サウジの恐怖体制、カショギ事件で浮き彫りに-自宅でも小声で会話

13日付のサウジアラビア各紙は、公序良俗や宗教的価値観、プライバシーに反する臆測や偽ニュースを広めた者には最大で禁錮5年、罰金300万リヤル(約9000万円)が科されることをあらためて市民に通知した。これが反体制ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏失踪事件の関連であることは誰の目にも明らかだった。

ジャマル・カショギ氏

Photographer: Mohammed Al-Shaikh/AFP/Getty Images

  トルコ当局者がカショギ氏は殺害され、それを命じたのはサウジ政府だと主張する中で、サウジの政府関係者やメディアは同国に対する中傷だと否定、ムハンマド皇太子の主張に倣った。皇太子はカショギ氏失踪の翌日に行われたブルーバーグ・ニュースとのインタビューで、カショギ氏はトルコ人女性との婚姻手続きを終えるために総領事館を訪れ、何事もなく出て行ったと話した。

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  だが、騒ぎは鎮まらなかった。匿名で取材に応じたサウジのビジネスマンは、自国がイラクのフセイン元大統領やリビアのカダフィ元大佐らの独裁者を想起させる手法に訴えたかもしれないことに「文字通り、震え上がっている」と発言。留学から最近帰国した若いサウジ人はカショギ事件にどう反応していいか葛藤し、結局は母国を守ることが最優先だとの結論に至ったという。

  王族や富豪ですら容易に拘束される最近のサウジでは匿名の希望は今や普通で、公共の場での発言に慎重な人が増えている。ブルームバーグ・ニュース記者との接触を断ったサウジ人学者は8月、「いまや口は災いの元だ」と語った。記者との情報交換に応じてくれる人々は人けのない場所を指定し、盗聴予防のため電話機は別の場所に置く。自宅でも小声で話すことが少なくない。

  ムハンマド皇太子はブルーバーグ・ニュースとのインタビューで、多くのサウジ人がいまや記者と会うのを恐れていることに関して、「人口2000万人の国でそういう人が数人いたのかもしれないが、私は見たことがない。名前を覚えていたら、挙げてもらえるか」と言って笑った。「過去2年間に数人に起きた事実を理由に、メディアに口を開けば自らに災いが降りかかると考えている人がいるとすれば、それは正しくない」と否定した。

  ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)客員教授でサウジの体制批判を続けているマダウィ・アルラシード氏は別の見解を示す。「サウジの社会で、いかなる政策についてももはや異論を唱える人はいなくなった」と指摘。「全てが変わった。安全だと感じている人はいない」と述べた。国連の統計によると、ムハンマド皇太子が権力の座に上り始めた2015年にサウジ出身の亡命希望者は575人だったが、17年には1256人に増加した。

原題:The Khashoggi Case and the Climate of Fear in Saudi Arabia(抜粋)

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