オーバーロード ありのままのモモンガ 作:まがお
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帝国の闘技場でラナーが大儲けした後のこと。
クライムの特訓のため、モモンガ達は何度もここに足を運んでいた。
アレ以来クライムが試合に出ると、賭けの倍率は勝っても負けても微々たるものだった。
元々儲けるつもりがあった訳ではないのでモモンガも特には何も手を出さず、クライムは勝ったり負けたりを繰り返して着実に実力を増していった。
今回は珍しく、いつもの面子にブレインが加わっている。偶然出会ったブレインに闘技場のことを話すと、偶には実力を試すのも悪くはないと一緒に行くことになったのだ。
「あのブレイン・アングラウス様の剣技が見られるとは、光栄です!!」
「様づけなんてよしてくれ。ブレインでいいよ」
クライムはブレインの戦う所が見られるとあって、かなり興奮しているようだった。
「それにしてもブレイン。最近やたらとお前の噂を聞くが正義の味方は上手くいっているようだな?」
「そういうお前は相変わらずネムちゃんと薬草採取か、モモンガ?」
モモンガが薬草採取などの簡単な依頼を受けているのはもちろん訳がある。
最初はネムも一緒に出来るように選んでいた依頼だったが、他の依頼を受けると報酬額が高すぎるのだ。
簡単な薬草採取などは本来アダマンタイト級が受けるような依頼ではないのだが、そもそも頻繁に仕事をする訳ではないので組合には目を瞑ってもらっている。
基本的に報酬はネムとモモンガで二等分している。モモンガはいらないと言ったが、それはダメと押し切られた。
ネムが稼いだお金はエンリが管理しているので、子供にあまり大金を渡すのも良くないかと思いセーブしているのだ。
エ・ランテルや竜王国を救ったりした時点で手遅れかもしれないが……
今までと変わらない生活をしているあたり、エンリはしっかりと貯金しているのだろう。中々に出来た娘である。
「はいっ!! 森に入って薬草を集めるのを頑張ってます!!」
「私は採取出来ないから、ほとんど護衛だがな」
コイツがそばにいるだけで、近寄って来る敵など皆無だろう。アダマンタイト級の護衛付き薬草採取とは…… 他の組合が聞いたら驚くな。ブレインは笑いながらネムを褒めている。
闘技場へ向かって歩いていると、急に横から金髪の女の子が飛び出して来た。
「あっごべんなざい!! って骨、アンデッド!?」
年はエンリと同じか少し上くらいだろうか。女性の年齢はよく分からないが、冒険者に近い格好に涙で顔をグシャグシャにしているところから尋常でない様子が伺える。
「その反応も今では新鮮だな。気にすることはないが一体どうしたんだ?」
私の名前はアルシェ・イーブ・リイル・フルト。
帝国の元貴族の長女で、今は『フォーサイト』というワーカーのメンバーの一人として活動している。
元々は帝国魔法学院で魔法の勉強に励んでいたが、両親の借金を返すため泣く泣く学院をやめて、ワーカーとして働き出した。
鮮血帝の代になってから、多くの貴族達が貴族位を剥奪された。ウチもそんな中の一つに過ぎない。貴族の時代はもう終わっている…… それに気がつかない、いや気づこうとしない両親。
特に父親は未だに貴族だった頃と変わらずに浪費を繰り返し、見栄をはるためだけに無駄な買い物をして借金を増やし続けている。
そろそろ両親を見限って二人の妹と共に家を出た方が良いかもしれない。そんな事を思い始めた矢先の事だった。
仕事を終えて家に戻ると、父が双子の妹、クーデリカとウレイリカを借金のカタに売り払ってしまっていたのだ。
私は父親を殴り飛ばして家を出た。
最近帝国では邪教集団が生贄を使い、怪しげな儀式をしていると噂で聞いたことがある。それでなくても売られていった二人がどうなってしまうのか、不安でしょうがない。
クーデ、ウレイ…… お願い無事でいて!!
泣きながら情報を集めに走り回っていると、ある集団とぶつかってしまった。
私がぶつかったのは黒い鎧を着て、子供を肩車している骸骨のアンデッドだった。
「その反応も今では新鮮だな。気にすることはないが一体どうしたんだ?」
こちらを心配そうに見る骸骨に、限界だった私は思わず泣きながら全て喋ってしまった。今まで『フォーサイト』の仲間達にも、ちゃんと言ったことはない事まで……
「そうか…… そんな親が、いるのか……」
目の前の骸骨の表情は一切変わらない。それでもなぜか悲しみ、怒っているような感じがした。
「ラナー……」
「はい、私達はネムさんと一緒にどこかで休んでいますね。クライム、私とネムさんの護衛は頼みましたよ」
「はいっ!! ラナー様とネム様は、私が命に代えてもお守りさせていただきます!!」
護衛という言葉が出るということは、この金髪の綺麗な女性はどこかの貴族だろうか。
「ブレイン、悪いが予定変更だ」
「勿論だ。俺も手を貸すよ」
アルシェには分からない。たった今話を聞いただけのこの人たちが、何をしようとしているのか。
「どうして…… あなた達は一体……」
「正義の味方と子供の味方だな。俺はまだまだ修行中の身だがな」
「ただの使役魔獣のアンデッドさ……」
モモンガはそっとネムを肩から下ろす。
細かいことは何も言っていないが、ネムは何かを感じて素直に下ろされる。
まだ10歳だというのに、とても聡い子だと思う。
「モモンガ様、いってらっしゃい。早く帰ってきてくださいね!!」
「ああ、チャチャっと解決して帰って来るよ」
表情は出せない骨の顔だが、ネムを確かに笑顔で見送る。待たせるわけにはいかない。早々に済ませよう。
「さて、先ずは情報収集からだな」
今回はンフィーレアの時のように当てずっぽうには出来ない。
鎧を解除し、本来の魔法職の装備に戻る。
アルシェから聞いた話と二人の持ち物から魔法で居場所を探知し、
モモンガは〈
「私、置いてけぼり……」
アルシェは訳もわからず置いていかれた。
少し前のこと、とある街を守る為に一人で強大な魔獣の前に立つ男がいた。
相手となる魔獣の名はギガント・バジリスク。
全長10メートル程のトカゲの様な姿で難度83を誇り、一体で街一つを滅ぼすこともある恐るべき魔獣である。
体を覆う鱗はミスリルに匹敵する硬度を持ち、その身に流れるのは即死級の猛毒の体液。
そして最も恐れられる能力が『石化の視線』であり、その瞳に見つめられたものは文字通り石になってしまう。
アダマンタイト級の冒険者でも、神官による回復と解毒が無ければ勝てないと言われる強敵である。
それに挑む男は見たところ、腰に下げてある刀くらいしか特別なモノは着けていない。
「睨んでいるところ悪いが、今の俺なら石化は完全に
魔獣がこちらに向かって来るのに合わせて、男は魔獣に向かって走り出した。
そのまま通り抜けざまに一閃。
ギガント・バジリスクはしばらく走り続け、男から離れた位置で突然真っ二つに身体が裂けた。
「毒の体液だろうと、当たらなければ問題無いな」
正義の味方は少しずつ人外の領域に踏み出していくのだった……