オーバーロード ありのままのモモンガ 作:まがお
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バハルス帝国の皇帝ジルクニフは、集まった情報を元に、アンデッドを使役する子供の勧誘策を練っていた。
「爺よ、残念ながらその子は、
「確かに残念ですな……
フールーダは本当に残念がっているようだったが、心の底では自分を超える魔法詠唱者が、いないという事も分かっていたので、立ち直りも早い。
「だが、アンデッドを連れているというのは確かなようだ。しかも、この経歴を見たか?たった一人の冒険者が、ビーストマンを退け、国を救ったとあるぞ?」
余りにも馬鹿げた情報だが、これは諜報部がしっかりと精査したもので、嘘はない。
「つまり、このネムという子供を手に入れれば、我が国は王国に楽に勝利出来る。いや、この子供を手に入れた国が、戦争には勝つと言って良いな」
王国の阿保貴族には、本当に感謝している。
こんな
「幸い、この子供の拠点は辺境の村だ。つまり、国への帰属意識が薄いのだろう。若しくは、王国に魅力が無さすぎるのかもしれんがな」
「して、陛下。どの様に我が国に引き入れるのですかな?」
「ここはシンプルにいこう。この国に招き、盛大にもてなせば良い。あちらの国より素晴らしい環境を整えれば、簡単に靡くだろう」
数々の強行策をとり、無能な貴族を粛清し、鮮血帝の異名を取ったが、懐柔策もお手の物だ。
早速、彼らを呼び出すために、適当な依頼を出す様に指示を出した。
帝国に冒険者チーム『黒い疾風』を呼び出し、早速謁見の段取りを取り付け、未来の帝国の手駒に会いに行った。
「初めまして、お会いできて光栄ですわ」
そこには私の嫌いな女、第一位がいた。
竜王国での活躍により、サラッとアダマンタイト級冒険者になっていた、ネムとモモンガ。
今日は久々に指名依頼があるとの事で、冒険者組合に来ていた。
「――以上が、依頼の内容になります」
依頼の説明を受けたモモンガが、ネムに確認をとる。
「大丈夫か? この依頼は帝国に行くことになるが……」
「うん、大丈夫です!! またお姉ちゃんも一緒に連れてっちゃえばいいです」
ネム達は過去に、帝国の騎士の鎧を着た者に襲われている。モモンガとしては、そちらを心配していたがネムは強い子だ。
ちなみに、本当は法国が偽装して襲っていたことは、ネムも含めて村の全員が知っている。
「私も連れて行っては頂けませんか?」
一体どこで情報を掴んでいたのか、黄金メッキの姫様に会ってしまった。いや、会わされたと言うべきか。
組合の依頼内容の中に、偶然、王都の王城に寄らないといけない内容の指名依頼があり、偶々、帝国に行く前に寄るスケジュールになっていた。
帝国の動向まで掴んでいるとは、引き篭もりも侮れない。
「いやいや、一国の王女を連れ出せるわけがないでしょう……」
「本当ですか? 私の周囲の世話役をチョチョっと操れば、数日くらい簡単だと思いますけど?」
コイツ、俺が八本指を操って自首させたことを突いてきやがった。
ネムとエンリは何のことか分からず、首を傾げている。
「私、この城を出て遊んだ経験が、ほとんど無いんです。だから、自分の素を出しても良い人と、遊びに行ってみたくて……」
これは本当だろうな、というかコイツも地味に精神的にはボッチなのか……
ネムはお姫様と旅行が出来ると大はしゃぎ。
エンリは今にも倒れそうだ。
「はぁ、仕方ないな。子供の味方としては、無垢な願いは叶えてやらないとな」
「私は既に16歳ですけど?」
「残念、私の基準では20才未満は子供なんだ」
まぁ俺は小卒で働いていたけど……
本来、これくらいの年齢は、遊んでいた方がいいんじゃないかと、鈴木悟の精神が訴えていた。
「まぁ、ギブアンドテイクという言葉もある。今度は私がラナーに助けてもらうよ」
「打算的なのは、友人としてダメなのでは?」
モモンガが呼び捨てにしたのにも関わらず、本当に楽しそうにラナー王女は聞いてくる。
「友人だからこそ、借りは返したくなるものだ」
「ええ、確かに…… それならこれからは、困った時のガゼフでは無く、困った時のラナーとして頼ってください!」
本当にどこまで知っているのやら……
こうして、帝国に行く仲間が一人増えた。
「さぁ、帝国からの依頼には、御家族、御友人も一緒にどうぞと書いてましたからね。旅行のつもりで楽しみましょう!!」
コイツ本当にどこまで知ってるんだ。
帝国からの依頼すら、ラナーが仕組んだと言われても、信じてしまいそうだった。