オーバーロード ありのままのモモンガ 作:まがお
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帝位を継いでから、初めての失態かもしれない。
依頼内容が仇となるとは、抜かった…… いや、これは本当に私が悪いのか?
件の冒険者を引き抜こうと、帝国に来て観光してもらい、その評価をしてもらうという依頼を出した。
家族がいる事は分かっていたから、丸ごと引き抜くため、御家族、御友人も一緒にどうぞと、書いたのが間違いだった。
どこの冒険者が敵国に、自国の王女を友人枠で連れて来るんだ?! そんなもの、予想出来る訳がないだろう!!
何にせよ、考えていた手段は全て御破算となった。
この女がいる以上は下手を打てない。
依頼を完遂してもらい、一旦は帰ってもらう他無いだろう。
「やぁ、わざわざ来てもらって感謝するよ。アダマンタイト級の冒険者に頼むには、少々物足りないと感じるかも知れないが、調査には箔付というのも必要でね。何はともあれ、普通に観光するつもりで楽しんでほしい」
直接勧誘する事は出来ないが、印象を良くしておくことに越した事はない。様々な貴族達と渡り合って来た、最上の笑顔で迎える。
「皇帝のお兄さん、なんか嘘くさいです」
一瞬で轟沈した。
いや、寧ろこれが見抜けるという事は、素晴らしい人材だと、プラスに考えるべきだろう。
「くっ、ぶふっ、ネムよ。大人には営業スマイルというのも、必要なんだ」
笑うな骨、そこはフォローするところだろう。
「フフフッ、アハハハハッ!! 流石、帝国の皇帝陛下ですね。自ら民に笑顔を与えてくれるとは、素晴らしいです!!」
この女、取り繕う気すらないのか。
「こらっネムっ!! えっと、私は皇帝陛下の笑顔は、カッコよくて素敵だと思いますよ?」
村娘の言葉が心に染みる。
有難う、貴族達のような取り繕った言葉ではない、飾らない言葉がこんなに嬉しいものだったとは……
「さてと、今回の依頼は観光してレビューを書くだけ。危険も何もないから、普通に楽しむとしよう」
適当なオープンテラスのカフェで休憩しながら、貰ったパンフレットを開く。
どこへ行こうか相談しだす、幼女と骨と村娘と王女。
あれだけ最初、狼狽えていたエンリも、今は普通にラナーと話している。
人の順応性の高さには驚かされる。
帝都を散策し、途中で立ち寄った闘技場で事件は起きた。
モモンガからすれば、レベルの低い試合ばかりだ。儲けるつもりも無いが、ちょっとだけお金を賭けてみたりと、4人でそれぞれ予想しあって、楽しんでいるところだった。
「そこに座っている女性、名はなんという?」
「えっ?」
この帝都アーウィンタールの闘技場で、トップに君臨する武王、ゴ・ギンがエンリに声をかけてきたのだ。
モモンガは実力を隠す装備を着けているし、ネムが着けている装備はどれも防御に偏っているため、強さは感じられないだろう。
エンリに声がかかったのは必然とも言える。
「貴方からは、何かとてつもない強さを感じる。どうか、この私と試合をして欲しい」
闘技場のトップからのまさかの宣言に、会場は騒然となる。
そしてエンリは、こういう時に必ず流される。
「流石に素手は可哀想だから、あの時のガントレットを貸してあげよう。心配するな、もしヤバそうだと思ったら、私が乱入してでも助けるから」
モモンガ様からは、ガントレットを貸してもらい、妹からは応援の言葉を、ラナー様からは応援の言葉と、期待の眼差しを頂いた……
(いったいどうしてこんな事に…… モモンガ様、これは既にヤバそうではないんですか?)
ゴ・ギンと呼ばれている剣闘士は、全身鎧を着けていて分かりにくいが、ウォートロールである。
強くて礼儀正しい、全身鎧の『グ』だと思えば良い。だいたい合っている。
闘技場の真ん中で、ゴ・ギンと対峙しながら、モモンガ様、信じてますからね!! と、エンリは覚悟を決めた。
試合は余りにも一方的だった……
そう、誰もが予想できていたことだ。
あんな村娘とウォートロールが戦って、無事に済む筈がないのだ。
「……あれ?」
エンリは武王をフルボッコにして、一撃も貰わずに勝利した。
「お姉ちゃん、凄い、凄ーい!!」
「エンリさん、素晴らしい拳でしたね。私は武術を嗜んでいない素人ですが、それでもエンリさんの強さは、分かりました」
「うーん、分かっていた事だが、ガントレット無くても、良かったかも知れん」
妹と王女と骨、三者三様の評価を聞きながら、エンリは段々と、自らの実力を自覚していくのだった……