リ・エスティーゼ王国の都市、エ・ランテル。
三重の城壁に囲まれた城塞都市にペロロンチーノは到着した。
雑多な人ごみ、活気のある商店が並ぶ中央広場を落ち着かない様子でペロロンチーノは歩いた。
さて、どうすべきか?
人々の会話は理解出来るが看板などの文字が全く読めない。
商品があっても手持ちの資金は心許ない。
もともとPKを警戒して重要な装備やアイテム、金貨のほとんどはナザリックに置いていた。
しかもペロロンチーノは一旦引退をしたのでそれらは全てギルド―アインズ・ウール・ゴウン―に寄付してしまっていた。
ただユグドラジルの最終日に足を運ぶだけのつもりだったから、手持ちの資金は微々たるものだった。
『なんとかなるかな?……やっぱり仕事が必要かな?』
とりあえずペロロンチーノは役所みたいな建物に入ってみた。
中には受付があり、やたら肥えた女が暇そうにしていた。
『すみません。仕事なんかないですかね?ちょっと手持ちの金が心許ないもので。』
女はペロロンチーノの顔を見て、一瞬惚けたようになったが、直ぐに首を振りジロジロ見て、ふっと息をつくと脱力した素振りで手を振った。
『ダメダメ。あんたびっくりする位の美人だけどどうせ身体売ってるような手合いだろ?ここは役所であんたのような人種が来るような所じゃない。』
いくつかやり取りをしてきてペロロンチーノは少しずつ学習していった。
まず、ペロロンチーノのキャラクター、ツャルティア・ブラッドフォールソは絶世の美人らしい、という事。
ペロロンチーノのしゃべり方が『育ちの良くない女』として受けとめられてしまう事。
そして仕事なら技術やスキルを生かして『冒険者組合』か『魔術師組合』に所属した方が良さそうだという事だ。
ペロロンチーノは自分の現在のビルドから魔術師組合に入る事にした。
※ ※ ※
なんとか手続きを済ませたペロロンチーノが魔術師組合を出ると、通りの向こうの冒険者組合から出てくる二人組に気がついた。
一人は戦士、金と紫色の紋様が入った漆黒のフルフェイスヘルムに漆黒のフルプレート。
背中には二本のグレートソードを差している。
その隣には黒髪のポニーテールの女性。
『うわっ…そっくりじゃん。まるでプレアデスの一人と双子みたいだ。』
そういえば戦闘メイドを作成したギルメンの噂で『なんでも好きな女性をモデルにしたらしい』というのがあったからもしかしたら?とペロロンチーノは思った。
ぼんやりしている内に“漆黒”の二人組は人混みに消えてしまった。
そもそもユグドラシルにおいてはNPCは拠点の装飾品といった扱いだったのだから、ナザリックの戦闘メイドがナザリックの外の、しかもエ・ランテルの街中にいる筈がない。
単なる他人の空似だ。
そういえば“自分にソックリな人間が三人いる”だか“男は外に敵が三人いる”だのとギルドメンバーの誰かが言っていたな。
ペロロンチーノは先ほどの漆黒の二人組を忘れる事にした。
魔術師組合で紹介された宿屋は寂れた通りの片隅にあった。
広い室内には貧相な男が何人かいてビールみたいなものをのんでいた。
奥のカウンターに店主らしき老人がいて愛想笑いをしてきた。
『とりあえず一週間ほど宿を取りたいのですが?』
『一日五銅貨で一週間三十五銅貨だが、一応朝食は出すよ。』
『お願いします。』
ペロロンチーノは宿帳に新しく魔術師としての名前でサインをし、銅貨を払った。
とりあえず魔術師組合から支度金として貰った銅貨500枚。
しばらくこれでしのいでいこう。
かくてペロロンチーノはエ・ランテルで魔術師として生活する事になった。
※ ※ ※
漆黒のフルプレートの戦士と濡れたような黒髪をポニーテールにした女の二人組がエ・ランテルを軽やかに歩いていた。
『アインズさ――』
『――違う。私はモモンだ。そしてお前はナーベだ。いいな?』
『はい。モモンさ―ん』
二人組は速度を緩めず人混みの中に消えていった。
※ ※ ※