vaporwaveとヴァーチャルプラザのポップアート | CAHIER DE CHOCOLAT
October 21, 2018

vaporwaveとヴァーチャルプラザのポップアート

テーマ:translation
[ORIGINAL]
Comment: Vaporwave and the pop-art of the virtual plaza
Published: 12/07/12
https://www.dummymag.com/features/adam-harper-vaporwave



Comment:vaporwaveとヴァーチャルプラザのポップアート

ハイディフィニションの資本主義アイコンを利用するアンダーグラウンドミュージシャンにについての2部編成の特集、その第1部。ビジネスクラスラウンジミュージックの台頭とデジタルの煙を販売すること、Adam Harperがこれらを読み解く。

これは2部編成の特集の第2部にあたる。第2部、ダークサイドのムーブメントについてはここで読むことができる。こちらも楽しんでもらいたい。

全世界的な資本主義がすぐそこまできている。その世界の終わりには、お金と直結した広告と執拗なまでの欲求しかないだろう。私たちの身体から出ていった何ものにもしばられない感覚は、汚れのない人工的な環境を通り、エスカレーターに乗り、エンドレスで運ばれていく。人間以上に人間以下に、引っぱり上げられ引っぱり下ろされ、触媒作用によって変化し、感覚情報が絶えることのない豊かな経済に消費され、ピクセルによって価値を決められる。ヴァーチャルプラザはあなたを歓迎する、そして、あなたもヴァーチャルプラザを歓迎するだろう。

21世紀のハイパー資本主義、その最もぞっとするような芸術的感覚の技術的、商業的フロンティアを探求するポップアート。これはそこで起こる新しい内紛によって残酷なまでに高解像度(ハイディフィニション)で放送される世界だ。躁状態でカフェインを摂取した時のにやっとした笑いを浮かべて、あるいは、企業内圧力やミラーシェード(またはその両方)の後ろに不可解に隠されて、Fatima Al QadiriJames FerraroGatekeeperINTERNET CLUBNew Dreams Ltd.といったミュージシャンやそのほか多くのアーティストたちがテクノロジー資本主義の不穏で不快に論理的な連鎖における次のステップを描き出している。彼らは資本主義をなめらかに動かす音楽を流し、とてつもなく大きくてよそよそしい荘厳なものへの扉を開き、ディストピアをユートピアにゆがめたり、ユートピアをディストピアにゆがめたりし、そして、あえてあなたの気に入らないふうにするのだ。

それは資本主義への批判だろうか、それとも、資本主義への降伏だろうか? どちらでもあり、どちらでもない。これらのアーティストたちは、現代のテクノロジーカルチャーとその表現のウソとズレを暴く辛らつな反資本主義者だと取ることもできる。あるいは、それをいとわずやる者として、快いサウンドの新しい波への喜びに震えているのかもしれない。かつてある感情を言い表したことばで、最近、資本主義の哲学者たちの間で広がっている実践行動を彼らの音楽に当てはめることができるだろう。それは加速主義だ。加速主義とは、資本主義によってもたらされた文明の解体には抵抗すべきでないし、また、抵抗できない、むしろ、究極の結末といえる狂気と秩序なく流動的な暴力に向かって、より速く、より遠くへと押し出されるべきだ、という考え方である。これは自由であるからであり、革命を起こしているからであり、解体が唯一の論理的な答えだからである。20世紀の大陸の哲学者たち、ジャン=フランソワ・リオタール、ジル・ドゥルーズ、フェリック・ガタリの作品の中でも散見する声であるが、1990年代、イギリスの哲学者、ニック・ランドによって最も徹底的、かつ、驚くほどにまで探求された。ランドが参照したものの中には、ウイリアム・ギブスンのサイバーパンクフィクションや『地獄の黙示録』のウィルター・E・カーツ大佐などがあり、その悪夢にうなされるような哲学は、切れ切れの鋭い流れの中に学問と芸術を一緒に溶け込ませており、あとから考えると恐ろしくなる予言の絵画のようだ。「人生は新しい何かの中へと段階的に消えてゆく」とランドは1992年のエッセイ『Circuitries』で述べている。「そして、それを止められると思うならば、私たちは自分で思う以上に愚かだ」

これらのミュージシャンの無政府主義の資本主義ポップは、私たちがそれを皮肉や風刺だと思って聴こうと、真の加速主義者だと思って聴こうと、ランドのビジョンのサウンドトラックのようなものだ。未来を恐れるよりも“拍手喝采”すべきだと考えているFerraroは、彼のアルバム『Far Side Virtual』で最初の警告といえるものを出している。『Far Side Virtual』とそれより前に録音されていたEP『Condo Pets』は、パソコンの時代、Appleのデバイスでいっぱいのカバンの時代のための、テクノ資本主義の人気を促進する音楽の寄せ集めだ。そしてそれは、かつて私たちをブランドとテクノロジーの可能性でわくわくさせたキッチュなものへと立ち向かわせる。しかしFerraroはすぐに、次に出たBEBETUNE$BODYGUARDのミックステープで、もっとみょうで、もっと悪意を感じさせるような、もっと官能的なものへと変化していった。その一方で、小さなグループがゆるやかにつながった状態のアンダーグラウンドのアーティストたちがFerraroと同じ、かなり賛成派の領域に集中していたが、彼らはFerraroとの関係はなかった。彼らは、Hippos in TanksBeer on the RugUNO NYCといったレーベルやニューヨークを拠点とするアート/ファッション雑誌“Dis”の周辺に多く現れた。

そのムーブメントは“post-lo-fi”と呼ばれた。“post-retro”と呼ばれることも多かった。Ferraro、Gatekeeper、Outer Limitz、INTERNET CLUB、New Dreams Ltd.など、これらのミュージシャンの多くはhypnagogic popやchillwaveといったレトロであったり、lo-fiであったり(両方の要素を持っていたり)するジャンルでいっせいに活動を始めた。しかし現在では、くぐもった数年前をかいま見ることを現在や近未来の映画的高画質のきらめきと交換し、まったく逆のことをやって、それを終わらせてしまっている。以前は半寝の状態だったり、ただのんびりしていたが、今や彼らはすっかり目を覚まし、そのシステムには精神刺激剤が流れているのだ。BODYGUARD、Fatima Al Qadiri、*E+E * Jam Cityなどのアーティストの中には、パスティーシュ(模倣)を超えて、新しく抽象的で方向性の定まらない官能主義へと入り、冒険的になっているものもいる。しかしまだlo-fiアンダーグラウンドの世界観の中にいるアーティストも多い。本物で、体温のある、草の根的な音楽制作が、トップダウンで、安っぽく、つるつるして人間味のないテクノロジカルなメインストリームと競争させられている世界なのだ。これらのアーティストたちがやっていることはみな、文化的対峙者を風刺することによって、この敵対心の意義を強調することだ。おそらく、吸収し、充当するという資本主義の雑食性が強かったため、本物を守ることはもはや不可能だと感じられるし(結局FacebookはInstagramを買収した)、加速主義のポップはlo-fiで、アヴァンギャルドで、攻撃的なものであり続けている。これは、この音楽が出てきた文脈を考えるとはっきりしている。アイドルグループHDBoyzのこびたようなチャートポップナンバーは“本物”と違わないように聞こえるかもしれない。しかしその時、HDBoyzはDis magazineで特集されており、ニューヨーク近代美術館でパフォーマンスしていたことを知るのだ。

この音楽を、さらに遠回りしたlo-fi、retroとして考えることもできる。この音楽は、究極的には、現在のテクノロジーとカルチャーの最先端にある音楽でさえ常に、すでにすたれたものになっていっているのだということを私たちに思い起こさせる。今日のHDは明日のlo-fi、今日のウルトラポップモダンは明日のオールドスクール。これらのミュージシャンたちが、こういう絶対的に不可避なことやくだらないことを暗に言っていることもよくある。『Far Side Virtual』までのJames Ferraroのアルバムの多くは、印象主義的な過ぎ去った時代のlo-fiポートレイトだった。おそらく『Far Side Virtual』では、現在をそのままに表現し、そして、長い時間をかけて自然に行きつくところまで行かせ、自分に代わって時間に熟成させることに決めたのだ。10年、20年と時間が経ってもう一度聴くと、それは皮肉なことに、それ自体が未来主義の加速の被害者で、今では10年前の牛乳パックと同じ程度の最先端具合だということがわかるのかもしれない。

この潜在的な加速主義ポップが資本主義のビジネスの行なわれるスペースを満たし、また新たに作り出す。それは表現のイノベーションやプロパガンダに関する動機づけとなるセミナーであり、そういったスペースを人工的に目的あるものにする雰囲気で満たされている。かつてはmuzak、あるいは、loungeと呼ばれていたかもしれない音楽が流れる空間は、今やそのもともとの場所よりも広がり、輝きを増し、より接続され、そして、より人間味がないものになっている。今明日、資本主義はどこにでもある。テレビ、電話、私たちの心の中にも。けれども、オフィスのロビー、ホテルのレセプションエリア、そして、まず何よりもショッピングモール、そういったパブリックスペースとの接点のキラキラ輝く神殿以上に神聖なものはない。この音楽はプラザ(広場)に属している。それは文字通りであり、メタファーでもある。リアルであり、イマジナリーでもある。パブリックスペースは、限りない社会的、経済的交流の中心地であり、最大限のアクティビティとスペクタクルのシーンなのだ。もしくは、プラザはかつては公共で共有のスペースだった、と言ったほうがいいのかもしれない。最近では、プラザは個人的に使われ、人々はそこでイイモノにお金を使うためにやってくる。今やプラザということばは、スターバックス、Pret A Manger(*サンドイッチのチェーン店)、YO! Shushi(*日本食のチェーンレストラン)で区切られた商業ブロックの間にある、企業協賛の大理石の一角を思い出させるものとなっている。あるいは、可愛らしい奴隷のように働く人々のいる、三ツ星が輝くホテルやノートルダムをもしのぐ、残響が鳴り響く圧巻の、資本主義の大聖堂を。しかしそこでは、群がる買い物客たちはそのサウンドに夢中になってはいなかった。香港のセントラルプラザ、ドバイのミレニアムプラザホテル、バンコクのパンティッププラザ、ニューヨークのタイムズスクエア、ロンドンのカボットプレイス、東京の渋谷、上海のナンジンロード。つまりこれらの場所は、機動隊が民主化を提唱する人々のテントを撤去する場所、または、まもなくそうなる日がくるであろう場所だ。

アートポップにおけるこの理論上の加速主義の時代精神はふたつに分かれていると考えられる。テーマ的に、成り立ち的に、ここまでで述べたことすべてが、そのどれにも関連しているとしてもだ。ひとつめは、INTERNET CLUB、New Dreams Ltd.、また、Beer on the Rugなどのレーベルに関係した多くのアーティスト代表される“vaporwave”と呼ばれるもの、これから話すものだ。ふたつめは、Fatima Al Qadiri、BEBETUNE$、BODYGUARD、Gatekeeperなど、この記事の第2部で語られるものだ。

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vaporwaveという名前は、ブログやLast FMのタグの群れの中からミステリアスにはい出してきて、制作している多くの人たちの間ではすでにおなじみだが、hypnagogic popの進化における次の段階である。多くの方法において、hypnagogic popとは逆だが、hypnagogic popとvaporwaveは連続した分布領域の両端だと考えたほうがいいだろう。hypnagogicとvaporwaveはどちらも、テレビやどこかのBGMなど、くだらないとされる音楽に対する異常なまでの執着を見せる。次々に流れてくる快活でドリーミィな音楽、それをエンドレスループにして、ドローンで引っぱり、こま切れにしてくり返す。hypnagogicとvaporwaveはともに、“スクリューする”ということばでも表わされるように、スローダウンしたり、ピッチを下げたり、その両方を行なったりして、なんだかわからなくなるように操作し、不可思議な感じにするのを好む。最終的に、hypnagogicもvaporwaveも、ガラクタのような浅くて捨てられるに決まっているものを、時に神聖なものや不可解なものにするという不気味な傾向がある。

しかしそこには違いもある。hypnagogicが1970年代から1980年代の音楽を使用するのに対して、vaporwaveは1990年代初頭以降の、現代につながってくるものを使用するのが典型だ。hypnagogicはテープのヒスや極端にくぐもった高周波で明確にlo-fiだったが、vaporwaveはデモディスクをプレイしている真新しいエンタテインメントシステムのように透き通っていてクリアであることも多い。hypnagogic popのトラックは長さが長く、トランス状態に誘うようであることが多かったのに対して、vaporwaveは短くカットアップされたもので作られている。トランス状態を引き起こすのと同じだけ何度もそこから出る衝撃を与える感じだ。hypnagogic popは綿密なパスティーシュ(模倣)を目指したが、それでもやはり新しい曲は作曲された。vaporwaveはほぼ完全に、間に介入する者を飛ばして、サンプルを使用している。とはいえ、hypnagogic popとvaporwaveの特徴の間の境界線はあいまいだ。先に述べたように、このふたつには連続性があり、両者のスタイルの多くの例がどちらともいえないようなものとなっている。そしてもちろん、この連続性などといった話は音楽的な活動を見るためのひとつの方法であり、その美学に対するひとつの見方にすぎない。それらは単にスタイルを作るもので、あいまいなパターンであり、並びであるだけだ。そういったものは見えることもあれば、見えないこともあるし、異なったアングルやスケールで見れば常に違って見えるのだ。

典型的なvaporwaveのトラックは全体的にシンセサイザーで作られているか、企業のイメージソングなどをかなり圧縮したかたまりで作られており、明るくていたってまじめだったり、ゆっくりでなまめかしかったりする。シンクから抜き出したもの、機能という点を超えているもの、ほかに例を見ないようなもの、わずかに不穏な雰囲気を持つものであることもある。ミステリアスで、たいがいはインターネットの中に隠れた、無名の存在によって制作されている。ニセの企業名やウェブサイトを装ったものであることも多く、その楽曲はMediafire、Last FM、SoundCloud、Bandcampからのフリーダウンロードであることが典型的だ。vaporwaveではフィジカルなものが制作されることもある。インターネット時代やhi-fi時代の、病的ともいえるような驚きのアートで飾られたカセットテープやCD-Rだ。vaporwave周辺のことばや文(アーティスト名やトラックタイトルなど)はほとんどがどう考えても大げさでひどく注目を集めたがっているような大文字で、漢字やひらがなカタカナが使われることもよくある。それらは不可解で(少なくとも私を含むほとんどの西洋人にとって)、世界中のテクノ資本主義の放送電波が入り込み、誰かよその人々に向けてのいつものビジネス放送が聞こえているみたいな、そんな感覚を強調している。典型的なvaporwaveのzipファイル(お望みならアルバムも)は、vaporwaveがモダンで、意欲をそそり、ムードを作れる音楽を集めたものであるというイメージを打ち出している。情報を提供するCMやメニュースクリーンや機内の安全確認ビデオやビジネスパークのプロモーション映像やロビーでのドリンクパーティにはパーフェクトだと言っているかのように。

なぜvaporwaveという名前なのだろうか? テキサス州の北東部在住で、インターネットの住民であり、INTERNET CLUBという名義で活動するRobin Burnettはこう言う。「このジャンルの音楽の多くは霧に覆われた環境を思い出させるんだ。すべてが難解で不可解な場所を」そして、「不可解であることは基本で、死んている時さえある」と付け加えている。霧の要素はスクリューなどのlo-fiなエフェクトで引導されることが多い。しかし、“vapor (*原文ではvapour表記)”の意味はこれで終わりではない。“vaporwave”と一文字違いで、強くそれを連想させる“vaporware”ということばがあるのだ。テクノロジー企業が行なうソフトウェアやハードウェアのプロジェクトなど、ごく限られたところでのみ使われることばだ。発売が発表されたものの、かなり時間が経っても実際には発売されなかったもののことを指す。そういったことから、vaporwaveでは、延期された、あるいは、実現が悲劇的な結果になったものということになっているのだ。しかし、顧客の注意を引いておいて、ライバル企業よりも先に次のベスト商品を提供すると見せかけるために、実際には発売するつもりがない商品を発売予定品ということにしているという、その意図的な偽物について、vaporwaveは言及しているともいえる。すると、資本主義の広告とPRでの約束が市場の傾向から生まれたあからさまな詐欺となっているということになる。それゆえに、vaporwaveは“selling smoke(煙を販売している)”のである。

昇華、精神分析学における概念やエネルギーの本質的な変形を描く美学は、個体を気体に変える物理的過程の名称である。“vaporwave”という名前は、「all that is solid melts into air(形あるすべてのものはどこへともなく消えていく)」というカール・マルクスの『共産党宣言』からの有名なフレーズを思い出させるものでもある。これは、変化し続ける社会はブルジョアの資本主義の下に位置づけられているということを意味している。文脈の中で、この引用はほとんど、すたれていくことは不可避であるということに関連した加速度原理資本主義の信条の一部となっている。そして、vaporwaveアーティストたちの批判がこだまする。「生産のたえまない変革、あらゆる社会状態のやむことのない動揺、永遠の不安定と運動は、以前のあらゆる時代とちがうブルジョア時代の特色である。固定した、さびついたすべての関係は、それにともなう古くてとうとい、いろいろの観念や意見とともに解消する。そしてそれらが新たに形成されても、それらはすべて、それが固まるまえに、古くさくなってしまう。いっさいの身分的なものや常在的なものは、煙のように消え、いっさいの神聖なものはけがされ、人々は、ついには自分の生活上の地位、自分たちの相互関係を、ひややかな眼で見ることを強いられる」
(*参考文献:マルクス・エンゲルス 『共産党宣言』 (岩波文庫))

Robin Burnettは、企業BGMを人々が注目して聴くところへと引っぱり出すことからわかるように、資本主義社会の関係性において、疎外というものが実際に存在しているということを明らかにしたいと考えている。私は、Last FMというデジタルの未開の地をあちこち歩き回っていた時にINTERNET CLUBという彼のペルソナに偶然出会った。それからすぐに、彼のバックカタログがフリーダウンロードで置いてあったAngelfireのページを見つけた。彼が別の名義も使っていることもすぐにわかった。Web 2.0の途方に暮れるほどの数のサイトを通して彼を追ったのち(かつてはストーカーとされていた行為は今や良いインターネット消費者の衝動だ)、私はついに彼のメールアドレスを見つけ、どういった人がvaporwaveを作っているのかを知ることができた。

メールでのBrunettは、本質的には加速主義者というよりも、むしろ、はっきりとした反資本主義者だった。シチュアシオニストのムーブメントに関係していたり、1968年の抗議運動の美学とイデオロギーに関連があったりするそのフランスの思想家を参考にしながら、「INTERNET CLUBでは、身の回りの品々を通して示されるような、限りない理想の時代に焦点を合わせることによって、この資本主義社会がどのように人間性を失わせるハイパーリアリティを発生させたのかについて、ギー・ドゥボール的なことをやりたいと思ったんだ。社会がハイパーリアルな状態に入っていくのを見ていて、そして、それがどうなってしまうのかということ、それがINTERNET CLUBでやっていることの一部でもある」と彼は言う。INTERNET CLUBのトラックにはストックミュージック(著作権フリー音源)や企業のYouTube動画からの音楽が使われている。それらの音質をいくぶんか下げて、リバーブ、圧縮、グリッチ的なループなどのエフェクトを加える。それを「慣れすぎていて気づかないものの異化」としてアーカイブする。企業文化は現代社会を「妥協とニセの約束という名目を借りて、公正であることを否定する」社会にしていっている、と彼はまとめる。

INTERNET CLUB(人目をひく多くの名義とは異なり、ちょうどよく故意に計算されていない感じがうまくいっている)には、『MODERN BUSINESS COLLECTION』、『NEW MILLENNIUM CONCEPTS』、『REDEFINING THE WORKPLACE』といったzipアルバム、“AS DREAMS GO BY”、“NEVER LOG OFF”、“TIPS AND TRICKS FOR THE NEW WEB MARKETER”、そして不気味な“BREATHE IT IN”などのトラックがある。INTERNET CLUBの前には、BrunettはDatavisという名義で超lo-fiで表在論的なダストスケープを制作しており、影響を受けたものとしてテープコンポーザーのPhilip Jeckの名前を挙げている。また、別のプロジェクトには、hypnagogic popのDatavision Ltd.(Datavision Ltd.は、テープレーベルHexagon Recordingsの共同オーナーであるLeonce Nelsonとのコラボレーション)、ECCO UNLIMITEDとしての長いlo-fiテープのvaporwave、░▒▓新しいデラックスライフ▓▒░としての、明らかに日本のテレビ番組から取ってきたと思われるスプーキーでぶつ切りの断片からなるzipフォルダ『▣世界から解放され▣』がある。『▣世界から解放され▣』は、Oneohtrix Point Neverの『Replica』へのトリビュートのような作品だ(『Replica』は一番好きなレコードの1枚だとBurnettは言っている)。

「サイバースペース。ついにきたのだ。要求する機械が発する耳ざわりなテクノバズによって傷つけ汚された社会の末期的シグナル。肯定的なフィードバックがどんどん早送りしていき、スピードは人工的に消滅した時間の事情の地平線で合流する」
—— ニック・ランド『Machinic Desire』(1993)

2011年上旬、RangersやMatrix Metalsのやっていたことに習うアーティストたちとともにBeer on the Rugはhypnagogicレーベルとしてスタートしたが、Boy SnacksとMidnight Televisionのミニアルバムから少しずつvaporwaveに向かって変化していっていた。ところが、2011年7月、New Dreams Ltd.でhi-fiに着地した。それは、Windows 95時代のハイエンドシンセサイザーのスタジオ録音で満たされており、輝く極東の女性とさざ波を立てる青い海、イタリック体のTimes New Romanフォントの文字で飾られたカセットテープだった。vaporwave関連のもうひとりのキープレイヤーであるNew Dreams Ltd.は、以前はVektroidとしてchillwaveからvaporwaveまで、さまざまな音楽を制作していた。New Dreams Ltd.は、現在、オレゴン州ポートランドを拠点としている匿名のプロデューサーによる、サンプルベースのリリースをする数多くの名義の総称だ。(それらすべてを集めたTumblrページはこちら) そのVektroidのサイドプロジェクトのうちのひとつがMACINTOSH PLUS。アルバム『FLORAL SHOPPE』ではきらめくスパのCMソングとともにチョップ・アンド・スクリューがほどこされたアダルトコンテンポラリーソウルが多く収録されている。esc 不在とNew Dreams Limited Initiation Tape名義では、80年代以降のアダルトコンテンポラリーポップからのループを選んでいることが多く、Oneohtrix Point Neverの有名な“Nobody Here”のループの領域を探求している。

New Dreams Ltd.の最新のアーティストとしての具体化は情報デスクVIRTUALだ。4月にリリースされたアルバムのタイトルは『札幌コンテンポラリー』、トラックタイトルにはかなり注目だ。“ODYSSEUSこう岩寺「OUTDOOR MALL」 ”、“HEALING 海岸で昼寝MY LAST TEARS”、“3D崖の端 ∕ ‘‘B E Y O N D’‘ THE LIMIT”、そして驚きの“XX ‘‘RUBY DUSK ON A 2ND LIFE NUDE BEACH’‘ ☯ . . . の生活・・・「ロベルタ」”。アートワークの飛行機とCA(客室乗務員)、モールや美術館やホテルを引用したトラックタイトルで、このアルバムは旅行産業への協賛であるかのように見せつつも、スポーツカーやインターネットやタバコやポルノからの引用もある。『札幌コンテンポラリー』の音楽は最も無表情なvaporwaveだ。——官能的なスムースジャズインストゥルメンタルとつややかなスタジオ内のセッションミュージシャンからの異国情緒漂うサウンドが、エレクトリックピアノとそのほか大いにマニピュレートされたシンセサイザーのプリセットとともに鳴り響く。そしてここでも、このプロデューサーは充足感からリスナーを引き戻し、ガラスを粉々に砕くように、グリッチやピッチベンドの瞬間を時折投げ込んでいる。

New Dreams Ltd.の背後にいるプロデューサーはこう話している。「New Dreams Ltd.は、マスメディアとアメリカのコンピューターカルチャーが本格的に巻き起こる前の時代、80年代後半の進化に対する風刺です。私は、リアリティとフィクションの間に亀裂を入れたいと思っていました。それは、まさに当時、彼らが成し遂げようとしていたことだと感じるからです」彼/彼女(*このインタビューの時点ではVektroidの性別は不明とされていたため“s/he”と表記されている)はさらにくわしく述べる。「この20年間で世界はゆっくりと現実に無関心になってきているようで、そのことが私を魅了するのです。この20年間で起こってきたことすべてに、シュールリアリズムの要素が潜在的にあります、特に日本で起きたことには。私は当時のやり方のままで、今の人々に響くようにそれを捕らえたいと思っています。その当時のままでも人々が広告でやっていたことは、私には衝撃的です。衝撃の要因というのは、こういったことでは重要な要素だと思います」

“vaporwave”ということばは、彼/彼女の音楽にとって、どんな意義があるのだろうか? 「そのことばが使われているのを目にすることはよくありますが、個人的には関連はないと思っています。私が最初のLASERDISC VISIONSのテープを編集して作り始めた時、私たちはそれをeccojamsと呼んでいました。——もちろん、Oneohtrixの真髄『Chuck Person』テープからです。それは、私たちが始めた多くのことの背景にある、完全なる要因です。私も含めて、そのeccojamsをやっていた人たちはかなり結びつきが強く、プライベートなグループでした。それがジャンルとして存在していると思っている人は私たちの中には誰もいませんでした。スクリューミュージックはもう何年も前からあります。私たちはただその中にある文脈とその認識の仕方を変えただけです」さらに考えて、彼/彼女は今再びビートメイキングをやりたいと思っており、「New Dreams Ltd.プロジェクトはまあ絶対に“vaporwave”に入るでしょうね。単にたまたまだったとしても」と言っている。

Burnettと同じように、New Dreams Ltd.のプロデューサーは「LASERDISC VISIONSが疎外感のあるように、現実離れしたように聞こえるようにしたいと思っていました。あまりなじみがあるふうには聞こえないようにしたかった。なじみがある感じを取って、文脈を再構築しました。だから、ほんのわずかに、本来ある場所から外れているんです」と言っている。ヒューマノイドロボットや人間に似せた色々なものが、もう一歩人間になりきれていないために人々に起こす心理的な効果を例に挙げつつ、彼/彼女は、いわゆる“不気味の谷”効果を達成するのを目指しているのだという。

しかし、New Dreams Ltd.と彼/彼女がサンプリングする音楽との関係性は単純に批判ばかりというわけではない。彼/彼女は自身のサンプリングのやり方を「コンセプチュアル」、「皮肉」、「単純化」と表現しているが、自己表現の可能性について興味深い解釈をしている(*この一文だけ“she”、“her”と表記)。「人々に私の作品で感じてもらいたいと思うことは、それが心からのものだということです。私は、私が作るものの中に私の存在を感じてもらいたいと思っています。それが、作品にともなう身体的なアイデンティティを持つ必要は決してないのだと感じられる機会を私に与えるからです」 企業のストックミュージックを使用することによる政治的なほのめかしに関しては、彼/彼女は謎めいた結論を出している。「自分たちの世界について、ミュージシャンとして反応するのはとても重要だと私は考えています。私の中のどこかで、プロテストソングの時代を恋しいと感じているのだと思います。すべてがプロテクトソングである今、最も効果的とされている論評には正直な対話が欠けているように感じます」

そのほかにも、デジタルの荒野の中に登場したvaporwaveのアーティストはいる。目立つのはこの2作品。Computer Dreamsのzip EP『Silk Road』のゴージャスなエレクトリックピアノの幸福感は悲痛なまでに魅惑的で、もといたところに戻りたいと思うことはないだろう。骨架的のzip EP『Holograms』は正しくスクリューされたコンテンポラリーソウルのループで、vaporwaveのスプーキーな側面がうまく出ている。音楽と流通形式の類似点にもとづいて、Computer Dreamsと骨架的は、実際には同一人物なのではないかという考えも浮かんでくるが、その答えが判明することはないかもしれない。そして、たいして重要なことでもなさそうだ。本物の企業のストックミュージックの制作に携わるミュージシャンたちも、本物のvaporwaveアーティストたちも、彼らがどこにいようとも、名前が出たり、姿を見たりすることはない。——彼らは、全世界的な資本主義を直接の原動力としてあふれ出てきて、結果的に排気ガスとして放たれたプロダクトを供給する制作者たちなのだ。

本文中に出てきたアーティストたちによるトラックのvaporwaveサウンドのまとめはmixをダウンロード、またはストリーミングで。(*現在はダウンロードはできなくなっています)
https://soundcloud.com/dummymag/part-i-vaporwave

00:00 – LASERDISC VISIONS: ‘Into Dreams’ from NEW DREAMS LTD.
00:35 – INTERNET CLUB: ‘TRANSPARENT’ from BEYOND THE ZONE
01:33 – Computer Dreams: ‘Track 2’ from Silk Road
02:36 – MACINTOSH PLUS: ‘待機’ from FLORAL SHOPPE
03:12 – INTERNET CLUB: ‘THE 1080P COLLECTION’ from WEBINAR
03:41 – 骨架的: ‘RELAX’ from Holograms
04:16 – LASERDISC VISIONS: ‘LASERDISC VISIONS’ from NEW DREAMS LTD.
05:36 – INTERNET CLUB: ‘WAKE SLEEP I’ from NEW MILLENNIUM CONCEPTS
06:26 – INTERNET CLUB: ‘SHIFTING THE PARADIGM’ from WEBINAR
07:02 – 情報デスクVIRTUAL: ‘7 WONDERS OF THE iNTERNET FT WIND☯WS 97「GEOMETRIC HEADDRESS」’ from 札幌コンテンポラリー
08:34 – INTERNET CLUB: ‘WANDERING’ from MODERN BUSINESS COLLECTION
09:31 – MIDNIGHT TELEVISION: ‘Channel Surfing’ from MIDNIGHT TELEVISION
10:02 – INTERNET CLUB: ‘MENTHOL FEEL’ from BEYOND THE ZONE
11:08 – LASERDISC VISIONS: ‘Data Dream’ from NEW DREAMS LTD.
12:57 – Lasership Stereo: ‘Pole Position’ from Lumina
13:52 – esc 不在: ‘aurora3d’ from midi dungeon
14:24 – fuji grid TV: ‘warm life / legs’ from prism genesis
15:42 – 骨架的: ‘Silky Sheets’ from Holograms
16:34 – INTERNET CLUB: ‘RAINING ZONE II’ from NEW MILLENNIUM CONCEPTS
17:05 – 情報デスクVIRTUAL: ‘☆ANGELBIRTH☆’ from 札幌コンテンポラリー
18:09 – INTERNET CLUB: ‘THE SHARPER IMAGE’ from THE SHARPER IMAGE
19:18 – LASERDISC VISIONS: ‘Mind Access’ from NEW DREAMS LTD.
20:21 – INTERNET CLUB: ‘WEBINAR’ from WEBINAR
21:27 – Computer Dreams: ‘Track 5’ from Silk Road
22:13 – bitterTV: ‘last night with you’ from Soundcloud
23:19 – INTERNET CLUB: ‘PRODUCTIVITY SUITE’ from WEBINAR
24:13 – 情報デスクVIRTUAL: ‘’‘GEAR UP’‘ 4 FLIGHTシアトルズベスト’ from 札幌コンテンポラリー
25:21 – INTERNET CLUB: ‘WAVE TEMPLE’ from UNDERWATER MIRAGE
26:57 – LASERDISC VISIONS: ‘Malls’ from NEW DREAMS LTD.
28:51 – INTERNET CLUB: ‘OPTIMIZATION (#TRANCEFAMILY EPIC TECH REMIX) from WEBINAR
31:01 – esc 不在: ‘archway’ from black horse
32:29 – INTERNET CLUB: ‘OFFICE ONLINE’ from WEBINAR
33:40 – Computer Dreams: ‘Track 9’ from Silk Road
35:01 – fuji grid TV: ‘heaven’s gate / sneak out!’ from prism genesis
36:09 – 骨架的: ‘Breeze’ from Holograms
38:01 – LASERDISC VISIONS: ‘Zik Zak’ from NEW DREAMS LTD.
38:35 – INTERNET CLUB: ‘DON’T THINK LOVER’ from BEYOND THE ZONE
39:23 – Lasership Stereo: ‘Daytona’ from Lumina
40:00 – INTERNET CLUB: ‘JAZZY’ from BEYOND THE ZONE
40:32 – INTERNET CLUB: ‘ONLINE WORKSHOP’ from WEBINAR
41:37 – 骨架的: ‘Fountain’ from Holograms
42:53 – INTERNET CLUB: ‘IT PLAZA DUBAI’ from WEBINAR
43:48 – INTERNET CLUB: ‘ONE TRUE MEDIA’ from WEBINAR
44:34 – LASERDISC VISIONS: ‘Los Santos’ from NEW DREAMS LTD.
45:01 – INTERNET CLUB: ‘TRU FEELINGS’ from MODERN BUSINESS COLLECTION
46:10 – Lasership Stereo: ‘Plastics’ from Soft Season
46:56 – INTERNET CLUB: ‘GLOBES’ from DREAMS 3D
47:40 – esc 不在: ‘in a cave watching the blizzard’ from midi dungeon
48:30 – 骨架的: ‘Memory’ from Holograms
49:40 – MACINTOSH PLUS: ‘ECCOと悪寒ダイビング’ from FLORAL SHOPPE
50:43 – ░▒▓新しいデラックスライフ▓▒░:: ‘プロミセス「▣世界から解放され▣」’ from ▣世界から解放され▣
51:37 – 情報デスクVIRTUAL: ‘HB☯ PORN’ from 札幌コンテンポラリー
53:19 – esc 不在: ‘tonight on hbo’ from black horse
54:46 – INTERNET CLUB: ‘DRIFT II’ from DREAMS 3D
55:35 – new dreams ltd initiation tape: ‘camaro’ from part one
56:34 – INTERNET CLUB: ‘THE NEW DIGITAL FRONTIER’ from REDEFINING THE WORKPLACE
57:56 – INTERNET CLUB: ‘REDEFINING THE WORKPLACE’ from REDEFINING THE WORKPLACE





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(* )は補足しています。
アーティスト名や曲名の漢字の意味についての説明は省略しています。
リンク先、英文もあります。リンク切れもありますが、元記事のリンクをそのまま貼っています。






現在、Vektroidは姿を見せていることもありますが、おそらく当時はまったく情報がなかったんでしょうね。また今思えば、トランスジェンダーの彼女だからこその心理がかいま見れる返答なのでは……というところもあります(せつないです)。それだけに、今は出てきているというのは良い状態なのかなと思えて嬉しいことです。やっぱり彼女はすごい才能の持ち主だと感じるので。

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