震度5強で吊り天井が崩落したのは、設計者・施工者の責任か。ミューザ川崎シンフォニーホール(川崎市)の事故を巡る裁判で、横浜地裁は2018年5月31日、所有者である川崎市の請求を棄却する判決を下した。市は控訴した。

 天井落下事故が起こったミューザ川崎シンフォニーホール。舞台を取り巻くように約2000の客席を設けた国内でも屈指のコンサートホールだ。最高天井高さ22m、最大スパン36mの大空間は、東日本大震災の揺れで一変した。当時、イベントは開かれておらず、内部にいた作業者は避難して無事だったが、危険な事故だったのは一目瞭然だろう。

東日本大震災の揺れで吊り天井が落下したミューザ川崎シンフォニーホールの内部空間。鋼製下地を含めた天井部材の質量は1m2当たり約90kgあり、客席に利用者がいたら生命の危険があった(写真:共同通信社)
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 ホールは音響効果を重視し、吊り天井に厚さ8mmの繊維混入石こうボードを5枚重ねで用いていた。ボードだけでも1m2当たり68kgに達し、鋼製下地などを含めれば同90kg近い。東日本大震災の揺れで落下した天井は、水平投影面積の54%に達した。

事故直後に撮影された内部。崩落の模様の映像は残っていない。被害報告書によると、揺れを感じてホールから避難した作業者は、逃げる途中でホール内で破壊音が継続して聞こえたと報告したという(写真:川崎市)
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被害報告書による落下事故の概要。落下面積は水平投影面積に対して54%に達していた。天井は平らではなく、複数の面を組み合わせた凹凸のある複雑な形状だった(資料:川崎市)
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 ホールは川崎市の再開発事業で完成した文化施設の4階から7階に位置する。建物は鉄骨造(一部鉄骨鉄筋コンクリート造)、地下2階・地上8階建て。延べ面積1万7244m2。竣工は03年12月だ。

 再開発事業では文化施設に隣接して27階建ての業務棟も整備しており、総事業費は約200億円。施行者は都市基盤整備公団(現、都市再生機構)で、設計は都市基盤整備公団神奈川地域支社と松田平田設計が担当。施工は清水建設、大成建設、安藤建設(現、安藤ハザマ)の3社JVが手掛けた。

 地震後、市議会の責任追及は収まらなかった。近隣の地震計の観測結果は震度5強。設計では震度6強にも耐える性能を想定したはずだった。復旧が完了した13年8月、市は設計者や工事監理者、施工者の計8社に復旧費約20億円の賠償を求め、横浜地方裁判所へ提訴した。

横浜地方裁判所で争われた裁判で、原告の市は事故について、設計・施工者の不法行為が原因だと主張した(資料:判決文を基に日経アーキテクチュアが作成)
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