【ワシントン=中村亮】米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は19日、米国と旧ソ連が結んだ中距離核戦力(INF)廃棄条約の破棄をトランプ政権が検討していると報じた。ロシアが条約に違反して中距離ミサイルの配備や開発を進めているためだという。ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は来週初めにモスクワを訪問して協議する見通しだ。
ニューヨーク・タイムズによると、トランプ大統領が数週間以内に条約の破棄を決める可能性があるという。英メディアのガーディアン(電子版)も19日、トランプ政権が今週に欧州主要国に対して条約の破棄を検討していると伝達したと報じた。国務省を中心に核軍縮の推進を訴える声も根強く米国の方針はなお流動的だという。
INF廃棄条約は1987年に米国とソ連が調印し、88年に発効した史上初めての核軍縮条約。発効から3年以内に射程500~5500キロメートルの中・短距離の核ミサイルを全廃するとした。冷戦後の核軍縮体制を支える枠組みでトランプ政権が実際に破棄すれば核軍縮の流れが後退するのは必至だ。
ボルトン氏は19日、ツイッターで20日に米国を出発し、モスクワでロシアのラブロフ外相やパトルシェフ安全保障会議書記と会談すると明らかにした。ロシア政府によると、会談は22~23日に開かれ、プーチン大統領との面会も調整しているという。国際会議などに合わせた米ロ首脳会談の開催を探る可能性もある。
米ロ首脳は7月にフィンランドの首都ヘルシンキでの会談で核軍縮を進めていくことで一致した。ただ米ロ高官は8月にINF廃棄条約を含む核軍縮の取り組みを巡って協議したが目立った成果はなかった。
トランプ政権は昨年12月、ロシアが条約に違反しているとして中距離ミサイルの研究・開発を進める考えを表明した。オバマ前政権はロシアが条約に違反していると判断したが、核軍縮が滞る事態を懸念して条約を維持した。
トランプ政権が2月にまとめた今後5~10年後の「核体制の見直し」では、ロシアの核戦力の増強に対抗する考えを明確にした。敵国の軍事基地などを局所的に攻撃するために小型核の新規開発を進めるとした。通常兵器への反撃に核兵器の使用を辞さない構えも見せて「核なき世界」を目指したオバマ前政権からの方針転換を印象づけた。
米ロの核軍縮を巡っては、大陸間弾道ミサイル(ICBM)に搭載する戦略核弾頭の数などを制限した新戦略兵器削減条約(新START)を延長するかも協議している。同条約は2021年に有効期限を迎える。