現実逃避から覚めて少しずつ考えをまとめていく内にペロロンチーノは一つの結論にたどり着いた。
どういう訳かペロロンチーノは現在、ユグドラジルによく似た現実世界にいるらしい、という事だ。
更に自分の性別が女でシャルティアと同様にヴァンパイアだという事も。
LV30しかないからパーティーを組まないとなかなか厳しいだろう。
そしてここは何処なのか?
とりあえず必要なのは情報と拠点だろう。
ペロロンチーノは拠点となる町を探すべく、まずは移動する事にした。
森の中はおそらくモンスターがいるだろうから、森と平地の境目を沿って移動していく事にした。
朝から夕方まで歩くと彼方に煙が上がっているのが見えた。
大喜びで手を振りながら駆け寄ろうとした、まさにその瞬間、ペロロンチーノは村で何が行われているかに気づき慌てて身をふせた。
兵士が村人を虐殺していたのだった。
(まずいぞ……LV30では巻き添えで死んでしまうかもしれない。見つからないようにしないと…せっかく村に辿り着いたのに運が悪い…)
少し静かになったので顔を上げると一人の戦士を何人かのマジックキャスターが囲んで戦っていた。
マジックキャスターのシモベらしき下位天使がいたが距離があってよくわからない。
バードマンのままだったらスキルを使用して見る事が出来るのだが…
あいにくと情報探知系の魔法は持っていない。
そういえばユグドラジルでのアイテムボックスの中に探知系魔法のスクロールを持っていたはずだ。
頭の中で操作するイメージを思い浮かべて動かすとアイテムボックスを操作出来る事がわかった。
肝心のスクロールを見つけるのに随分かかったが、これでどうやら戦場の様子がわかりそうだ。
ペロロンチーノは戦場を遠目に見ながらスクロールを発動させた。
と、なにやらイヤな予感がした。
先ほどの戦士がいつの間にか漆黒のロープと漆黒のフルプレートに変わっていて、周りの様子が何だかへんだな、とちょっと思った瞬間―
突然起きた爆発でペロロンチーノは飛ばされた。
※ ※ ※
ペロロンチーノは森の中にいた。
どうやら先程の爆発で飛ばされたらしい。
(全く…ひどい目にあった。……そういえば楽々PK術にいろいろあったっけ……やれやれ…)
(考えてみればユグドラジルではパーティーで行動してばかりいたから関心がなかったのだった。……これからは注意しないとな……)
いつまでもへこたれていられない。
ペロロンチーノはとりあえず歩き出す事にしたのだった。
※ ※ ※
森の中はあちこち木の根が張り出していたり泥に足を取られてしまったりでとても歩きにくかった。
(バードマンだったら飛べるからなんて事ないんだがな……)
歩きにくさに文句をたれながら、そのうちペロロンチーノの批判の対象は服装に移っていた。
(それになんて歩きにくい服なんだよ…誰のデザインだっけ、これ。)
ボールガウンは見た目は優雅だが、機能的では無い。
走ろうとすれば転んでしまいそうになる。
と、何やら森の奥がざわついていた。
※ ※ ※
「げぇ……け・賢王…森の賢王」
「ふむふむ?…何でござるか?その“けんおう”とは?」
何やら巨大な魔獣と男が話していようだ。
ペロロンチーノは魔獣を見て思わず呟いた。
「………ジャンガリアンハムスター?……でかいけど…」
巨大なジャンガリアンハムスターは機嫌よく言った。
「それがしが賢いとな?嬉しい事を言ってくれるでござるな。むう、瞳に知性を感じる、とな。まさに賢王?なんだかその呼び名が気にいったでござる。お主、賢王という呼び名を広めるなら帰ってもよい。ふむふむ。まさに賢王とな?嬉しいでござるよ。」どうやら男はハムスターにお世辞を並べているようだ。
どうやらハムスターは満足したらしい。
男はペコペコしながら後退り、走り去って行った。
(しまった!)
男の後をついて行けば町に辿り着けるかもしれなかった。
残念ながら男の足は速く、姿はない。
とりあえずペロロンチーノは男が逃げた方角を目指す事に決めた。
※ ※ ※
(ざまあみろ、絶対に生きて帰って、賢王の名前を広めてやる。そしてきっといつかはオリハルコン、アダマンタイトに登りつめてやる。その為に賢王、いや、“森の賢王”の名前を高めて利用してやるんだ。)
仲間達の死も彼の名声の捨て石に過ぎない。
男はフォレストストーカーのスキルを使い、森の中を息も切らさず駆けていった。
※ ※ ※
※ ※ ※
ペロロンチーノが爆発で飛ばされた丁度その時―
遥か離れたスレイン法国で土の巫女姫が謎の爆発に巻き込まれた。
それが間接的にペロロンチーノが関係したかどうかは誰にもわからない。