Photo Stories撮影ストーリー
朝食の残り物であるヒヒの頭をくわえ、奪い合いを始めたリカオンの子供たち。この写真は2018年「ワイルドライフ・フォトグラファー・オブ・ザ・イヤー」の「入賞」作品に選ばれた。(PHOTOGRAPH BY NICHOLAS DYER)
リカオンはアフリカで最も謎めいた動物の一つだ。ほとんど理解されておらず、激しい迫害を受けている。しかし、私にとっては、これまでに出会った中で最もかわいい動物だ。リカオンが、私たち人間の仲間である霊長類を食べる姿を目の当たりにしても、その気持ちは変わらない。(参考記事:「動物大図鑑 リカオン」)
リカオンは地球上に6600頭しか残されておらず、絶滅の危機に瀕している。1世紀以上にわたって害獣と見なされ、狩猟や駆除によって、個体数がかつての1%まで激減した。(参考記事:「リカオンの子ども、オカバンゴの動物」)
私は2013年からジンバブエのザンベジ渓谷で、リカオンの3つの群れを徒歩で追跡し、写真を撮影している。リカオンたちが獲物を狩り、休息を取り、遊ぶ姿を見て、この動物のことがよくわかってきた。
私はすっかり心を奪われ、「リカオン・ピクタス(Lycaon pictus)」という学名を持つこの動物について書かれた本や論文を読みあさった(学名は「色を塗ったオオカミ」という意味だ)。
リカオンはアフリカで最もすぐれた捕食者と言われている。狩りの成功率は80%に達することもあり、主にインパラやクーズーなどのアンテロープを狙う。私はリカオンの専門家になりつつある。そう思った矢先、これまで報告されていない光景を目の当たりにした。リカオンがヒヒを待ち伏せて攻撃したのだ。リカオンがヒヒなどの霊長類を食べるということは、科学文献にはまだ記録されていない。(参考記事:「【動画】リカオンvsハイエナ 集団で横取り闘争」)
狩りの一部始終
私がこの光景を目撃したのは数年前。ブラックチップというメスが率いる25頭の群れが水たまりのそばで楽しそうに遊ぶ姿を撮影した後のことだ。
群れは狩りに出掛けたが、辺りが暗くなり始めていたため、私はついて行かないことに決めた。車は2キロ近く離れた場所にあり、夜になるとライオンが活動を始める。茂みに身を潜めている時間はない。
突然、パニック状態に陥ったヒヒの群れがこちらに走ってくる音が聞こえた。警告を発する叫び声が夕闇に響く。音を頼りに茂みの中を走っていくと、大きなヒヒの背後に迫る1頭のリカオンが見えた。
リカオンは驚異的な速さでヒヒの胸を切り裂き、耳にかみついた。ヒヒは深い傷を負い、動かなくなった。リカオンが狩りでよく使う戦略だ。次の瞬間、2頭のリカオンがヒヒの体に食らいつき、文字通り引き裂いた。身の毛もよだつ光景だったが、撮影した写真を分析してみると、ヒヒの苦難は5秒足らずで終わっていたことがわかった。(参考記事:「食らいつく瞬間、弱肉強食のフォトギャラリー」)
リカオンはほかの頂点捕食者に比べ、獲物を短時間で仕留める。大型ネコ科動物をはじめとするほかの捕食者は、時間をかけて命を奪うことがある。その点で、リカオンの狩りには思いやりを感じる。(参考記事:「【動画】チーターvsリカオン集団、獲物の行方は」)
生態系のバランス
数カ月後、私はシロアリ塚に座り、殺されたばかりのヒヒをブラックチップの子供たちがむさぼるように食べるのを眺めていた。大人たちはその姿を見守っている。リカオンの食事はいつも子供が先だ。
私には素晴らしい友人がいる。「ペインテッド・ドッグ・コンサベーション」代表のピーター・ブリンストン氏だ。氏は20年前から、絶滅の危機にあるリカオンの観察、理解、保護に尽力している。そのブリンストン氏に言わせれば、この新しい狩猟行動はリカオンと生態系の両方にとって前向きな変化だ。
「まず、獲物が多様化することで、狩りの選択肢が広がります。リカオンのためになるだけでなく、この一帯で彼らの主食になっているインパラの負担も軽くなります」
ブリンストン氏によれば、一帯でヒヒが増加していることについて、多くの生態学者が懸念を表明しているという。ヒヒは鳥の巣を襲うことがあり、ヒヒの増加が鳥の減少につながっている可能性がある。新しい狩猟行動によって、ヒヒの個体数が抑制されれば、リカオンは間接的に鳥たちを救うことになると、ブリンストン氏は述べている。
「この新しい行動によって、生態系のバランスがいくらか回復するかもしれません」