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なぜトランプをキリスト教保守は支持するのか? 奇妙な同盟の内幕

人工妊娠中絶とアメリカ政治

人工妊娠中絶という一大争点

前回の寄稿(米中間選挙、民主党に神風は吹くか? https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57927)の末尾で、「Me Tooも及びにくい共和党側の支持基盤の論理」に言及した。

誤解があってはいけないのだが、もちろん共和党がセクハラ軽視の女性蔑視の政党だということではない。共和党保守派の多くも内心では公職者の性的スキャンダルを軽蔑している。

しかし、セクハラを棚上げさせるぐらい(彼らにとって)優先度の高い目的が共和党内にはある。人工妊娠中絶の非合法化である。

1973年の中絶規制を違憲無効とした最高裁のロー対ウェイド判決以降、「プロライフ」(胎児の生命優先)か「プロチョイス」(女性の妊娠継続に関するプライバシー権)かの政策判断がアメリカ政治を動かしてきた。

厄介なことにこの問題が、アメリカの女性運動の政治的な定義を日本と根本的に違うものにしている。

アメリカにおけるフェミニズム(とりわけ1960年代の第2ウェーブ以降)は、「中絶の権利」運動として展開されてきたからだ。

アメリカのキリスト教社会における中絶の悪魔化の根強さ、それに抗う女性運動史は凄まじい。

「プランド・ペアレントフッド」(中絶支援団体)を擁護して「女性の行進」に参加することは、コミュニティ次第では相当な覚悟が要る。居住の州、郡がリベラル寄りでないと活発な活動はできない。単なる「反トランプ」、セクハラ賛否では済まない。

中絶論を焚き付け過ぎると中絶反対のカトリック信徒を民主党から離反させてしまうことや、そもそも中絶賛否の政治争点化がアメリカ固有の現象との認識がアメリカ人記者に希薄なことから、アメリカのリベラル系の政治記事では、この視点は抑制されがちだ。

トランプが得た教訓

中間選挙では、支持基盤の一角が大統領や政党執行部に愛想を尽かしたとき大きな波が起きることがある。

 

好例は2006年だ。民主党大勝の理由は、原理的福音派の「キリスト教保守」と自由至上主義で小さな政府を目指す「リバタリアン」の2集団が、ブッシュ息子政権を見放したことにある。いわば共和党連合の自壊だった。

財政保守のリバタリアンは、イラク戦争の泥沼化、対テロ作戦のための市民監視(愛国者法)に反対して、ブッシュ離れした。

複雑なのはキリスト教保守だ。2004年、ブッシュ息子大統領は、宗教保守動員のために「同性婚を絶対に止める」と約束して再選した。ところがブッシュ政権は彼らを便利な動員力としか扱わず、再選しても信仰課題を優先しなかった。政策上の契約を反故にしたとして、宗教保守はブッシュ息子に落胆した。

キリスト教保守はある法則を学んだ。大統領本人のキリスト教徒としての敬虔さは何の役にも立たない。

これを見た後のトランプ大統領も学んだ。キリスト教保守だけは大切にしないといけない。

ここに、本人は敬虔さとおよそ縁遠い大統領をキリスト教保守が支持する構図が生まれた。