ブロックチェーンの社会実装が急ピッチで進み、ほとんどの大企業が興味を持っているか、すでに取り掛かっているという調査結果を以前紹介した。
Google、Microsoft、IBM、Facebookを始めとするテックジャイアントのみならず、数え切れないほどのスタートアップがブロックチェーン人材の獲得争いを繰り広げている。それに伴いブロックチェーンエンジニア・デベロッパーの給料が急騰しており、キャリア・職業としての魅力が確立しつつあることも別の記事で紹介した。
これらのテクノロジードリブンな急激な社会変化に対して、ブロックチェーンの道に進みたいと考えているエンジニアや学生も徐々に増えているはずだ。しかも、ある調査によると「ブロックチェーン技術を勉強したい」と思う文系学生が理系学生よりも高いという面白い結果もある。経済学や会計、法規制とも密接に絡まっているからかもしれない。つまり、本当に多くの人達がこの技術に対して強い関心を持っているのだ。それではいったい、ブロックチェーンを新たに勉強していくにはどうすればよいのだろうか?
その答えは「大学」を覗けば見えてくる。ご存知の通り、大学には最先端の研究内容に関する知見の蓄積もあれば、その研究内容を体系立てて未経験の学生にわかりやすく教える、という教育の機能もある。
そこで特に注目すべきはアメリカの大学だろう。アメリカの大学は動きが早い。トップレベルの大学ではブロックチェーンの授業を開講し、早くも数年の経験・教育ノウハウを蓄積しているところも出てきている。そして学生もいち早くブロックチェーンのスキルを身につけようとこれらの授業に殺到しているという話もあるようだ。
一体、アメリカのトップ校はどんなブロックチェーンの授業を展開しているのか。幸い、アメリカの大学はシラバスはもちろんのこと、レクチャーノートから講義の動画までをネット上で公開していることが多い。つまり、ブロックチェーンの研究をリードしている最先端の教授たちから(動画やノートを通して)直接、我々も教えてもらえる。ブロックチェーンについては未経験の学生が履修してもついていけるように設計されており、私のような一介のサラリーマンが短時間で本格的な実力をつけていくにはもってこいの内容だ。当然だが、そのかわりにしっかりと教科書を読み込んだり、動画を何度も視聴する努力は求められるかもしれない。
ということで、今回はアメリカのトップレベルの大学でのブロックチェーンの講義や授業を徹底的に調べ尽くし、その中でも質の良さそうなモノだけをピックアップした。各講義の主なポイント、シラバス、採用されている教科書の情報、公開されているレクチャーノート、講義動画へのリンクなどをまとめた。これから勉強予定の人は是非参考にしてほしい。(私もこれから勉強予定ww)
Stanford大学のCS 251: Cryptocurrencies, blockchains, and smart contracts
- 担当教授:Professor Dan Boneh
- 授業のキーワード:Altcoins, Bitcoin transactions, Consensus protocols, Cryptocurrency, Elliptic curves, Hash functions, Mining strategies and incentives, Proposed Bitcoin regulations, Zerocoin, zerocash
- 授業スケジュール:CS 251 Bitcoin and Cryptocurrencies — Syllabus
- レクチャーノートが公開されている
- 教科書は "Bitcoin and Cryptocurrency Technologies: A Comprehensive Introduction"
- アマゾンでハードカバーは5000円程度、日本語訳『仮想通貨の教科書』も出ている!
- お金を出したくない人は、著者らのPreprint版が無料で公開されている!
- 授業シラバス:CS 251: Bitcoin and Cryptocurrencies — Course Information
- スマートコントラクトのプログラミング言語Solidityのスキルは授業履修時点では求めないが、授業では利用していく。ドキュメントはここから読める
- CS255 (Introduction to Cryptography)の授業の履修経験はあれば便利だが、必須ではない。
- Bitcoinjというライブラリを授業や宿題では用いる。JAVA用に開発されたが、Pythonでも使うことが出来る。
- 授業でも取り上げるブロックチェーンサーベイ論文:"SoK: Research Perspectives and Challenges for Bitcoin and Cryptocurrencies"
- http://www.jbonneau.com/doc/BMCNKF15-IEEESP-bitcoin.pdf
- ほとんどの重要な研究がサーベイされているらしい
- http://www.jbonneau.com/doc/BMCNKF15-IEEESP-bitcoin.pdf
- Satoshi Nakamoto論文は古すぎて現在のBitcoinとかけ離れている点も出てきている。初心者は読む時に注意せよ、とのこと。
- Bitcoinの低レベルレイヤーの実装などの情報源としてはBitcoin Developer Referenceがお勧めとのこと。
UC BerkeleyのCS 294-144: Blockchain, Cryptoeconomics, and the Future of Technology, Business and Law
- 授業サイト:CS 294-144: Blockchain, Cryptoeconomics, and the Future of Technology, Business and Law
- 担当教授ら:Raymond Cheng, Gregory La Blanc, Dawn Song, Adam Sterling
- 講義のビデオがすべて無料でオンラインに公開されている!神がかっている✨
- 以下のリンクのSyllabusのTalkのVideosからアクセスできる。
- https://berkeley-blockchain.github.io/cs294-144-s18/
- タイトルに"Business and Law"と含まれているように、法律学専攻やビジネス寄りの人も参加できるようで、技術だけではなく法規制などからの話題も扱う印象。
- 公開メーリングリストに誰でも参加することができる。ゲストスピーカーの情報や、たまに一般公開の授業が開かれるときもあるとのこと。私も早速メーリスに登録してみた👍
- UC Berkeleyのブロックチェーンの授業にゲストスピーカーとしてどんな人が来るのか、講演の概要なども知れると期待。講義ビデオが更新されたときにもメールをもらえるらしい。リンクはこちら:
- https://groups.google.com/forum/#!forum/berkeley-blockchain
MITのCryptocurrency Engineering and Design
- 講義サイト:GitHub - mit-dci/mas.s62: MAS.S62 Spring 2018 course website
- 担当教授ら:Tadge Dryja, Neha Narula
- 授業スライドは公開されている!(上記サイトからダウンロード可能)
- 最終レポートの課題内容として次の4つから一つ選択し、4ページの論文を提出せよ、という内容。
- この講義の素晴らしい点は、全生徒の最終レポートが公開されていることだ。github repoをforkして自分の課題を投稿することが義務付けられているので、githubページのforkからすべての宿題を覗けてしまう。あとでじっくり見てみたい!
- 授業で学ぶ内容は:
- Signatures, hashing, hash chains, e-cash, and motivation, Proof of Work and Mining, Signatures, Transactions and the UTXO model, Synchronization process, pruning, SPV and wallet types, OP_RETURN and Catena, Forks, Peer-to-peer networks, PoW recap, other fork types, Fees, Transaction malleability and segregated witness, Payment channels and Lightning Network, Lightning Network and Cross-chain Swaps, Discreet Log Contracts, MAST, Taproot, Graftroot, Anonimity, Coinjoin and Signature Aggregation, Confidential Transactions, Ethereum and smart contracts, More about Ethereum, Proof of Work at Industrial Scales, Alternative consensus mechanisms, New Directions in Crypto, zkLedgerなど
Duke UniversityのI&E 550: Innovation and Cryptoventures
- 担当教授:Campbell R. Harvey
- 授業シラバス:Campbell R. Harvey's 550: Innovation and Cryptoventures
- 履修前にやること:"There are no prerequisites."というかっこいい文章を発見。さらには「なんでも良いから読みまくれ。Satoshi Nakamoto論文から始めても良い(ただし難しい)。今どき、ビットコインを説明するサイトは山程ある。Khan Academyですら、ビットコインを学べる時代になったのだ」とのアドバイスも。
- 調べてみたらKhan Academyの講座が出てきたのでリンク:Bitcoin: Overview (video) | Bitcoin | Khan Academy
- 授業内容は、他と似ているものの、経済学やファイナンス寄りな印象
- リーディングリストも充実しているので、どういうレファレンスが大学の授業で選ばれているのかを知る上で有用。サイトを覗いてみる価値あり
Princeton大学のBitcoin and Cryptocurrency Technologies
- MOOCのCourseraより受講できる有名な講座。つまり、無料で誰でも受けられるし動画も閲覧できる。
- MOOCのリンク:Bitcoin and Cryptocurrency Technologies | Coursera
- 開始時期:2018年10月5日(なんとはじまったばかり!!ナイスタイミング!👶)
- 担当准教授:Arvind Narayanan他。
- 授業で扱う内容:Introduction to Crypto and Cryptocurrencies, How Bitcoin Achieves Decentralization, Mechanics of Bitcoin, How to Store and Use Bitcoins, Bitcoin Mining, Bitcoin and Anonymity, Community, Politics, and Regulation, Alternative Mining Puzzles, Bitcoin as a Platform, Altcoins and the Cryptocurrency Ecosystem, The Future of Bitcoin,
University of PennsylvaniaのCryptocurrencies, Blockchains, and Applications
- サイト:Kevin Werbach
- 授業内容は公開されていないが、授業を担当している先生のサイトには、講演内容がいくつかアップロードされていており、無料で閲覧できる。
- 先生のTwitterアカウント:Kevin Werbach (@kwerb) | Twitter
終わりに
読者の今後の学習の参考になれば幸いである。私もこの中から1つか2つ、本格的に学習していく予定であるので、また続編の記事を年内には公開していきたい。最後に、「こんな講義もあるよ!」と今回の記事には出てこなかったお勧めの講義があれば、是非教えてください!