ビデオゲームは芸術か否か? 娯楽ではなく芸術と見なせる根拠や意義は?
その難しい問いに真正面から挑んだ松永伸司氏の著作『ビデオゲームの美学』が2018年10月20日に発売する。ビデオゲームをひとつの芸術形式として捉え、哲学の観点から考察して、理論的な枠組みを提示する本だ。
本書のタイトルになっている「美学」とは芸術や感性の働きについて哲学的に考える学問のことである。
※『ビデオゲームの美学』著者松永氏のツイート
松永伸司氏は分析美学のアプローチを駆使して、ビデオゲーム研究をしている研究者。代表的な翻訳書にイェスパー・ユール『ハーフリアル――虚実のあいだのビデオゲーム』とネルソン・グッドマン『芸術の言語』がある。今回、発売される『ビデオゲームの美学』は、松永氏が2015に東京藝術大学に提出した博士論文「ビデオゲームにおける意味作用」をベースにしつつ、前述の『ハーフリアル』と『芸術の言語』を援用したものになっているという。
松永氏が扱う「分析美学」とはなにか。
主に英語圏で行われている哲学の美学であり、「分析」という言葉は哲学の一分野である「分析哲学」に由来している。これはフランスやドイツなどの思弁的に論理を積み重ねて、曖昧でときには空論だと批判された大陸系哲学と比較されるもので、より経験的で現実と理論とのフィードバックを重視した自然科学に近い手法で、明瞭に分析、検証する哲学を目指す。その手法を芸術や感性の分野で応用したのが、「分析美学」である。
その分析美学の古典的な名著がネルソン・グッドマンが1968年に刊行した『芸術の言語』だ。
グッドマンはこの著作で、 芸術形式(絵画、彫刻、音楽、文学など)の個々の特徴を記号システムとして解読し、芸術の特性を体系的に比較した。
この『芸術の言語』とともに『ビデオゲームの美学』の根幹を成すのが、デンマーク出身のゲーム研究者であるイェスパー・ユールの『ハーフリアル――虚実のあいだのビデオゲーム』。2005年の著作ながら、はじまったばかりのゲーム研究の金字塔として挙げられる書物である。ユールはここで、ビデオゲームにおけるルールとフィクションの領域が、どういった相互関係を含んでいるかを描き出した。ほかにも創発型ゲーム/進行型ゲームなど、さまざまな刺激的な定式化を行い、ゲームにまつわる概念を整理している。
『ビデオゲームの美学』は博士論文をベースに、こういった先行研究や哲学を踏まえているので、専門用語を使っていて難解なところはあるだろう。
本書はそもそもゲームがどのような仕組みになっているかを分析する本ではない。美学というものは、作品の仕組みがどのようになっているのかではなく、その仕組みが受容する側にとってどのように立ち現れるかを重視するものだからだ。
だが、松永氏いわく、専門用語を無駄にふりかざしたりはしておらず、必ずどこかに用語の解説があるので、しっかり丁寧に読んでいけば理解できるものだという。「ゲームは芸術である」、このように自信をもって言える時代の到来が本書によってきたのかもしれない。
『ビデオゲームの美学』
目次
序章
第Ⅰ部 芸術としてのビデオゲーム
第一章 ビデオゲームとは何か
第二章 ビデオゲームの意味作用
第三章 芸術としてのビデオゲーム
第Ⅱ部 一つの画面と二つの意味
第四章 ビデオゲームの統語論
第五章 ビデオゲームの意味論
第六章 虚構世界
第七章 ゲームメカニクス
第Ⅲ部 二つの意味のあいだで遊ぶ
第八章 二種類の意味論の相互作用
第九章 ビデオゲームの空間
第十章 ビデオゲームの時間
第十一章 プレイヤーの虚構的行為
第十二章 行為のシミュレーション
終章 そして遊びの哲学へ
詳しい目次は松永氏のブログに掲載されている。
文/福山幸司