ペロロンチーノはナザリック地下大墳墓第一階層にやってきた。辺りを見回しながら意外とこの第一階層を余り訪れる事がなかった事に気がついた。
ナザリック地下大墳墓の第一階層から第八階層までは侵入者対策のダンジョンとしての機能が高い。だから作り込んでいた最盛期はともかく、ここしばらくはほとんど足を運ぶ事がなかった。ログインした際に訪れる会議室、そしてギルドメンバー達が使う第九もしくは第十階層が使用するメインで、他の階層はそのまま外に出かける時に素通りする事が多くなっていた。
せいぜいごくたまに、第一から第三階層の階層を訪れるだけだったが、ペロロンチーノがこの第一から第三階層の階層守護者という設定のNPC、シャルティア・ブラッドフォールンの制作者――いや、父親といっても良い存在――だからに過ぎない。
(ええっと……シャルティアをどこに配置したっけな?)
シャルティアの装備を新しくした時にモモンガに披露する事があって、わざと目立たない場所に立たせて驚かそうとしたりしていたので、いざとなるとシャルティアがどこにいるのがわからなかった。ましてやそれから数年間経っている。
どうやら第一階層から第三階層まで隈無く探す事になりそうだった。
――まあ、いいさ。
ここナザリック地下大墳墓をかつて熱中していた頃の楽しかった思い出に浸りながら彷徨うのも悪くない。そしてその思い出をひさしぶりにモモンガさんと語り合おう。時間はまだたっぷりあるのだから。
幸い、ナザリック地下大墳墓はペロロンチーノがいた頃とほとんど変わっていない様に見えた。まるでここで過ごした日々が昨日の出来事かのように思える。
……モモンガさん……申し訳ない……
風の便りではほとんどのギルドメンバーが去ってしまって数名だけしか活動していなかったという。そんな状態でギルドマスターのモモンガがずっと守り続けてきてくれたのに違いない。
ふと、視界の先にぼんやりと赤いものが見えた。いたいた――シャルティア・ブラッドフォールンに間違いない。
胸が巨乳にされた以外はペロロンチーノのロマンの結晶である階層守護者――シャルティア・ブラッドフォールン――が、そこに立っていた。ペロロンチーノは思わずシャルティア目指して走り出していた。
彼の眼にはもはやシャルティアの姿しか映っていなかった。
後少しでシャルティアに触れそうになった瞬間、足下に黒い空間が現れ、床が割れた。
(――あ……そうだったな。この為にここにシャルティアを配置したんだったな。……そしてこの階層には領域守護者がいたんだった……すっかり忘れていた。)
のんびりそんな事を考えながらペロロンチーノは落ちていく。……そして落ち着いた様子でゆったりと羽根をはばたかせた……はずだった。
「――しまった!羽根がない!!」
ペロロンチーノは暗黒がざわめく穴に落ちてゆき――そのまま気を失ってしまった。
周囲をなにやら蠢くもの達に囲まれる気配を感じながら……
◇◆◇
ナザリック地下大墳墓玉座の間ではモモンガが静かにユグドラジル終了の時を待っていた。
数百人が入ってもまだ余りある広さに見上げる高さの天井のすべての白壁には金の彫刻が惜しげもなく施されている。金銀が散りばめられた奥の見事な水晶の玉座。ナザリック地下大墳墓の栄光の歴史がそこにはあった。
23:55……56……57……58……59……
モモンガは静かに目を閉じた。
0:00:00……1、2、3
何事も起きない事に不審を感じたモモンガは目を開けてみた。
「どうかなさいましたか?モモンガ様?」
初めて聞く美しい女性の声にモモンガはゆっくりと顔を向けた。
◇◆◇