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【社会】

座間事件被告「死にたい人いなかった」 「楽に生活したくて」

 神奈川県座間市のアパートで男女九人を殺害したとして強盗殺人などの罪で起訴された白石隆浩被告(27)は、警視庁の調べに「楽をして生活したかった」と供述していた。死へ傾く弱った心への共感を装い、会員制交流サイト(SNS)で知り合った被害者らを誘い込む手口。残忍な犯行の一方、取り調べには素直に応じていた。 (木原育子、小野沢健太)

 「すべての遺族が、法廷で被害者の身元が公になるのを避けてもらいたい意向を持っている」。東京地検立川支部の幹部が十日、白石被告の起訴を説明する場でこう切り出さなければならないほど、起訴状に記された犯行態様はむごたらしかった。

 「本当に死にたいという人は一人もいなかった」と供述した白石被告。警視庁の捜査幹部は「この言葉こそが事件の真実だ。遺族の方々のためにも、その言葉を引き出せてよかった」と静かに語った。

 「一緒に死ぬ」などとツイッターに書き込んでいた白石被告。しかし「自殺願望はなかった。ヒモになるなら、狙うのは自殺希望者だと思った」と供述。これまで被害者や遺族への謝罪の言葉はないという。

 被害者の一人は「今から帰ります」と母親にメールを送っていた。「帰りを待ち続けていた親の気持ちを思うと耐えがたい」と捜査幹部。被害者の財布から金を奪ったことや、暴行を認めたことなどから、検察は、法定刑が五年以上の懲役の「殺人罪」から、死刑か無期懲役しかない「強盗強制性交殺人罪」などへ切り替え、一括起訴した。

 白石被告は二〇〇九年三月、神奈川県立高校を卒業。スーパーやパチンコ店で働いた後、新宿・歌舞伎町で風俗店のスカウトをしていた。

 転機は昨年二月。女性を売春させると知りながら紹介したとして職業安定法違反容疑で茨城県警に逮捕された。保釈直後の三月、ツイッターで自殺希望者に接触を試みるようになる。

 最初の被害者とされる厚木市の女性=当時(21)=と知り合ったのは八月。アパート入居費用などを借りた。「金を返したくなくて殺した」と供述している。

 白石被告はツイッターに「死にたい」「首吊(つ)り士」などのアカウントを次々と開設。二カ月で九人を殺害したとされる。「睡眠薬や酒を飲ませ、落ち着いたところで、少し会話してから襲った」。被害者の首を絞めて気絶させ、ワンルームのロフトから下げたロープで首をつって殺害した。

 異様な犯行態様は、裁判員裁判になったとき、犯行時は「心神喪失状態」だったとの疑いが生じかねない。検察当局は当時の精神状態を調べるため、平均の二~三カ月より長い五カ月の鑑定留置を実施し、善悪の判断ができる状態だったとの診断結果を得た。

 ある検察幹部は「相談に乗るようにして被害者を誘い出すなど犯行は計画的。供述内容も筋が通っている。刑事責任能力に全く問題はない」と言い切った。

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