今や、キャッシュレスにまつわるニュースを耳にしない日はないと言っていいほど、本格的に日本にもキャッシュレスの波が押し寄せている。
表面上、もっとも積極的な姿勢を見せているのは政府だ。2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催を前に、年々増加する訪日外国人旅行者数(インバウンド)を見越して、経済産業省は2025年までにキャッシュレス決済を、現状の倍である40%まで引き上げると謳っている。さらに、外国人が訪れる主要な観光地や宿泊施設では、2020年までに全面的にクレジットカードが使えるようにする方針だ。
しかし実際のところ、キャッシュレスの浸透度について、具体的な情報はやぶの中。中小規模の小売業や事業者がキャッシュレス決済を導入する際のコストについても、政府や経産省がどれだけそれを考慮し、実態を把握しているかも分かったものではない――。
実際のところ、事業者や、事業者と近い自治体の担当者は、キャッシュレスをどう考えているのか。話を聞いていくと、政府の方針との大いなるスレ違いが明らかになってきた。
2016年、訪日外国人旅行者数は2400万人を突破した。その内の830万人、つまり、インバウンドの実に3人に1人が訪れたエリアが、浅草、上野、谷中を擁する台東区だ。しかし、国内随一の観光スポットである台東区でさえ、キャッシュレス対応は簡単ではないという。
「キャッシュレスについては前向きに考えています。ただ、土地柄、そして日本で最も古い商店街の一つであることから、対面で現金によって決済をすることが、文化として深く根付いている。現金決済を軽視することはできない」
そう語るのは、浅草仲見世商店街振興組合の販売促進部クレジット委員会担当者。
雷門を入口として、浅草寺への参道として栄えてきた同商店街は、長さ約250mの間に、合計88の店舗が軒を連ねる。日本で最も外国人が訪れる観光スポットの一つだが、キャッシュレス対応に関しては慎重な姿勢を見せる。
「仲見世商店街はさまざまなお店が集っているため、お店によって事情が異なります。高価なものを扱っているお店であればクレジットカードをはじめとしたキャッシュレス対応が必要かもしれませんが、団子や人形焼を販売するようなお店や少額のお土産を揃える小売店は、手数料の問題などもあって簡単に導入はできません。
前向きに考えてはいるものの、強制的に全店舗へ号令をかけるような形で推進するようなことはできない」(販売促進部クレジット委員会担当者)
現在、同商店街でクレジットカード対応をしているお店は55店舗ほど。いまだ30店舗強は現金決済のみの扱いとなるが、「ここ10年でクレジットカードを導入したのは5店舗ほど」と担当者が話すように、インバウンドが加速度的に増加しているものの、「導入しない」という判断を選択しているお店は多いという。Alipay、WeChat Payに関しては、担当者が認識している限りで、一店舗のみが取り扱っているという状況だ。
「たしかに、『クレジットカードは使えますか?』と尋ねられることは少なくないですが、必要かどうかというと話は別です。(店頭にクレジットカードが使えるかどうかが分かる)アクセプタンスマークの表示も各店舗の判断に任せています。先述の通り、店舗によってケースが異なるため、全店舗が足並みを揃えてキャッシュレス対策をすることは難しいです」(販売促進部クレジット委員会担当者)
また、同じく台東区内にあるインバウンドが多数訪れる谷中銀座商店街も、「カードが使えなければ他の店に行きます、というような外国人の方はほぼいません。裏を返せば、クレジットカード導入で売り上げが向上するようなことはほとんどないと言えます」と語るように、特別なキャッシュレス対策はしていないという。