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サウジ、ジャーナリストは「けんか」で死亡と発表 トランプ政権も追認したが...

サウジアラビア国営通信は日本時間20日未明、トルコのサウジ総領事館を訪問して行方不明となったサウジ人記者が死亡したことを認め、情報機関幹部らを解任したと発表した。

サウジ政府が記者の「死亡」を認めた。

Reuters

トルコ・イスタンブールにあるサウジアラビア総領事館で行方不明となっているサウジ人記者ジャマル・カショギ氏。

サウジアラビア国営通信は日本時間10月20日未明、「サウジアラビア検察当局の初動捜査により」としたうえで、以下のように発表した。

「容疑者らは国民カショギの帰国について話し合うためイスタンブールの総領事館に出向いた。うち数人と国民カショギと口論から殴り合いとなり、その結果として死亡した。その隠蔽工作が行われた」

この件に関連して18人を拘束したという。

サウジ政府はこれまで、失踪とは無関係と主張してきたが、トルコ側から次々と状況証拠が積み上がり、外堀を埋められて方針を転換したかたちだ。

サウジは「一部の暴走」のシナリオで収拾へ

AFP=時事€“

サウジ政府の発表通りであれば、再婚を間近に控え、婚約者を外に待たせたまま書類を取りに来た59歳の記者が、厳しい警備体制を敷かれている総領事館の内部で、何らかの口論から激高し、命を落とすほどの大立ち回りを演じたことになる。

この説明で国際社会を納得させることができるかどうかは、疑問が残る。

サウジ政府はさらに、アフマド・アシリ総合情報庁副長官、王室顧問のサウード・カハタニ氏ら複数の幹部の解任も発表した。

いずれも、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子の側近だ。

アシリ氏は国家情報機関のナンバー2。その前はサウジ軍准将として、ムハンマド皇太子が国防相として主導したイエメン内戦への介入を指揮し、報道官の役割も務めていた。カハタニ氏はメディア戦略などを担当していた。

サウジ政府は解任の事実だけを発表し、その理由を明らかにしていない。事件の背景に情報機関の「暴走」と、メディア戦略の失敗があったとして、2人に詰め腹を切らせた、と理解するのが妥当だろう。

サルマン国王はさらに、ムハンマド皇太子に対し、情報機関を近代化し、機能させるよう再構築するための委員会を設置し、1ヶ月以内に結果を報告するように求めた。

今回の出来事はあくまで「非近代的」な情報機関の一部が暴走した結果として起きたことであり、国王は全く関係がない。だから、息子のムハンマド皇太子に情報機関の綱紀粛正を命じた、というかたちだ。

とはいえ、カショギ氏の失踪が注目を集めたのは、同氏がムハンマド皇太子ら王室上層部に批判的な論調を維持し、それがもとでサウジを逃れ、米国に事実上、亡命していたことにある。

ムハンマド皇太子の関与、あるいは少なくとも、カショギ氏を嫌う皇太子への「忖度」があったのではないかという見方が広がり、国家権力による暗殺の可能性があるとして注視されていた。

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トランプ氏は「王室は知らないと言っている」

AFP=時事

米国のトランプ大統領は、事件そのものは強く批判するものの、事件とサウジ王室を切り離す言動を続けてきた。

その背景にあるのは「ビジネス・ディール」だ。

米国は2017年5月、史上最大規模の1100億ドルの武器売却契約を、サウジアラビアと結んだ。トランプ氏はこれをもとに、「(米国内の)50万人の雇用がかかっている」と主張し、サウジ王室に対するおおっぴらな批判を避けている。

また、ブルームバーグなどによると、トランプ氏は1990−2000年代、資金面などで窮地に陥った際にサウジからの投資などによって切り抜けてきた経緯があり、サウジとのつながりは強い。

Just spoke with the Crown Prince of Saudi Arabia who totally denied any knowledge of what took place in their Turkish Consulate. He was with Secretary of State Mike Pompeo...

「サウジの皇太子と話したが、全く知らないと言っていた」とするトランプ氏の10月16日のツイート

サウジは「偉大な同盟国」

AFP=時事

トランプ氏は19日(米国時間)、サウジアラビア政府の発表について「信じる。信じるよ。まだ初期段階だが、大きな一歩だ」「サウジは偉大なな同盟国だ」と述べ、サウジ政府の発表を受け入れる考えを示した。

トランプ政権にとって、サウジはイラン封じ込めで協力を計算できる相手であり、テロ対策を巡る中東のイスラム過激派容疑者の情報源でもある。

パレスチナ問題では、今のサウジはむしろ、米国やイスラエルと共同歩調を取りつつある。

これらを取り仕切るムハンマド皇太子に政治的なダメージが加われば、トランプ政権の中東政策にも逆風が及びかねないのだ。

米ホワイトハウス前では、サウジ王室とトランプ政権両方を批判するデモも起きている(写真)。

米国はオバマ政権まで、まがりなりにも「民主化」を外交の旗頭としてきた。トランプ氏から、そうした理念が語られることは、ほとんどない。

中東では珍しくない「失踪」

AFP=時事

サウジアラビアに限らず、中東では政府に逆らったり、批判的な論調を持つ人物が失踪したり不可解な死を遂げることは、珍しくない。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは2017年7月、2011年に反体制デモがはじまって以降、シリアでは7万5千人が政権の手により強制的に失踪させられ、その多くが施設に拘束されたと発表した。

エジプトでは2013年、軍部が民主的に選ばれたムハンマド・ムルシ政権をクーデターで倒して以降、ムルシ政権の基盤だったムスリム同胞団員の拘束や幹部の死刑や終身刑判決が相次いでいる(写真)。

エジプト議会は2018年7月、5000人以上のフォロワーがいる個人アカウントやブログを「メディア」と見なし、政府の規制対象とする法案を可決した。

2011年2月にムバラク政権を崩壊させた「アラブの春」が、SNSによる民主化呼びかけをきっかけに広まったことから、大手メディアだけでなく個人の言動の監視も強化したのだ。

今回の事件は、被害者のカショギ氏が、有力紙ワシントン・ポストなどに連載を持つ著名人だったことと、事件の現場が、サウジと外交面で対立するトルコで、トルコ政府が内外メディアにカショギ氏の殺害を巡る状況証拠をリークしたことで、注目が集まった。

だが、そのトルコも2016年に最大手紙ザマンを含むメディア130社に閉鎖を命じるなど、強引な手段を執っており、一方でこうした行動に対する国際社会の批判をはねつけてきた。

サウジ国内での反応は

Via english.alarabiya.net

中東全域に影響力を持つ衛星テレビ局アルアラビア(写真はスクリーンショット)をはじめとするサウジ系メディアは政府発表を軸とした報道を行っており、発表に疑問を呈する報道はほとんどない。

サウジには、日本や欧米のようなかたちの公選議会はなく、国民の言論にも制限がある。

王家を中心とする政府が絶対的な権力を独占し、石油収入を分配して国民に豊かな暮らしを保障することが、支配力の源泉となってきた。

これまでの歴史を見ると、政治の変化は主に王族内の権力闘争を通じて起きている。今回の事件がサウジ国内で何らかの反響を呼ぶとすれば、こうしたかたちで現れてくる可能性がある。

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注記

殺害された記者の名は、アラビア語メディアでは「ハーショクジ」あるいは「ハーショグジ」と表記されていますが、日本では「カショギ」表記が定着しているため、この表記を用います。

Yoshihiro Kandoに連絡する メールアドレス:yoshihiro.kando@buzzfeed.com.

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