少しの間、気を失っていたらしい。
横たわったペロロンチーノの身体に、顔に、恐怖公の眷族―沢山のゴキブリ―が這い回っていた。
そのリアルな感触は小さい頃のトラウマを思い出すのに充分だった。
姉が宝の地図だといって手書きの地図を持ってきた。
幼いペロロンチーノは喜んで地図の×印をスコップで掘った。
しばらく掘ると金属製の缶が出てきて開けてみると…
中から溢れだしたのは沢山のゴキブリだった。
強い姉を持つ弟なら皆似たような記憶がきっとあるに違いない。
それにしてもリアルな感触だ。
現実にこんな状態になったらどうにかなってしまうかもしれない。
あくまでもゲームでの仮想空間だとわかっているから冷静でいられるのだろう。
さて…
ペロロンチーノは改めて自らのビルド、装備、スキル、魔法を思い返した。
シャルティアに似せる為、経験値アイテムを使い切って合計LV30を振り分けたが、その場の勢いで組んでしまった為、使えそうなものが果たしてあるかどうか?
とりあえずシャルティアに因んで組んだ初期の転移魔法のテレポートなら建物の外に出られそうだった。
ペロロンチーノはテレポートでナザリック地下大墳墓の外に出た。
その筈だった。
「な、なんじゃこりゃー!」
全く見た事がない世界が広がっていた。
ナザリック地下大墳墓の外観は見当たらず、周りにあった湖もない。
あるのは丘、丘、丘、それに眼下に広がる大森林。
全く見知らぬ世界が広がっていた。
せめてナザリック地下大墳墓内でマーキングをしておけば戻れたかもしれないが、まさかこんな事になるとは思っていなかったので今更だ。
仕方ない。一旦ログアウトするしかないな。
と…思ったのだが…
「なんじゃこりゃー!!どういう事?ウソだろ?」
ログアウト出来ない!!!!
こんな仕様だったか?
GMコール……嘘だろ?…なんだよ?なんなんだよ?…マジかよ?…えーー
ペロロンチーノは混乱した。
一体全体何がおきたのか?
どうして良いか解らずペロロンチーノはただただ頭を抱えるのだった。
※ ※ ※
ナザリック地下大墳墓。
マーレがオドオドしながら玉座に歩み寄る。
「あ、あの、モモンガ様に命じられた、その…ナザリック地下大墳墓を隠す作業を、さ、先程無事終えました。」
「マーレよ。御苦労だった。その働きは現在のナザリックにとって実に重要なのだ。よくやった。」
マーレは左手の薬指の指輪をなでながら嬉しそうにエヘヘと笑った。
マーレの笑顔を見ながらモモンガはせめてこの宝―NPC―は守ってゆこうと心に誓うのだった。