オーバーロード シャルティアになったモモンガ様の建国記   作:ヒロ・ヤマノ
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遅れた理由は仕事と……沼りました
いつまでも舞台が山の中だと地味なので帝国の話も。

前話との間でモモンガ様は復活魔法の実験も成功しクアゴアの増援も撃退。ドワーフ達にワッショイワッショイされて客間に泊まりました。話を進めるためにもこれで許して、以上


『それぞれの分析と行動方針』

「それで、その第八位階かそれ以上と思われる魔法かアイテム。それを行使した存在は結局わからないわけか」

「……陛下、申し訳ありません。私も全力をもって調査したのですが」

「それは見ればわかるがな」

 

 絢爛豪華を文字通り表す部屋。バハルス帝国帝都アーウィンタール、現皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは自らの居城その私室で芳しくない報告を聞いていた。

 

 魔法の酷使による疲労を色濃く残した顔のまま報告をするのは、三重魔法詠唱者の異名を持つ帝国の誇る主席宮廷魔術師――フールーダ・パラダイン。その彼やその弟子たち、言わば帝国最精鋭の魔法組織をもってして調査を行えなかった強大な存在がアゼルリシア山脈にいる。その危険性をジルクニフは考えていた。

 

「昨晩の報告からそれほど時間は経ってないはずだが」

「わかりません、既に遠方へ向かったのか。魔法やアイテムで身を隠しているのか」

「王国へ行って甚大な被害でも出してくれればいいんだが、それは都合がよすぎるな。エ・ランテルの件と関わりはあると思うか?」

「確かにタイミングはそうとしか思えませんが、帝国の眼を逸らすにしてはいささか――」

「だな、神話の力を持っている事を露見させる結果が陽動だけでは釣り合いが取れん。むしろこちらに情報を漏らして大損だ――いや、強大な力を表に出す前提での狙いがあるのかもしれん」

 

 現に今こうして帝国上層部はピリピリした緊張の空気に満ちている。それは恐怖からの警戒心の強化に繋がる。

勿論警戒したからといってどうにもならないという敵の自信の場合は――。

 

「こうなりますと、現場近くにいる親交のある部族に聞きこむのが良いかと!」

「そうだな。いささか時間はかかるが誰かをドワーフの国に派遣せねばならん」

「それであれば是非私に行かせていただきたい!」

 

 途端に疲労の色を体の裏に隠し、飢えた獣のような燃える瞳と力を込めた姿にジルクニフは予想通りという感想とともに苦笑いを漏らす。長年教師として師事したからこそわかる逆の立場での発想、魔法の深淵を渇望するフールーダ・パラダイン自身は魔法の教えを乞う立場を渇望している事に。

 

「それも考えたが相手が危険な存在で尚且つ、爺の願い通り爺以上の強い存在だった場合危険が大きすぎる」

「それは確かにそうですが……転移魔法での逃走を念頭に行動すれば」

「駄目だ、未知の強大な存在に対するリスクが高い。せめて最初に接触する可能性のある人間は切り捨ても可能な人材が適任だ。それにエ・ランテルの問題がある以上、爺には国を離れてもらっては困る」

「…残念ですがそのとおりですな、では誰を向かわせるので?」

 

 ジルクニフの中では既に答えが出ている。相手は未知の存在、つまり強大な味方となりうる場合と敵の場合を考えれば良い。敵となった場合、その情報を持って帰れる可能性が高い実力のある者達。そして味方となった場合や少なくとも敵対しない場合、相手との意思疎通に長け礼節をもって接することができる者達だ。

 その条件に該当し、なおかつ急ぎのため帝都内にいる存在であれば自然と絞られる――。

 

「銀糸鳥だ、少々奇怪なチームだがな」

「確かにアダマンタイト級冒険者チームならば問題はなさそうですな」

「あぁ相応の実力もある、爺はエ・ランテルとズーラーノーンの調査に戻ってくれ」

「わかりました、ですが相手が友好的な接触をしてきた場合は―」

「わかっている。その時はいの一番に爺に会ってもらうさ、詳しい実力も知りたいしな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんなんだ!ヨ、ヨオズが!?」

 

 すぐ傍で側近の悲鳴が上がるがリユロは何も反応ができずにいた。敗北の結果を伝えに戻ったヨオズが最後に訳の分からない事を言った後、突然自らの首を切り落としたのだ。敗北の報告も最後に首を切り落とす際も、どちらも最後までただ淡々と言いながら目の前で絶命していった。そこに悲壮も恐怖も何の感情も見られずただ人形の糸が切れたようにその場に崩れ落ちるヨオズに、リユロ自身も反応ができずにいた。

 

「魔法か…しかし今のは……」

 

 恐怖を押し殺し本能が告げる、ドワーフ共に強力な魔法使いが味方になった可能性。

報告の際もそれらしい存在が聞こえた。『頭上から降り注ぐ雷』『恐ろしい獣の主』その存在がクアゴア種族に対して怒りを持っている。今の報告からその危険な兆候、その力がクアゴアにそして王である自分に降り注ぐ可能性――。

 

「いかん!今すぐ黄金を集めろ!!」

「っは?!はい!献上品ですか!?」

「あぁ、見張りの数も増やせ!準備出来次第、私はフロストドラゴンの元に向かう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モモンガは思い出していた、以前の苦労を。毎日同じ顔を拝み同じことをして、不安定な毎日を過ごし毎日頭を下げ毎月体が体調不良を訴えるのを病院で癒し、引っ込み思案な自分は特に不平不満を言うことなく毎日を過ごしていた。だからと言って勿論不満がないわけではなく、それらの事を思い出しながら――

 

 

「いいかげんにしろよなコノヤローッ!!」

 

 もう会えもしない上司に対する不満を一人叫んでいた。

 

 

 

 

(結果は予想通りか……)

 

 広い客間の奥から扉の方を向く。外を見張ってくれているドワーフ種族の戦士達が入ってくる様子は見られない。

あれだけの大声で叫んだにも拘らずノックの一つもないのは設置していた内部の音を遮音するアイテムが正常に作動した証拠であろう。

 

 精巧な装飾の施された机に乗ったアイテムの稼働を止め、アイテムボックスに放り込む。

勿論遮音させたいだけなら既に確認済みの魔法を使用すればよかったが、もう一つ確認したいことがあったためアイテムはあくまでついでであった。

 

「感情が高ぶると素が出る……ってことでいいのよね」

 

 この世界に転移した直後やクアゴアから奴隷扱いされた時なども少し考えたが先程試したように、あまりの事に感情が一定に達すると本来の言葉遣いや感情が漏れ出る。営業スマイルや怒ったふりは普段でもできると思うが、この世界に来てドワーフやクアゴアとの会話の中で抱いた本気の感情という違和感があった。

 

(アイテムボックス見た時も本気で泣いちゃったしなぁ……すぐに止まったけど)

 

 奴隷扱いに怒りを覚えたのは仕方ないだろう。この体はシャルティアの物でありモモンガの親友たるペロロンチーノの物なのだ。どういった原因かは分からないが今はモモンガの意思の元に動いてはいるが、モモンガ自身はそのスタンスを崩す気はない。

 とは言えこの容姿では、未だ行けてはいない人間の国に行った場合目立つかもしれない。

モモンガはナルシストではないのであくまで第三者の視点ではあるが今のシャルティアは美しい。現地の人間の美意識がモモンガと大きく外れてなければ、大いに衆目を集めるだろう。そういった意味で目立つと所謂『劣情』を抱く人間も多い。

 ただそれは男の意識を持つモモンガからすれば致し方ない事であり(まぁ欲情するのは仕方ないか、手を出したり奴隷扱いは癇に障るけど)その程度の器の大きさはあった。そして劣情に関する問題がもうひとつ――

 

(この大きさだし、歩くと見事に揺れるし……貧乳好きな国はどっちだろ。そっちに行きたいなぁ)

 

 モモンガが見下ろす自らの胸。モモンガ自身もどちらかと言えば大きい方が好みだが、シャルティアの身長には少々大きすぎる気がする。昨晩の風呂で確認した際、ギルド内でもバランス派だったモモンガにとっては手に余った。

 

(二人に無断で見てしまって申し訳ないが、ずっと風呂なしは無理だし。しかし綺麗だったなぁ)

 

 親のような立場で娘を見た感想であったが、生まれたままのシャルティアは女神のような美しさでありそこに誇張は一切なかった。

 ただ喜んでいいのか、自らの体に欲情することがない事も確認できたためそれ以上に体の確認作業をすることもなく何事もなかったが。

 

(ってそれよりも、シャルティアって変な廓言葉じゃなかったか?あとなんか体の仕草も……)

 

 そこまで考えたところで、扉の先から近づいてきた気配に動きがありノックの音が客間に響く。

 

「救い主様、私です。摂政会の準備が整いましたので、お手数ですが準備をお願いできますでしょうか?」

「わかりました、あと昨日も言いましたがシャルティアで結構ですよ」

 

 扉の先の主、昨日知り合ったドワーフの総司令官に返事を返す。

昨日はモモンガの思惑通りに事が進み、復活魔法の実験も成功しその後のクアゴアの増援も壊滅させた。モモンガの中で既に敵と認定しているクアゴアの王の恐怖を煽るため全滅は避けたが。

 

 都合よく摂政会のメンバーにもクアゴアに殺されている者がおり無事に復活させた。だが死んだ恐怖から混乱している者もおり、街全体の混乱のためにも一晩休んだ方がいいと申し出て案内されたのがこの客間であった。

 

(さて、一晩考えた設定で大丈夫かな)

 

 このドワーフ種族のトップである摂政会。昨日も復活魔法の説明などで面識はあるが、改めて今日は正式な面会となり自己紹介もしなければならないだろう。

 なるべく嘘にならない範囲で考えたつもりだが、さすがに仕事でもこのような経験はなくぶっつけ本番のため少し緊張していた。だが昨日売った恩でリードを得られた今回の機会を逃す考えはモモンガにはない。

 服の皺などを部屋に設置された鏡で確認した後、背筋を正し総司令官が待つドアのノブに手をかけた。

 

 








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