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群大、カルテの自由閲覧システム導入へ…院内端末を自分で操作
手術死の続発を教訓にした改革の一環として、群馬大学病院は来年1月にも、入院患者が自分の電子カルテを自由に閲覧できるシステムの運用を始める。一連の死亡例では患者への説明やカルテ記載の不備が問題になっており、患者参加型で情報共有を進め、医療の安全や質の向上を目指す。こうしたシステム導入はほとんど例がなく、国立大学病院で初の取り組みだ。
このシステムは2016年7月に公表された第三者の事故調査委員会が報告書で提言した。同病院は電子カルテ更新が予定されていた21年10月をめどに検討するとしていたが、改革のため前倒しで導入を決めた。
新システムにより、登録した患者やその家族は、電子カルテ上の医師や看護師による記載内容、検査結果や画像などを自分で端末を操作して見られる。閲覧には病棟ごとに設置した端末を使い、無料とする。
個人情報保護法に基づく開示請求はどこの病院でもできるが、自分で端末を操作する方式は珍しい。似たシステムを亀田総合病院(千葉県)が02年から運用中だが、他の国立大学病院に読売新聞が問い合わせたところ、導入例はなかった。
国の情報公開・個人情報保護審査会委員を務め、カルテ開示の問題にも詳しい森田明弁護士は「実践例があまりないなかで群馬大で導入される意義は大きい。患者との信頼関係を構築するために、少なくとも国立大学病院では標準とすべきだ」と指摘する。群馬大病院は「患者が自身の状態や治療方針・経過を逐次確認できることは、医療者との相互理解を深め、医療の安全にも寄与すると考える」とコメントした。
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【解説】記載充実させ情報共有を
群馬大病院が入院患者との電子カルテ共有を実現する。運用すれば課題も出てくるだろうが、少しずつ改善し、他の病院にも広がるシステムに育ててほしい。
一連の死亡例では医師のカルテ記載が乏しく、医療者同士の連携や後の検証を困難にし、遺族の不信を増幅させた。診療経過の記載が不十分なら新システムの意義も薄れる。患者参加型のチーム医療は、情報共有あってこそ。その点は留意が必要だろう。
事故調査報告書でも、同病院の経験が日本の医療を変革することへの期待が記された。改善に向けたたゆまぬ努力は、地に落ちた評価をいつか反転させる。それは患者の死に報いることでもある。
(医療部 高梨ゆき子)