白石容疑者「色管理」でやっと食いつないでいたという悪評も
神奈川県座間市のアパートの一室から、人間の頭部が9つ見つかった。この部屋に住んでいる白石隆浩(27)が死体遺棄容疑で逮捕され、殺害も認めているが、全容解明にはまだ時間がかかりそうだ。常軌を逸した事件の容疑者の人となりが自然と脚光を浴び、この男が「スカウト」で、今年2月に茨城県で職業安定法違反で逮捕され執行猶予中の身だったことも注目を集めている。違法でも続けるほど、スカウトは魅力的な仕事なのか。ライターの森鷹久氏が、地下に潜り悪質化しているスカウト行為が、容疑者に及ぼした影響について考えた。
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神奈川県座間市のアパートから、女性8人、男性1人、計9 名の遺体が見つかった事件。容疑者の男はすでに逮捕され、犯行も概ね認めているというが、被害者の数もさる事ながら、容疑者がSNS上で「首吊り士」などと自称し、自殺志願者のユーザーらと連絡を取っていた事が明らかになり、世間を驚かせた。
容疑者がかつて性風俗店へ女性を斡旋する「スカウト」であったことから、スカウトされた事のある女性、付き合っていたり同棲していた女性、性風俗店関係者や同業のスカウトマンらが、容疑者の性格、仕事ぶりなどについて証言する内容をメディアは報じている。「性格は優しかった」「仕事はいい加減だった」などと、容疑者の人となりが判明しているが、関東エリアに複数の店舗を持つ風俗業者役員は、容疑者の顔について次のように話す。
「容疑者が優しかったと報じられていますが、それは当たり前。典型的な色管理です。スカウトの存在自体が”違法”になって以降、容疑者のようなダメなスカウトが幅を利かせている」
“色管理”とは、主にホストの世界で語られる「客に恋愛感情を匂わせて接待する」ことである。彼氏彼女、という関係性を保ちながら、ホストは女性から金を巻き上げるのだが、往々にしてトラブルに発展しがちだ。キャバクラ店などで辞めて欲しくない女の子を引き留める手段としても一部で色管理は使われている。恋愛感情で女性を自分に依存させコントロールするので、仕事のスキルとしては邪道であり、仕事ができない人間がとる手法のひとつだとも見られている。
色管理がダメな手法であるだけでなく、スカウトはそもそも、現在では違法な存在だ。
2000年代に繁華街でのスカウトや勧誘行為が問題となり、職業安定法が改正され、都道府県の迷惑防止条例も次々とスカウト行為について重点的に取り締まる法改正が繰り返された。今では路上でのスカウト行為、立ち塞がり、つきまとい、キャバクラ等への仕事の斡旋が違反行為と定められている。そして現在では、スカウトマンは路上に立つことすら許されなくなった。
ところが、例えば新宿や池袋、渋谷の街を歩けば今なお、違法スカウト業者が暗躍している事は一目でわかる。
「お姉さん、金欲しいっしょ!」「キャバ50、ソープ100」
これは、筆者が2000年代半ばころ、渋谷のスカウトから聞いた「女性へかける文句」である。高収入を謳い、道行く女性を引っ掛けて、キャバクラや性風俗店に紹介する。スカウトは、紹介した店舗から収入が得られるが、当時は「買取」と「バック」という、大きく分けて二つの収入益を選択できた。
買取とは、紹介した女性を性風俗店に「買い取って」もらうこと。かつてはソープランドに女性を紹介したことで、百万円オーバーの”ギャラ”が発生したスカウトもいた。一方のバックは、性風俗店に紹介した女性がの売り上げから、毎週や毎月、一定額がスカウトに支払われるパターンだ。この場合でも、女性が多くの客と接すれば、スカウトには週に数十万円ものギャラが発生した。
「儲かる仕事」とされ、この時期には街に多数のスカウトが林立し、少年漫画の題材にもなった。まさに「スカウトバブル」といってよい状況だったといえる。
そうしたバブルは、スカウトへの取り締まりが強化されると、一気に弾けた。その後に残ったのが、弱い女性を食い物にするような、違法かつ悪質なスカウト達だ。容疑者も、そんな悪質なスカウトの一人。
「容疑者は歌舞伎(新宿区歌舞伎町)を中心にスカウトしていましたが……、人の縄張りに出てきたり、女性の腕を掴んで暴言を吐くなど、スカウトの中でも評判が悪かった。街に立つのが厳しくなってからは、主にツイッターで女の子をスカウトしていたらしく、飲み屋で引き抜きもしていた。最終的には”色管理”をして、なんとか食いつないでいたようです」(前述の風俗店役員)
容疑者もまた、スカウトした女性に恋愛感情を匂わせながら、やりとりをしていたというのだ。新宿・歌舞伎町でスカウトをしていた男性も、容疑者の”色管理”について次のように話す。
「どうでもいい女をスカウトしてきて、惚れたとか付き合ってと吹いて、女を風俗で働かせる。女の紹介料に加えて、女から毎月小遣いをもらうような連中もいますが、要はヒモの究極系。容疑者の周りを取材すると、容疑者の彼女だったという女性がたくさん出てくるはずですが、彼女達は容疑者にいいように使われていたということ。奴は、東京でスカウトした女性を、都内の激安店や、地方の風俗店に売り飛ばしていた」
そんな男がなぜ、女子高生をも含む女性8人、男性1人を殺害するに至ったのか? 前述の元スカウト男性は、自身の「私見」としながらも、次のように見立てる。
「色管理に慣れているということは、風俗嬢や水商売の女性、もしくはその客を徹底的に見下している、ということです。精神的に弱っている女性を狙うのは、売れないホストや金のないスカウトの常套手段。結局女性を金やカラダでしか見ておらず、人間とは思っていないから、ただモノを壊すように、最終的には殺人に至ったのではないか。それを”俺も死にたい、自殺を手伝う”などと、それっぽい言い訳をしながら女性を集めていたと……」
女性を人間ではなくモノとして、金やカラダとしか見ていない容疑者による犯行──動機が金や性衝動とはいえ、たった三ヶ月の間に9人、ほぼ一週間に1人のペースで殺害するというのは想像を超えている。一刻も早い被害者の身元判明と、容疑者の動機解明が待たれる。