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日本でイノベーションが起こらないのはなぜか?ある投資家の答え

島国思考から脱出する方法①

投資・経営コンサルティング会社「インフィニティ」の代表にして、『文系が20年後も生き残るためにいますべきこと』『残酷な20年後の世界を見据えて働くということ』などの著作がある岩崎日出俊氏。

かつて国内最高峰の金融機関だった日本興業銀行(興銀)を45歳で退職し、J.P.モルガン、メリルリンチ、リーマン・ブラザーズなど海外の投資銀行でマネージング・ダイレクターを務めた同氏は、日本の伝統的大企業はもはや「イノベーションを起こせない」と憂い、投資家として冷徹に評価すれば「先行きは暗い」と危惧する。

そうした日本で、しかも現存する多くの仕事が人工知能(AI)に代替されると予想される近未来にあって、いまの20~30代はどうすれば生き残れるのか。岩崎氏に若いビジネスマンが身につけておくべきスキル、そして「世界標準」の投資方法について尋ねた。

世界から相手にされない日本人

「10年後、20年後の日本に希望はあるか?」

この問いに投資家として客観的に向き合ったとき、私はどうにも悲観的にならざるを得ません。

象徴的なのは、昨今のシリコンバレーにおける日本企業の「扱われ方」です。シリコンバレーには先進国・新興国を問わず世界各国の企業が見学にやってきます。しかし日米双方の関係者から私が聞いたところでは、最近はシリコンバレーの企業を訪問・見学したいと申し入れた日本企業が、相手先企業からすげなく断られてしまうケースが増えている、といいます。

これが20年前であれば、東芝や日立、パナソニックの社長がAppleを見学しに行きたいといえば、スティーブ・ジョブズが自ら出迎えてくれたでしょう。Appleと、技術力のある日本のメーカーがコラボすれば、世界にまだ存在しない、何か新しいビジネスができる期待が十分に持てたからです。

しかし今のシリコンバレーにそうした空気はありません。彼らからすれば、日本の大企業に来てもらったところで、もはや教えてもらえることはなにもないし、ギブアンドテイクが成立しない以上、会うのは時間のムダだということになるのです。

なぜこんなことになってしまったのか。一言で言えば、アマゾンやGoogleなどのグローバル企業が文字通り血の滲むような努力をしてイノベーションを起こそうとしているのに対して、日本企業はイノベーションや「創造的破壊」といった言葉を口先では好む割に、実行が伴わないことが知れ渡ってしまっているからです。

 

アマゾンが本社敷地内に「植物園」を作った理由

アマゾンは今年1月、シアトルにある本社キャンパスの敷地内に「The Spheres」と呼ばれるワークスペースを開設しました。

この建物は3つの球体(sphere)を合体させたような形状のガラスドームで、最も大きい球体は高さ約27メートル、直径約40メートル。内部は3700平方メートルの温室になっており、世界の50以上の国から集められた4万本もの木が植えられているほか、川が流れ、滝もあります。水槽では魚が泳いでいたりします。ここをAmazonの従業員が散歩してリラックスしたり、コーヒーを飲みながらミーティングをしたりするそうです。

こんな建物をなぜアマゾンが巨費を投じてつくったかといえば、同社の総帥であるジェフ・ベゾスCEOが、アマゾンの企業価値を高めるために何よりも重要な資産は、従業員が生み出すイノベーションにほかならないと考えているからです。

同時にそのイノベーションの元になる革新的なアイディアは、従業員をオフィスで何時間もパソコンにしがみつかせたところで、あるいは会議室で延々会議させたところで絶対に生まれてはこないものだという信念を持っているからです。

「社内にアイディアが育まれるプロセスというのは、意外にぐちゃぐちゃなもので、頭に電球がともる瞬間などありません」―――ベゾスは評伝(ブラッド・ストーン著『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』)の中で、現在アマゾンの営業利益の50%以上を稼ぎ出しているクラウドコンピューティングサービス「アマゾンウェブサービス(AWS)」の開発過程に言及してこう言っています。
                   
ご存知のように、AWSは最初からクラウドサービスの提供を想定して開発されたわけではなく、アマゾンが自社で扱う大量の商品の在庫管理やデータ分析を行うために構築したインフラを、一般ユーザーや他の企業向けに公開したのが始まりでした。いわば「棚ぼた」的に生まれ落ちたサービスを、試行錯誤しながら巨大なドル箱に育てていったのです。

これに限らず、アマゾンという会社の歴史は失敗と試行錯誤を絶えず繰り返しながら、ドローンを利用した配送サービスなど、現在もイノベーションを起こそうとトライし続けています。そのように苦しみながらアイディアを出し、育てていくことの重要性を知り尽くしていればこそ、ベゾスは従業員たちに、少しでもアイディアが生まれやすい環境を提供しようとしているのでしょう。

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