よく誤解されるのだけれども、ぼくは実は地上波テレビの応援団だ。


 良い番組ができて、多くの人に見られるのならば、これほど素敵なことはないと思う。

 

 公共の電波だからこそ、大切に使いたい。

 

 しかし、現状では地上波テレビの劣化はすさまじい。


 ぼくが子どもの頃に見ていた地上波テレビに比べて、今のテレビは、タレントたちの馴れ合い、内輪話、汚いテロップ、内容の低さなど、本当に劣化してしまっている。

 でも、それは、ぼくのようにないものねだりの人ばかりが文句を言っているのかと思っていた。


 マーケット的には、まだ、見ていらっしゃる方がいるのかと思った。


 でも、必ずしもどうやらそうではないらしい。


 特に、若い世代のテレビ離れが衝撃的である。


 先日、心から驚いたことがあった。中学生と話していたら、「明石家さんま」さんを知らなかったのである。

 「それ誰ですか?」と言った彼は、即座にスマホで調べていた。

 若い人は、知らない人はすぐにスマホでググる習性がある。

 「ああ、こういう人がいるのですね。」

 絶句せざるを得ない。

 彼は、テレビは一切見ないのだという。

 動画を見たり、ゲームをやったりする。


 また、ある、中高一貫校にうかがった時のこと。

 全校生徒2000人くらいに、まず、「朝の連続テレビ小説、半分青いとか、まんぷくとか見ているひと?」と聞いたら、だいたい10%くらいが手を挙げた。


 ひょっとしたら、朝、学校に出かける前に、お母さんが見ているのを横から見ているのかもしれない。


 続いて、大河ドラマ『西郷どん』を見ている人、と聞いたら、その結果があまりにも衝撃的だった。

 なんと、2000人中、たった「一人」しか見ていなかったのである。


 があん。


 その子は、まるでいけないことをしているかのように控えめに手を挙げている。


 ぼくが子どものころ、大河ドラマは背伸びしても見るべきものだったのに。。。


 大河ドラマを見ているのが、中高生2000人のうち、たった一人なんて。


 時代は、すっかり変わってしまったのだ。 

 大切な知人、友人の林真理子さん、中園ミホさんが力を入れている作品だけに、この結果は衝撃だった。


 たまたまその学校がそうだった可能性もあるし、裏番組は見ていて、地上波自体からはそこまでは離れていないのかもしれないけれども、とにかく一つのサンプリング地点ではこんな結果だった。


 もちろん、大人たちは『西郷どん』を見ている。

 ある場所で聞いたら、だいたい20%くらいの方が見ていた。

 これは発表されているいわゆる「視聴率」とほぼ一致するのだろう。


 一方で、子どもたち、若い世代の中に、地上波を一切見ない人たちが台頭していることも事実である。


 (ビデオリサーチによる「視聴率」調査は、テレビに一切触れない、テレビを持たない世帯は調査対象になっていないから、その実態がきわめてあやしい)


 そのような「テレビ離れ世代」は、テレビに出ていて、古い価値観では「有名人」でも、ネットで話題になっていなければ知らない。


 テレビのゴールデンでレギュラーを持っている人でも、「テレビ離れ世代」には全く知られていない人たちがいる。

 (ネットで話題になるようなタイプの人ではないと、ネット上では存在しないのと同じである)。

 一方、はあちゅうさんやイケハヤさんは知っているのだという。

 ウーマンラッシュアワーの村本さんや、オリラジの中田さんは、地上波からは「干されている」そうだが(一部ネットニュースによると)、ネット上での知名度、存在感は、おとなしくして、事務所の受けもよく、つまりはテレビ村の住人となって、地上波でレギュラーを持っているが、ネットでは全く話題にならない人たちよりも遥かに高い。

 特に、若い世代にとっては。


 地上波の衝撃の凋落。

 今のところ、まだ、上の世代のお客さんで「持つ」のだろうけれども、子どもたち、若い世代が見ないとなると、将来的にはきつい。


 冒頭にも書いた、劣化している地上波の文化を根底から変えないと立ち直りは難しいかもしれない。

 特にタレントの馴れ合い、内輪話。そして、事務所のゴリ押しは、ネット世代にとっては遠い世界のおとぎ話(しかも全く興味のないおとぎ話)でしかないだろう。


 一方、希望もある。

 地上波テレビで放送されている「深夜アニメ」は、子ども、若者たちに圧倒的に、熱く支持されているのだ。

 彼らと話す度に、私は「どんなアニメが好き?」と聞く。


 すると、タイトルすら知らなかったようなアニメがどんどん出てくる。


 『ご注文はうさぎですか?』

 『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』

 『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』

 『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』


 などなど。


 アニメによっては、全校生徒の80%くらいが見ているものもある。


 これらのアニメのタイトルを、大人たちの多くは全く知らない。(時々、知っている大人がいて、子どもたちがどっとウケるけれども)。


 『魔法少女まどか☆マギカ

 『けものフレンズ

くらいメジャーになって、初めて一部の大人たちの耳に届くのだろう。


 子どもたちから若い世代にとって、地上波テレビとは、極論すれば、深夜アニメを流すための媒体である。


 では、深夜アニメの何が彼らのハートを熱く掴んでいるのかと言えば、やはり、企画、制作で世界観、オリジナリティを追究して、作画の方々が(忙しくて時々「作画崩壊」を起こしながらも)一生懸命つくり、声優の方々もいい仕事をして、クオリティの高いものをつくっているからだろう。


 その前の時間帯に見られる、タレントの馴れ合い、内輪話、事務所のゴリ押しといった「悪しき地上波文化」が深夜アニメにはない。


 大河ドラマを見ているのが2000人に一人だったり、明石家さんまさんの名前を知らない中学生がいたり、地上波テレビのネット世代における凋落は衝撃的だが、深夜アニメに見られるように、きちんとしたコンテンツをつくれば、まだまだそこに希望があると言えるのだろう。


 凋落の衝撃と、一方での希望と。


 一生懸命つくったものが、これからの時代を生きる若い世代に届いていないって、ほんとうにつらいし、きつい。


 まだまだ、テレビにはできることがあるはずだ。


 テレビ関係者の、奮起を期待します。

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