【検証】トランプ政権下の米経済は「史上最高」なのか?
リアリティー・チェック(ファクトチェック)チーム、BBCニュース
主張: ドナルド・トランプ米大統領によると、米国経済は現在、史上最高の好景気を経験している。
トランプ氏は11月6日に迫った米中間選挙に向けた演説で繰り返しこのメッセージを発している。中間選挙では米連邦議会議員のほか、州知事や各自治体の議員が選ばれる。
米紙ワシントン・ポストが9月に発表した推計によると、トランプ大統領は過去3カ月間で40回、この主張を繰り返した。
リアリティー・チェックの判断:確かに米経済は好調だ。しかし、今より好調だった時代もある。
一方で、賃金や家計所得など一部の経済指標はあまり改善していない。
GDP成長率は過去最高ではない
国内のモノとサービスの価値を示す国内総生産(GDP)の成長は力強い。
2018年第2四半期(4~6月)の米国のGDP成長率は年率で4.2%に達した。
ここ数年では最高の数値だが、2014年第3四半期に記録した4.9%には及ばなかった。
そして1950年代と60年代にも、これよりも高いGDP成長率を達成している。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)のメガン・ブラック歴史学準教授は、「もしGDPを根拠に経済の健全性を見るなら、第2次世界大戦後の好景気と比べる必要があり、トランプ氏の主張には疑問が出てくる」と指摘した。
「戦後の経済成長は目覚ましいものがあった。製造業が中心だったが、農業や運輸、貿易、金融、不動産、鉱業も好調だった」
この指摘は、経済成長の指標として頻出する失業率にも当てはまる。今年9月の米国の失業率は3.7%だった。
1950年代には、これよりも失業率が低い時があった。
つまり、これらの経済指標は好調を示しているが、史上最高ではない。
株式市場も好調
トランプ大統領は、米金融市場の価値上昇について、特に、米企業30社の株価を示すダウ・ジョーンズ工業株30種平均(ダウ平均株価)を強調している。
実際、ダウ平均株価はトランプ政権下で過去最高を記録している。中国との貿易摩擦や、トランプ大統領が昨年決定した環太平洋パートナーシップ協定(TPP)離脱といった地政学的なリスクにもほとんど動じていない。
トランプ氏の支持者は、大統領が進めた法人税削減や米国第一主義、官僚主義の締め付け、インフラ投資の約束などが株価を後押ししていると主張している。
雇用と賃金
では、雇用と賃金については米経済全体で何が起こっているのか?
これまで見てきたように、米国の失業率は9月時点で3.7%と、1969年以降で最低を記録している。
失業率はここ数年下落を続けており、この傾向はバラク・オバマ前政権から始まっている。
経済調査会社ムーディーズ・アナリティクスのライアン・スイート氏は、米国の就業者の属性が変わっていることが重要だと指摘する。
現在は、高齢者や高学歴の就業者が増加しているが、どちらのグループも失業率は低い傾向にある。
「2000年にも失業率は4%を切っていた。それ以降の人口統計上の変化を見ると、現在の失業率は9月時点の3.7%より低くあるべきだ」
トランプ氏はまた、アフリカ系米国人の失業率の低下についても強調している。
確かに5月の時点では、米国の黒人の失業率は5.9%と1970年代以降で最低にまで下がった。
しかし一部の米メディアはこの時、いくつかの重要な注意点があると指摘していた。
- 黒人の失業率の数値は上下しやすく、月ごとに異なっている
- 黒人の失業率は統計上、他の人種グループと比べてなお高い
トランプ大統領の娘で大統領補佐官のイバンカ・トランプ氏は16日、女性の失業率が過去65年で最低となったとツイートした。
これもまた、トランプ氏の大統領就任前から下がり始めている。
賃金については、2017年を通じた時給の平均上昇率は2.5~2.9%と、オバマ政権から続く上昇基調を維持している。
9月時点での上昇率は2.8%と報じられている。
しかし8月時点でのインフレ率は2.7%だったため、インフレ調整後の実質賃金の上昇率はもっと小さいことになる。
他に注目するべき経済指標は家計所得だ。
実質家計所得の中央値は過去3年間、増加しているが、米国勢調査局の発表によると上昇率は減速している。
国勢調査局は9月、2017年の年間実質家計所得が過去最高の6万1372ドル(約690万円)だったことについて、それ以前との調査方法の違いが原因だった可能性を表明した。
トランプ政権下での金融刺激策や減税、連邦政府の支出拡大などが、経済成長に追い風となっていることは確かだが、皆が恩恵を感じているわけではなさそうだ。
一部のアナリストは、この調子がいつまで続くのかと疑問を呈している。
ムーディーズ・アナリティクスのマーク・ザンディ氏は、「現在は好況だが、金融刺激策の効果が薄れ、経済が高金利にあえぐ2020年代前半には、この景気も終わる可能性が高くなっている」と分析している。