだい?』
ペロロンチーノは目の前のグラスを取り、一気に飲み干した。
ヒルマの眼が妖しく光り、ペロロンチーノの様子をじっと観察していたが、何か動揺した様子で慌てて言った。
『あまり効かない… …なんでもないさ、こっちの事。せっかくだからもう一杯どうだい?』
ペロロンチーノはまたもや飲み干したが、どうやら女の期待する事は起こらなかったらしい。
『じゃあ、教えてあげようかねっ!』
不意にヒルマは部屋に下がっていた紐を引いた。
と途端に床に空間が開き、ペロロンチーノは暗闇に堕ちていった。
『ふん。手間かけさせる。素直に痺れ薬で転がっちまえばよいものを。まあいいさ。男でもこれだけの上玉なら高い値が付くだろうよ。誰かコッコドールの所に知らせておやり。奴に貸しを作ってやろうじゃないか。』
彼方から浴びせられるヒルマの高笑いの中、ペロロンチーノの意識は遠のいていった。
(ああ…恐怖公の罠でなくラッキーだった。やっぱり俺はついて…)
ペロロンチーノは気絶した。