ほうほうの体でエ・ランテルから逃げ出してたペロロンチーノは二日二晩ひたすら街道を走り続けた。
やがて街道の途中で旅籠を見かけたので立ち寄る事にした。
頭からスッポリと赤いフードをかぶり、顔を見せないようにして中に入る。
念には念をいれた訳は、どうして自分がヴァンパイアだとバレたのかわからない為だった。
万が一顔にヴァンパイアらしさがあるのであれば顔を見せるのは得策ではない。
多少不審に思われるかもしれないが、ヴァンパイアだとバレるよりはマシだからだ。
とにかく、だ。
何がいけなかったのかわかるまでは自重しなくてはならないな。
この世界でも異業種は忌み嫌われる存在だという事は魔術師組合で見聞きした話でわかった。
だから“ヴァンパイア―もしくはアンデッドらしく見えないように”行動してゆかなくては。
旅籠のテーブルに座り、軽食と飲み物を頼む。
これからの事を考えるとあまり金を使いたくないのだが、仕方ない。
ペロロンチーノは机の上に小さな皮袋を置くと眺めた。
中には数える程の硬貨が入っているだけだ。
さて…どうしようか?
考えようによってはこれはチャンスかもしれない。
なにしろエ・ランテルに戻る以外の選択肢は無限にあるのでもある。
だったら好きな所に行き、好きな事をしても良いだろう。
ただしアンデッドだとバレないようにとの注意は必要だが。
あれこれと思い悩んだ末に、ペロロンチーノは噂に聞く“黄金の姫”がいるリ・エスティーゼ王国の王都に向かう事にしたのだった。
ペロロンチーノの豊富な体験―もっぱらアダルトゲームの世界だけだが―によれば“彷徨える旅人”ペロロンチーノと美しいが不遇の“黄金の姫”との間に試練や行き違いといったイベントが発生し、やがては結ばれるというのが王道のストーリーなのである。
……………ゲームの中では…
この世界はもしかしたら単なるペロロンチーノの夢であるかもしれない。
そうでなくとも現実にこの世界には美しい王女がいるのだから、夢ぐらい見ても構わないだろう。
夢想?妄想?大いに結構。それこそ誠の漢の道。
ペロロンチーノは自分が現在ツャルティア・ブラッドフォールソ―ヴァンパイアで性別は女性―である事を忘れてまだ見ぬ黄金の姫に恋い焦がれるのだった。
ペロロンチーノはいささか高揚した気分で二階の宿屋として貸し出されている中の自分の部屋へ戻っていった。
『明日は朝早くから出発するとしよう。』
※ ※ ※
ペロロンチーノが自分の部屋へ戻っていくのを見て、立ち上がった一人の男がいた。
ウェーブのかかった髪に顔が隠れ、表情は見えない。
腰に下げた細身の刀剣―南方の国の刀という武器らしい―に手を重ねてペロロンチーノの後をつける。
ペロロンチーノの泊まっている部屋を確認するとまたテーブルにもどり酒を煽るのだった。
※ ※ ※
※ ※ ※
ブレイン・アングラウスは息を呑んだ。
『!!!シャルティア・ブラッドフォールン?』
あの惨劇の夜にほうほうの体で逃げ出して王都へ向かう途中、たまたま立ち寄った旅籠であの化け物と遭遇するとは…
赤いフードに顔を隠していたが、彼女が入ってきた時に直感した。
忘れるはずがない。
最初は自分を追ってきたのかと思ったが、どうやらそうではないようだ。
シャルティアが部屋に戻ったのを確認すると、ブレインは酒を飲み干し急いで支払いを済ませて旅籠を出発した。
今にもあの化け物が追っかけてくる不安に脅えながら。
※ ※ ※
※ ※ ※
番外編 モモンガLV100
※ ※ ※
ユグドラシルサービス最終日。
この日はギルドメンバーが数人ではあるが来てくれた。
引退して久しいメンバーは残念ながら来てもらえなかったのは残念だったが仕方ない。
皆、忙しいのだろう。
ただ、不思議な事があった。
円卓にギルドメンバーが出現した知らせは他に2件あったのだ。
まあ、最終日だからシステムのエラーかも知れない。
現在残っているギルドメンバーの最後の一人、ヘロヘロは仕事が終わってからと言っていたから、きっと深夜になってしまうだろう。
もしかしたら最後を一緒に迎えられるかもしれないと思えばそれも良いだろう。
モモンガはぶらぶらとあてなくナザリック内をさ迷っていた。
今日は仕事を休み、朝からユグドラシルにログインしている。
考えてみたら久しぶりだな、こんなにノンビリするのは。
その代わり明日は4時起きでの仕事になってしまったが、今は考えたくない。
楽しかった。
このナザリック、ギルド アインズ・ウール・ゴウンで過ごした日々が本当に楽しかった。
楽しかったんだ。
いつの間にか第六階層にやって来ていた。
ここには双子の階層守護者がいたな。ダークエルフの。
作成者はぶくぶく茶釜。
ペロロンチーノの実の姉だ。
二人はかつての九人、ナイン・アウンゴールからのギルドメンバーだったな。
メールを出してみたが結局来てもらえなかったか。
せっかくだから二人の代わりにダークエルフの双子の顔でも見ていくか。
モモンガは扉を開けた。
『ん?アウラ…いやマーレだったか。うん?』
目の前に立つダークエルフの少女のスカートが気になった。
何気なくついスカートの中が気になって近づいた瞬間、頭に強い衝撃を受けた。
モモンガの意識は暗闇に沈んでいった。