若者の生活習慣に潜むわな
セロトニン欠乏症の危機
よく噛んで偏らぬ食生活を
昨今の欲望氾濫(はんらん)の世相にあって若者世代の生活習慣の様相は、危機的状況に置かれているのではなかろうか。
1980年代(昭和55年頃)になって起こった生活環境の急激な変化により、メカ化社会の著しい進展に伴い、家庭用のテレビゲームの普及によって長時間ゲームに依存し続けるという生活スタイルの変貌である。
それによって、人間らしい生活を司(つかさど)る大脳の「前頭前野」の機能が極端に低下し、衝動的な行為を抑制したり、道徳的な行動を促したりする働きの機能低下に陥った「ゲーム脳」の出現である。この現象は、長時間家に閉じこもり、何時間もゲーム漬けの生活が続くことによってセロトニン神経が退化し、その結果「セロトニン欠乏症」に陥っていることが懸念される。このセロトニン神経の働きを低下させているもう一つの要因が、昼夜逆転の生活習慣である。自然の太陽の恵みがセロトニン神経を活性化させるのである。文部科学省の調査によると、深夜0時以降に就寝している中学生は実に22%、高校生では47%という状況である(2014年11月、調べ)
このような睡眠時間帯では、セロトニン神経の退化は当然ながら免れないのである。
朝、網膜から入る太陽の光がセロトニン神経を活性化させ、それによって精神を安定させるし、かつ不安や怒り、気分の低下をコントロールすることができる。つまり、セロトニンは自律神経の働きを整えるのである。しかも、朝(午前中に)太陽の光を30分位浴びるとセロトニンの分泌が増え、睡眠を促すホルモン・メラトニンの元になるので、眠りの質を高めることができる。従って、セロトニンは疲労回復をももたらす効果を高める。
「セロトニン欠乏症」の主な症状としては、「キレる症状・うつ症状・摂食障害などの食行動の異常」などが出てくる可能性がある。
さらに近年深刻な問題は、若い世代の自殺である。15~39歳の各年代の死因の第1位が自殺である(平成29年版自殺対策白書)。中でも、2015年の中高生の自殺は343人で前年より31人増で過去(07年以降)最多となり実に憂慮に堪えない。
これは、国際的に見ても、先進国でこの年代の死因の第1位が自殺になっているのは日本のみで、将来を担う若い世代への対策が今や国策として特に急務という他はない。
自殺の要因は、実に多種多様な諸要因が複合的に重なりあって生ずることを考えれば、その対策は実に困難という他はないものの“生きることへの希望”“将来への目標”さらには“人生を生きる喜び”“感謝の念”などを一人一人の若者たちと直接対話をしながら深めていく地道な積み重ねが今こそ求められているのではないかと思われてならない。
それにつけては、日常の基本的な生活習慣の確立が不可欠であることは言うに及ばない。
中でも、日々感謝の念を抱きつつ「偏らない食生活」の重要性と「食に対する感謝の念」を育むこと。加えて「よく噛む習慣」の確立は重要である。「よく噛(か)む」ことによって脳を刺激し、それによって、セロトニン神経の活性化に結び付き、記憶を司る側頭葉の海馬を働かせることにもなるのである。
しかも、この「セロトニン」という神経伝達物質を体内で作り出すには、トリプトファン・ビタミンB6・炭水化物の三つの栄養成分が必要である。これら多く含まれているものは、例えばバナナ・アーモンド・くるみ・卵・豆腐や納豆などの大豆製品類、ヨーグルトなど乳製品などである。炭水化物では、玄米・胚芽米やイモ類、ビタミンB6を含んだものでは魚類、中でもカツオで、さらにトリプトファンの含んだものにはゴマなどである。
つまり、セロトニンは、食物の中に含まれているトリプトファンを材料として作られ、食物の一部として血液の中に入ったトリプトファンが脳の神経の中に入ることになる。
このように、トリプトファンからセロトニンを合成することができる神経のことを「セロトニン神経」と呼んでいるのである。
この「セロトニン神経」の働きは、注意を集中し過ぎる行為、つまりある一つのことに極端に没頭する(捉われる)と、例えば「ゲーム脳」になるとセロトニン神経は一時的に活動停止に陥る。これが「セロトニン欠乏症」を加速させるのである。そのためにも、リズミカルに、ものごとに柔軟に、捉われないフレキシビリティー(融通性)のある生き方が求められているのではないかと思う。
江戸初期禅僧の沢庵宗彭はこう語っている
“万一もし一所に定めて心を置くならば、一所に取られて用を欠くべきなり”と。
(「不動智神妙録」)
大事なことは「一所に心を留める」ことなく融通性のある生き方ではなかろうか。
(ねもと・かずお)
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