中央省庁での障害者雇用の水増し問題を巡り、国の検証委員会が22日に公表した報告書で、国の指針を踏まえないずさんな運用実態があらわになった。約10年前の退職者やすでに亡くなっていた人を計上していたほか、「うつ状態」の職員を身体障害者と判断したケースもあった。報告書は「恣意的に解釈し、不適切な実務を継続させた」と厳しく指弾した。
法定雇用率に算入する障害者かどうかは、国の指針では障害者手帳や診断書など障害を認定した書類が不可欠となっている。だが各行政機関では「独自の実務慣行」が行われていた。
中央省庁の中で不適切計上の人数が全体の3割となる1103人で最多だった国税庁では、うつ病、適応障害、統合失調症など精神疾患の職員について手帳を保有していないのに内部機能障害として「身体障害者」として計上。うつ状態や「適応障害の一歩手前」とされた職員も同様に計上していた。
不適切計上が629人で国税庁に次いで多い国土交通省では、毎年引き継がれた名簿をもとに障害者を計上して手帳を確認しないだけでなく、退職や出向も確認していなかった。2017年の時点で退職者は74人、出向者は7人おり、退職者の中には約10年前の退職者や死者も3人いた。
法務省は「障害者の就業が難しい」として法定雇用率の算入対象外となっている刑務官と入国警備官のうち109人を障害者として計上。同省は「対象外と知っていたが実態として障害があり、刑務官が別の仕事をすることもあるので計上してよいと考えた」などと説明しているという。
総務省、環境省、農林水産省、特許庁では視覚障害者の不適切計上がほとんどを占めた。視覚障害者は眼鏡やコンタクトレンズなど矯正視力で0.1以下が対象なのに、裸眼で0.1以下の職員を計上していたという。外務省では不適切計上の146人中108人が精神障害者に偏っていた。
全ての機関は「意図的なものではない」と検証委の調査に説明した。だがこうした恣意的な対応や障害区分の著しい偏りについて、検証委は「長年引き継がれてきたとの言い訳は許されるはずもない」と批判した。
さらに検証委は、算入対象だった職員が退職した場合、多くの場合はすでに雇用している職員の中から新たに選定していたことに注目する。
「雇用後に障害者となるケースはあるが多くはないはず」としたうえで「法定雇用率を充足させるため職員から選定して不適切に計上してきたことがうかがえる」とし、「不適切な実務慣行を放置し、継続させてきたことが基本的な構図」と断じた。
検証委は報告書で「国の行政機関は法の理念を理解し、民間事業主に率先して取り組むべきことは当然の責務」と指摘。「障害者雇用を促進する姿勢に欠け、相当数の不適切計上があったのは極めてゆゆしき事態」と総括した。
国の検証委員会の松井巌委員長(元福岡高検検事長)は22日、「決して弁明が許されるものではない」と非難。「障害者雇用への意識が低く、組織としての緊張感とバランスが著しく欠如していた」と指摘し、再発防止を求めた。