オーバーロード ありのままのモモンガ   作:まがお
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幕間 こんな話もあったとさ

 スレイン法国にある特別な独房、その中に一人の女性が捕らえられていた。

 

 

「今まで随分と問題を起こしてくれた様だな、クレマンティーヌよ」

 

 

「ちっ、このクソッタレな国でも散々暗殺だの謀殺だの、殺しまくりじゃねーか。人類のため〜六大神の教えにより〜ッハ!! あー、アホらし、私と同じで狂ってるクセして偉そーに」

 

 

 クレマンティーヌは過去に法国から秘宝を盗み出し、エ・ランテルにて『ズーラノーン』のカジットと共にアンデッド大量発生の事件を起こした女だ。

 その後、エ・ランテルで裁かれる前にスレイン法国の特殊部隊が秘密裏に回収していた。

 

 

「所詮はクインティアの片割れか、信仰も分からぬ愚か者が……」

 

 

 クレマンティーヌに会いに来た、スレイン法国の上層部の人間は吐き捨てるように言う。

 

 

「そんなお前でも利用価値はある。人類の為には遊ばせておく余裕はない。無理矢理にでも働いてもらうぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)が復活するという予言の確認のため、そして今までの罰も兼ねてトブの大森林にクレマンティーヌは一人で派遣されていた。

 監視は無いが、仕事を放り出して逃げることは出来ない。一定期間以上、法国に戻らなければかけられた呪いが発動し、永遠に頭痛に苦しむことになる。

 

 

「あーあー、こんな首輪なんて付けやがって。やる事がえげつないんだよ」

 

 

 早いとこ破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)とやらを調査して帰ろう。そう思って歩いていると、森で骸骨に出会った。

 

 

「てめぇはあの時のエセ骸骨!!」

 

「ん? 誰だ…… ああ、あの時の女か。捕まってなかったのか?」

 

 

 モモンガとしては勝手に捕まっていると思っていたが、どうやら違ったようだ。実際は一度捕まって脱獄したというのが正しい。

 

 

「正体さえ分かっちまえば、魔法詠唱者(マジックキャスター)なんて、スッといってドスッ…… これで終わりだよ」

 

「〈麻痺(パラライズ)〉」

 

 

 モモンガはコイツの話を聞くのはメンドくさいと、淡々と魔法を唱えた。

 

 

「くっ、舐めるなぁ!! 」

 

「おー、抵抗(レジスト)出来たのか」

 

 

 この世界では大抵これで済むので、今の一撃で終わると思っていたモモンガは少しだけ感心した。

 

 

「ざぁーんねーんでーしたっ!! 前にやられてから、麻痺の耐性を上げる装備を着けてるんだよっ。このクレマンティーヌ様に同じ手が通じる訳ねぇんだよ!!」

 

 

 モモンガの魔法を防げたのが嬉しかったのか、こちらを煽るように勝ち誇るクレマンティーヌ。

 

 

「ふむ、耐性が上がっただけで、完全無効化ではないのか。では何回耐えられるか、チャレンジといこうじゃないか」

 

「えっ?」

 

「〈麻痺(パラライズ)〉〈麻痺(パラライズ)〉〈麻痺(パラライズ)〉〈魔法抵抗難度強化(ペネトレートマジック)麻痺(パラライズ)〉〈魔法最強化(マキシマイズマジック)麻痺(パラライズ)〉――」

 

「えっ、あっ、ちょ、ヒンッ、あばばば――」

 

 

 

 モモンガは陸に打ち上げられた魚のように、ビクッビクンッと痙攣しながら倒れているクレマンティーヌを見て、やれやれと頭を振るのだった。

 

 

「対策を考えるのは大事だが、状態異常の対策をするなら完全無効化じゃないと意味が無いだろうに。詰めの甘いやつだ」

 

 

 次はこんな事がないように、モモンガは今度はちゃんと捕まえておくかと、エ・ランテルの屯所に放り込んだ。

 

 その後、法国の特殊部隊に再び回収されるまで、クレマンティーヌは頭痛に苦しめられた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテルに住む薬師、ン・フィーレアは非常に悩んでいた。

 長年片想いを続けている幼馴染、カルネ村に住むエンリ・エモットとの距離をどうやったら縮められるのか。

 以前、謎の秘密結社に攫われた時は想い人の妹に助けられるという、情けない姿を晒したばかりだったので彼女の妹は頼れなかった。

 

 悩みに悩んだ結果、とりあえず会う回数を増やすことにした。

 祖母には新たなポーションについて研究したいから、今までとは違う薬草を集めてくると言い訳しカルネ村に向かった。

 

 最近はエンリもモモンガやネムと一緒に出かける事があったので、いつも村にいるわけでは無いことをンフィーレアは知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 カルネ村の村長に挨拶をした時に、実は村で使う薬草を取るために森に入ってくれた人がいるそうで、もし会えたらよろしくと言われた。

 

 エンリに運悪く会えなかったンフィーレアと、護衛で雇った冒険者チーム『漆黒の剣』は絶賛大ピンチ中だった。

 トブの大森林に入り、薬草集め自体は順調に進んでいたのだが途中で『西の魔蛇』に会ってしまったのだ。

 

 

「ワシの支配領域に入るとは愚かな人間め。このまま部下達の餌になるがいい!!」

 

「おっと! これはやばいぞ。周りの蛇は何とかなるが、アイツの姿が見えない!!」

 

 

 ルクルットは野伏(レンジャー)なので他の仲間よりも耳が良く、音を頼りに周りに指示を出しギリギリ攻撃を躱していた。

 ンフィーレアを中心に円陣を組んで耐えていたが、長くは持たないだろう。

 そんな時、急に周りの蛇が切り払われた。

 

 

「ワシの部下が!? おのれ、何者じゃ!!」

 

「――正義の味方を目指してるだけの、通りすがりの修行者さ」

 

 

 突如乱入してきた刀を持つ剣士が、蛇を薙ぎ払い西の魔蛇と対峙する。

 

 

「俺はモンスターとはいえ無闇に殺したくは無い。お前が引くなら追いはしないぞ?」

 

「ぬかせ!! ワシの姿も見えん人間如きに、誰が従うか!!」

 

 

 西の魔蛇リュラリュース・スペニア・アイ・インダルンは透明化(インヴィジビリティ)を維持したまま、背後に回り込み襲いかかった。

 

 

 

 

 

「な……ぜ…… わかっ……た……」

 

「俺の〈領域〉は相手が見えなくても、空間内全てを知覚できる。まぁ、俺の反応速度より速く攻撃されたら意味は無いがな」

 

 

 

 奇襲に対して完璧なカウンターを決められ、真っ二つにされた西の魔蛇は死んだ。

 

 

 

「助けていただき有難うございました!! もしかして貴方はあのブレイン・アングラウスさんでは?」

 

「なに、困った時はお互い様だ。そのブレインで合っているが、大した存在でもないよ」

 

 

 代表して御礼を言うペテルに対し、軽く応えるブレイン。

 なんでも周囲の村渡り歩きながら修行を続けていたところ、薬草が無くて困っている村人からの頼みで森に何度も入っていたそうだ。

 

 

「俺は剣以外はからっきしでな、中々集められなかったんだ」

 

「それなら僕がお手伝いしますよ。こう見えても薬師ですから、助けていただいた御礼をさせてください」

 

 

 実は帰る場所が同じカルネ村だと知ったブレインとンフィーレア一行は、この後一緒に薬草を採取してカルネ村に戻り、滞在中に少しばかり仲を深めるのだった。

 

 

 

 








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