10兆円ファンドで孫会長が抱えたサウジリスク

サウジ記者殺害事件がソフトバンクグループの経営に暗雲

2018年10月23日(火)

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 ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長が、10月23日からサウジアラビアの首都リヤドで開催される未来投資イニシアチブ(FII)に出席するか否かに関心が集まっている。FIIはサウジで強大な権力を持つムハンマド・ビン・サルマン皇太子が世界の投資家などに呼びかける会議で、今回で2回目となる。

 トルコ・イスタンブールのサウジ総領事館内で著名記者ジャマル・カショギ氏が殺害された事件を巡り、ムハンマド皇太子が関与した疑惑が浮上したことで、既に多くの政府関係者や経営者がFIIへの参加を見送っている。

 米JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEO(最高経営責任者)や米ブラックストーン・グループのスティーブン・シュワルツマン会長、ドイツ銀行幹部、スイス・ABB幹部が欠席を決めたほか、米ゴールドマン・サックスも幹部の派遣を取りやめた。国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事やムニューシン米財務長官も出席を見送る。三菱UFJ銀行は三毛兼承頭取が欠席するが、吉川英一副頭取が代わりに出席する。一方、英メディアによると英防衛・軍需企業のBAEシステムズはFIIに参加する見通しだという。記事を執筆した22日18時時点では、孫会長が出席するか否かをソフトバンクグループは明らかにしていない。

サウジアラビアのムハンマド皇太子とソフトバンクグループの孫正義会長兼社長は、密接な関係を築いてきた。(写真:Bandar Algaloud/Saudi Kingdom Council/Abaca/アフロ)

 孫会長はムハンマド皇太子を口説き、17年にサウジの資金力を基盤とした10兆円規模のソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)を立ち上げた。1号ファンドはサウジ系の公共投資ファンド(PIF)から450億ドル(約5兆円)の出資を受け、破竹の勢いで米ウーバーテクノロジーズや米ウィーワークなどに巨額投資をしている。

 孫会長はムハンマド皇太子と「運命共同体」と呼べるほど密接な関係を築いている。孫会長は諮問委員会の委員を務めるなどFIIについては主催者に近い。ムハンマド皇太子に近いPIF取締役のヤシル・アルルマヤン氏はソフトバンクグループの取締役を務めるなど深い関係を築いており、孫会長は難しい判断を迫られている。

 既に孫会長は、SVFの「2号ファンド」の設立に言及している。呼応するようにムハンマド皇太子はSVFに追加出資することを表明している。だが、ムハンマド皇太子が殺害に関与したと認められれば、SVFの2号ファンドの設立が難しくなるとの見方がもっぱらだ。

 SVFのCEOはソフトバンクグループ副社長のラジーブ・ミスラ氏で、拠点はロンドンにある。資金の出元はサウジであっても投資先は主に欧米企業であり、投資スキームは欧米で構築している。欧米のステークホルダーの監視下では、ムハンマド皇太子が新たな出資をすることも難しくなるかもしれない。

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「10兆円ファンドで孫会長が抱えたサウジリスク」の著者

大西 孝弘

大西 孝弘(おおにし・たかひろ)

日経ビジネス記者

1976年横浜市生まれ。「日経エコロジー」「日経ビジネス」で自動車など製造業、ゴミ、資源、エネルギー関連を取材。2011年から日本経済新聞証券部で化学と通信業界を担当。2016年10月から現職。2018年4月よりロンドン支局長。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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