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東京オリンピック エンブレム(ロゴ)著作権・商標権問題のまとめ

   

東京五輪のエンブレムがベルギーのエージュ劇場のロゴに類似しているということで、騒動が続いています。

法的な論点について整理をしておこうと思います。


問題となり得るのは、商標法と著作権法、あとは不正競争防止法。
商標権については、商標登録がどの範囲でされているかと、商標の類否について、
著作権については、著作物性の有無と、類似性・依拠性が問題となり、
不正競争防止法については、エージュ劇場ロゴの商品等表示としての周知性と、類否、混同が生じるかが問題となります。

これらについて、下記に詳述します。

olympiclogo

商標権

商標登録の有無・範囲

まず商標権は、著作権のように自動的に発生する権利ではなく、国ごとに出願・審査・登録を経てはじめて権利になるものです。
またその権利が及ぶ範囲は、指定している商品・役務に類似する範囲に限られます。


例えば、商標登録がベルギーでのみされている場合は、日本国でのオリンピックの開催や、当該ロゴが付された商品の販売に対して、権利が及ぶことはありません。
また日本で商標権を有しているとしても、その指定役務が劇場に関するものだけであれば、オリンピックのようなスポーツイベントの開催や、関連商品の販売に対しては権利が及ばないことになります。


さて、本件では、どうやら商標登録はどの国においてもされていないようです。
そうすると、当然ですが、指定商品・役務の範囲や商標の類否について判断するまでもなく、商標権侵害は構成し得ないということになります。


商標の類否

上述のように商標権を有していないのであれば、類否判断をするには及ばないのですが、
仮に商標登録されていた場合、類否判断のベースとなる東京五輪のエンブレムは、TOKYO2020という文字や五輪マークと共に使われているので、それら全体と登録商標とを比較判断することになろうかと思います。

そうすると、混同のおそれは極めて低く、仮に商標登録されていても(使用の態様次第ですが)商標権侵害には当たらないだろうと思われます。

 

著作権

著作物性の有無

著作権侵害について判断するに当たっては、まずベルギーの劇場のロゴが著作物に当たるかどうか、その著作物性について判断がされることになります。

ありふれた表現のみであれば、それは著作物ではないとされ、そもそも著作権が発生しないことになるからです。

例えば、フォント(タイプフェイス)については、ある程度の創意工夫がされたものであっても、表現の幅は限られ、著作物性は認められないというのが一般的な見解です。


今回のベルギーのロゴは、アルファベットのTとLを基にデザイン化されたものであって、非常にシンプルなデザインです。
このように文字・記号などをデザイン化したシンプルなものに著作物性が認められるかというのは、非常に難しい判断になり、有識者においてもその判断に差異があるように見受けられます。

福井健策先生は、著作物性は認められないという旨のTweetをしており、例えば企業法務戦士さんは、著作物性が認められる可能性は高いだろうと述べています。

これは非常に難しい判断であり、
過去に、これに近いデザインがあったかどうか、どの程度ありふれたデザインか、過去のデザインと比べて創作性のあるポイントがあるのか、ということに基づき判断がされます。

なお、著作物性が認められるとすると、後段の類似性の判断がされるのですが、著作物性有無の判断と類似性の判断は関連するところも多く、つまり類似性の判断に際しては両者に共通するデザイン部分が、創作性のある部分かどうか検討がされます。

したがって、このようなシンプルなデザインの場合は、著作物性が認められるとしても、その権利が及ぶ範囲は、限りなくデッドコピーに近い模倣に限られるということになります。


依拠性

類似性について触れる前に、依拠性について。
複製権侵害(翻案権侵害)を主張するには、両者が類似している(原著作物の本質的特徴を直接感得しうる)という類似性と、原作品に依拠して創作がされたという依拠性の2つを立証する必要があります。


デザイナーの佐野氏は、ベルギーのロゴを見たこともないし、模倣もしていないと主張をしています。
この発言をもって、少なくとも依拠性の点で切れるから著作権侵害ではないと言っている人もいますが、そう簡単でもありません。

というのは、依拠したかどうかは、デザイナーの心の中の問題であり、権利者側からそれを読み取って依拠したことを立証するのは不可能に近く、また逆に依拠していないことを立証するのも悪魔の証明となるからです。

したがって、依拠性については、実際に依拠したかという主観の問題ではなく、原作品を見ることができる状態にあったか、実際に見た蓋然性があるか、アクセス性と類似性いう客観的な情報から判断されることになります。

本件の場合、インターネットを通じてベルギーのロゴは誰もがアクセス可能な状態にありました。
そうするとアクセス性はあることになり、実際に佐野氏がベルギーのロゴを見た蓋然性としては、どの程度ベルギーのロゴが有名なものであったかという事と、両作品の類似度から推認されることになります。

依拠性が無いとはっきり決め付けることは、今回の場合は少し難しいようにも思います。

類似性

以上より、ベルギーのロゴに少なからず著作物性が認められる場合には、両者の類似性がポイントとなります。

しかし上述の通り、非常にシンプルなデザインであることから、著作物性が認められるとしても、その権利が及ぶ類似範囲はかなり限定的となります。

アルファベットのTなどを基にデザイン化するという事自体は表現というよりはアイデアであり、シンプルに表現しようとすると、その表現の幅は限られます。

表現として共通する部分が、ありふれたデザインではなく創作性の高い部分であるか。
また相違点としては、配色が異なり、右上の日の丸の有無が異なり、突起と縦棒が接しているか否かが異なるが、これら相違点をどう評価するか。


これは、最終的には同じようなデザインがどの程度過去に存在するかという資料をもってみないと判断がし難いのですが、ネット上で発言されている専門家のほとんどは、類似はしないという判断をしています。

個人的な感覚としても、著作権侵害とは言いがたいかなと思います。

 

不正競争防止法

最後に不競法ですが、不競法で主張するのは、色々と厳しそうですね。

まずロゴの日本における周知性から厳しそうですし、商品等表示の類否判断も商標と同じく否定的、さらには混同が生じる恐れはさすがに無いだろうと思います。

 

 

以上のように、裁判所でしっかり争った場合には、著作権侵害等が認められる可能性はかなり低いと思われます。

とは言っても、厳密には法的リスクはないはずであっても、クレームが来るときはクレームが来るし、炎上するときは炎上する。逆もまた然り。

安易に和解するのが良いとは決して思いませんが、早期に解決して、エンブレムだスタジアムだという話ではなく、中身のある盛り上がりがあればいいなと思います。

オリンピックという大イベントを開催する以上、当然に法的な検討・対応は必要なものですが、あんまりパクリだと騒ぎ立てるのはよろしくないですね。

 

最後に、エンブレム単体よりもこの映像が好き。

 

 - 著作権

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