photo by iStock
# スクールカースト # アメリカ

カバノー最高裁判事の性暴力疑惑に見る「米国のスクールカースト」

「イヤーブック」が写す光と陰

アメリカの最高裁判事候補カバノー氏が高校時代の性暴力について告発され、判事承認が延期される事態となった。そこで注目を浴びたのが、カバノー氏が飲酒や性行為を自慢したとされる高校時代の学生アルバム「イヤーブック」だ。

この例に象徴されるように、イヤーブックにはアメリカの学生文化が映し出されやすい。とくにそこであからさまになるのが「アメリカ流のスクールカースト」だ。

あらゆる人が公聴会中継に釘付けに

中間選挙も間近に迫った季節、アメリカ中で大騒ぎになったのが、連邦最高裁判事候補としてトランプ大統領に指名されたブレット・カバノー氏の10代のときの性暴力疑惑。カバノー氏の指名が発表された2018年7月、パロアルト大学・心理学教授のクリスティーン・ブラゼイ・フォード氏は、1982年の夏、パーティで酔った高校生のカバノー氏とその友人に性的暴行を受けた、という経緯を、彼女が住むカリフォルニア州選出の民主党議員に書面で伝えた。

連邦最高裁判事に就任したカバノー氏〔PHOTO〕Gettyimage

その後、彼女の実名インタビューがワシントン・ポスト紙に掲載されると、カバノー氏を候補から降ろすべきだとの声が巻き起こり、承認投票は延期された。そのいっぽうで、カバノー氏を擁護する人々からの絶え間ない攻撃や脅迫によって、フォード氏と家族は自宅に滞在できなくなるほどの非常事態になった。

この件について上院司法委員会の公聴会が開かれることが発表されると、10代の頃カバノー氏に性的暴行を受けたと告発する女性がさらに二人現れた。

この状況は、1991年にクラレンス・トーマス現最高裁判事の承認過程で浮上した、アニタ・ヒル氏によるセクハラ告発が記憶にある人々にとって、強い既視感を呼び起こすものであり、全米を揺り動かしている#MeToo運動を象徴する事件となった。テレビやラジオは通常番組を中断して公聴会の模様を生中継し、人々が仕事の手を止めて画面に釘付けになる光景が、ありとあらゆるところで見られた。

公聴会の後、連邦捜査局による1週間の特別捜査が行われたが、その後の上院総会での投票では、50対48でカバノー氏の承認が決定された。政治性・党派性が剥き出しになったこの結果は、性暴力の被害者の無力感を強めると同時に、 最高裁の信頼性や権威を損なうものであった、と憤りと悲しみに満ちている人々が多い。

さて、この事件のなかで話題にのぼったものに、カバノー氏の高校の「イヤーブック」がある。各種メディアでも取り上げられただけでなく、「証拠物件」のひとつとして公聴会でも何人もの議員が細かな質問をカバノー氏に向けたものである。この「イヤーブック」とは果たしてなんだろうか?

 

時代と学校文化の記録「イヤーブック」

これは、アメリカの中学や高校、そして一部の大学で毎年発行される、学生アルバムである。日本の卒業アルバムとは違って、卒業生だけではなく、全学年の生徒の写真やプロフィールが掲載され、毎年全校生徒がイヤーブックを入手するのが普通である。

卒業アルバムと同様、 各種クラブの集合写真や、教職員の顔写真などが掲載される。Candid photosと呼ばれる、学校での日常生活の様子や年中行事のコーナーもあり、そうした写真に頻出する生徒と、まるで姿が見えない生徒がいる。

その年度にヒットした映画や音楽、人気のバンド、流行ブランド、話題を集めた事件などをリストアップしたページもあり、写真に写っている生徒たちの服装や髪型などと合わせて、まさに時代の一記録でもある。

しかし、イヤーブックの中心は、Picture Dayと指定される日にプロの写真家によって撮影される、各生徒の顔写真である。その写真に、在学中のクラブ活動や趣味、将来の夢などを生徒本人がプロフィール文として書き添える場合もある。

卒業を控えた高校生が、同級生をおもな読者と想定して書くものであるから、ふざけた内容も多く、仲間うちで限定的に流通していた表現も多用される。ゆえに、今回の事件のように、何十年も経ってからそれらのプロフィールを正確に解読することは難しいが、限定的で閉じられた読者を想定したものであるからこそ、その輪において共有されていた文化や常識、価値観などを読み取ることもできる。

そして、学校生活における社会集団の棲み分けや序列、つまり「スクールカースト」が、日本の卒業アルバムよりも露骨に明かされてしまうのが、イヤーブックの特徴でもある。問題となったカバノー氏のイヤーブックを参照しながら、その様相を見てみよう。