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【神奈川】<2017かながわ 取材ノートから>座間アパート殺人事件 死より変化 望んだ被害者
座間市のアパートで十月、十五~二十六歳の男女九人の遺体が見つかった。これほど多くの若い命が理不尽に奪われた理由を少しでも明らかにしたいと、被害者の遺族や友人、白石隆浩容疑者(27)=殺人容疑などで逮捕=を知る人たちの取材を続けた。 被害者の経歴や肩書はさまざま。高校卒業後七年間、自宅に引きこもり、四月にアルバイトを始めたばかりだった横浜市の女性(25)、海外でのライブを夢見て福祉施設で働きながらバンド活動に打ち込んだ横須賀市の男性(20)…。遺族らに話を聞くと、それぞれ悩みや将来への不安を抱えながらも前に進もうとしていた確かな命の輪郭が見えてきた。 取材中にたびたび頭に浮かんだのは「会ってみたら本当に死にたいと思っている人はいなかった」という白石容疑者の供述だ。被害者は自殺願望を書き込む会員制交流サイト(SNS)で白石容疑者と知り合っていた。ただ、それは決して死を望んだのではなく、現状を変えたかっただけなのだ。身勝手な犯行に怒りが抑えられなかった。 犯行の動機や白石容疑者の人物像は依然としてはっきりしない。わずかなお金のために九人の未来を奪ったとはどうしても考えられず、白石容疑者の自宅周辺を取材しても、一様に「おとなしくて印象がない」との答えが返ってくるだけだった。 そうした中、小学生の頃に毎日のように互いの家を行き来したという幼なじみの男性(27)の「優しいやつだった」との言葉が印象に残った。男性がいじめられ一カ月ほどクラスメートから無視された時、白石容疑者だけはこっそりトイレや帰り道で話しかけてくれた。「事件は今でも信じられない。裁判の前に一度、直接話がしたい。なぜあんなことをしたのか俺には本当のことを言ってほしい」 事件発覚から間もなく二カ月。警視庁が動機の解明などを進める一方で、政府や専門家らはSNSの利用法を検討するなど、再発防止策について議論を進めている。「『死にたい』は『助けて』の裏返し」「見知らぬ人に本音をさらけ出せる場所も必要」と指摘する声もある。思い悩む人たちの居場所を確保しつつ、いかに犯罪から守るか。社会全体が重い課題を突き付けられている。 (加藤豊大)
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