認可保育施設に入れない待機児童の解消を目的に、認可外保育所の認可移行が急速に進んでいる。待機児童の減少という成果が出る一方で、認可化によって越境して通園していた子どもが退園させられる事態が起きている。地元の認可園に入れなかったり、保育の質を求めたり、さまざまな事情で認可外園に通っていた親子は当惑。識者は「退園は保育を受ける権利の侵害だ」と指摘する。(社会部・嘉数よしの)
「市外の子は受け入れられない」
沖縄本島南部に住む3児の母親(33)は2年前、隣の市の認可外園に子どもを通わせていた。手厚い保育を求めて探し回った園。伸び伸び育つ様子を目の当たりにし、安心して預けていた。
だが、園の認可化が決まり、市外の園児は退園を迫られた。認可保育施設は原則として在住市町村にしか利用申請できないが、広域入所制度があると知り、役所に掛け合った。しかし市は「待機児童がいて、市外の人を受け入れることはできない」と拒否。保護者有志で何度も働き掛けたが、結局「強制退園させられた」。
継続通園するために転居する人もいたが、一家は持ち家のため断念。卒園まで残り1年だった長女は、友達と一緒に卒園するという目標を奪われ、「傷つき、不安定になった時期もあった」という。母親は涙ながらに訴える。「子どもに害を及ぼしてまでやることだろうか。同じ思いをする人が出てほしくない」
「子にどう説明したらいいか」
本島中部の母親(41)は、娘(4)が通う認可外園が来年度から認可移行することを8月に耳にした。「認可外と認可園を併存させると聞いていたので、急に認可外が閉所になると聞いて困惑した」と心境を吐露する。10月から来年度の入所申請が始まっているため、在園を保障してもらえるよう、急いで保護者一同で行政に陳情した。
入園できないと「職を失うのではないか」と不安を抱えたり、「大人の勝手な都合を子どもにどう説明したらいいのか分からない」と思い悩んだりする家庭も。国は、保育認定を受ける子どもは、認可移行後も継続利用できる「配慮が望ましい」としている。
母親は「広域入所制度もあるし、国も配慮の方針を示しているので、越境通園はできるはず。卒園まで受け入れてほしい」と声を上げる。
沖縄 6年で69施設が認可移行
2012年度に沖縄県の待機児童対策特別事業が始まり、17年度までに17市町村69の保育施設が認可移行している。15〜17年度は急増しており、この3年で認可化した保育施設は62に上った。
同事業で認可移行した園が最も多いのは沖縄市(14園)。那覇市(9園)、宜野湾市、うるま市、南城市、宮古島市(6園)と続く。
国は、保護者の就労などの入所要件を満たす在園児については、認可移行後も継続利用できるよう配慮することが望ましい、としている。県内でも那覇市などでは越境通園を認めているが、自治体判断のため、対応が分かれる。
有識者「継続へ知恵を」
保育問題に詳しい浅井春夫立教大名誉教授 保育を受ける権利はどの子も保障されるべきで、認可化を理由に越境入園を認めないことはあってはならない。待機児童解消は大きな課題で、行政の苦悩も分かるが、中長期的に計画を立てて取り組むべき問題だ。退園が生じるのはしょうがないと考えるのではなく、保育を継続できるよう知恵を絞ってほしい。
例えば、緊急対応として児童福祉法で定められる定員よりも増やして子どもを受け入れるというのも一つの方法ではないか。保育継続しない方が問題なので、期間限定で質を確保しながら実施する。待機児童解消と保育保障は、子どもの健康と発達、保護者の労働権に関わるので、施設の広さや保育士数などを見ながら、行政には思い切って決断・実行してほしい。