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PANTA x 鈴木慶一 対談~伝説の『マラッカ』と『1980X』を語る

インタビュー


 日本のロック黎明期からラディカルな音楽性とライブパフォーマンスで熱い支持を集めた頭脳警察のPANTA。彼がソロを経て、1977年に結成したバンド=PANTA & HALがリリースしたアルバム『マラッカ』(1979)と『1980X』(1980)は、今なお刺激に満ちた傑作として多くのロックファンに語り継がれている。そのアルバムのプロデュースを務めたのが、PANTAと同時代からはちみつぱい〜ムーンライダーズで活動していた鈴木慶一。

 70年代から日本のロックの熱い季節を共に過ごし、それぞれが自身の音楽性を探究してきた両者。二人が出会った頃に起きた“歴史的事件”から、70年代後半〜80年代の変革期にかけて両者が稀代の名盤を生むに至る経緯と名盤にまつわる秘話を語る。

TOP Photo: Junichi Itabashi


頭脳警察をTVで観て、「ヤラれた!急がねば」と思った。(鈴木)

−−お二人が最初に出会ったのは?

鈴木慶一:私が1951年生まれで、PANTAが1950年。学年で言うと2年先輩に当たるわけですが、私が高校を卒業したのが1970年。

PANTA:頭脳警察の結成は1969年で、来年は50周年を迎える。

鈴木:70年に深夜TVで頭脳警察を観たんですよ。「ヤラれた!」と思ったね。

PANTA:慶一は臍を噛んだんだよね。

鈴木:これは急がねば、と思いましたよ。高校時代までは羽田の自宅に引き蘢って宅録ばかりしていたから、卒業と同時に東京の地図が一気に広がったんだ。

−−記録によると、1970年の9月に開催された「第1回日本語のふぉーくとろっくのコンサート」(日比谷野外音楽堂)にお二人とも出演されています。

鈴木:私がはっぴいえんどのサポートでギターとコーラスで参加していた時だ。あれにも頭脳警察は出ていたか。70年は、高校を卒業してすぐにあがた森魚に出会い、はっぴいえんどのサポートをするという目眩のするような年だった。

PANTA:渋谷の「B.Y.G.」の当時のチラシを見ると、対バンではなかったけれど、頭脳警察も、慶一がいたはちみつぱいも出演していたりするんだよね。

鈴木:70年代前半は何度も同じステージに立っていますよ。そして、はちみつぱいを結成した1971年には有名な*慶応大学三田祭事件が起きる。

* 慶応大学三田祭前夜祭には、はっぴいえんど、頭脳警察、はちみつぱいなどが出演。しかし、はっぴいえんどの出番に頭脳警察が乱入したため、はっぴいえんどはわずか1曲でステージを去る事態となり、両バンドの間に亀裂が生じたと伝えられている……。
慶応大学三田祭事件は、当事者それぞれの視点で映画になりそうな出来事だった。(PANTA)

鈴木:本来ははつみつぱいのステージの後がはっぴいえんどの出番だったのが、 なぜかすれ違うように頭脳警察が出て来きたんだ。「あれ?」と思って楽屋に戻ると、当時のマネージャーの「風都市」の石塚幸一が、「今から何が起きるか分からないから、お前らは早く帰れ」と。

PANTA:彼は傘を持ってステージに殴り込もうとしていたらしいけど、黒ヘル部隊が俺たちのステージを包囲していたからね。時間が押して1曲しかできなくなったはっぴいえんどは怒った観客に石を投げられたんだ。

鈴木:結局、いまだに真相は分からないね。

PANTA:いちばん被害を被ったのはその後にステージに出た吉田拓郎だったとか、「あの騒ぎを鎮めたのはオレだ!」と遠藤賢司が言い出したりして、伝説化していったところはあるんだけどね。

鈴木:はちみちぱいは、その現場はいなかったんだ。「早く帰れ」と言われて、騒ぎをよそに飲みに行っちゃったから(笑)。

PANTA:あれは当事者それぞれの視点で映画になりそうな出来事ではあった。 後から聞いた話では、はっぴいえんどのメンバーは、小坂忠の結婚パーティに行かなくちゃいけないから1曲しか演奏できなかったらしいけど。

鈴木:はちみつぱいも客から石を投げられたことはあった。70年代初頭はそんな騒々しい、変動の時代だったね。

当時のコンサートは楽屋で仲良く話すなんてことはまったくなかったね。(鈴木)

−−お二人がそれぞれのバンドで同じコンサートに出演していた頃、交流は?

鈴木:ないない。当時のコンサートは同じような音楽を志すバンドだけが集まる形態ではなかったから、楽屋で仲良く話すなんてことはまったくなかったね。

−−音楽性の違いがコミュニケーションを拒む雰囲気だったんですか?

PANTA:それもあっただろうね。俺たちみたいなバンドもいれば、フォーク・シンガーもいるというある意味デタラメな面子だったから。

鈴木:リハーサルを観たり、時には本番も観たりはしたけど、会話はなかったね。そこに「アイツら、上手いな」という嫉妬心も混じったり。

PANTA:1968年くらいから世界中で戦後のベビー・ブーム世代が現れて、同時に色んな変種も出てきたんだ。それが日本のロックの黎明期とも重なった。

鈴木:はっぴいえんどやはちみつぱいが所属していた「風都市」という企画集団と頭脳警察はそもそも仲が良い間柄ではなかったんだけど、「風都市」にいた上村律夫という男が実は昔はPANTAと麻雀をやったりするような仲で……。

PANTA:彼は元ブルース・クリエイションのメンバーで、頭脳警察のギタリストの山崎隆志と近い関係だったんだよ。その山崎の友達が吉田美奈子で、「さよなら世界夫人よ」(『頭脳警察セカンド』1972)にフルートとピアノで参加してもらったりしてね。

鈴木:その後、上村はムーンライダーズ・オフィスの社長になり、それがやがて『マラッカ』にも繋がってゆく。



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