「子供がいる夫婦が人生をうまく乗り切るためには、家を買ってはいけない」と断言するのは、作家の橘玲氏。小市民のための人生設計法を説いた名著『世界に一つしかない「黄金の人生設計」』(2003年刊)から、なぜ子供のいる夫婦が家を買ってはいけないのかを丁寧に解説したパートを特別公開――。
1989年にベルリンの壁が崩壊し、第2次世界大戦後の世界を規定していた米ソの対立に終止符が打たれ、冷戦によって生まれた日本の55年体制も木っ端微塵になり、バブル経済が崩壊したことで、私たちの人生にも、大きな転機が訪れました。
①「終身雇用制」が崩壊したため、たとえ1部上場企業に勤めていたとしても、定年まで今の会社にいられる保証がなくなった。もちろん、会社が出向先を世話してくれるようなことも期待できなくなった。
②「年功序列」の人事システムが崩壊したため、ふつうに働いていればそこそこの昇進・昇給が保証され、無事に定年を迎えれば老後を人並みに過ごせるだけの退職金がもらえる、ということもなくなった。
③「メインバンク資本主義」(メインバンクが手取り足取り企業の面倒を見ることで成立している資本主義)が崩壊したため、勤めている会社自体が市場競争にさらされ、消滅してしまうかもしれなくなった。
④「終身雇用制」の悪弊によって日本では労働市場が機能していないため、就職に失敗したり、いったん離職したりすると、再就職は非常に難しいという現実が広く知られるようになった(とくに中高年の再就職は絶望的)。
⑤不動産市場の低迷によって、「サラリーマン時代に持ち家を取得しておけば一生安泰」という神話が崩壊した。
⑥銀行や、ゼネコン・商社・流通業などの「大借金企業」を救済するためのゼロ金利政策によって、個人の金融資産の大半が仮死状態に陥ってしまった。
⑦一部の生命保険会社の破綻によって、保険金額が減額される人が現れた。
⑧少子高齢化で年金制度が行き詰まり、年金保険料の増額と給付の減額が誰の目にも明らかになった。老後を年金だけですごすことは不可能になった。
⑨同様に健康保険制度も破綻寸前で、今後、健康保険料や医療費が大幅に上昇することが確実になった。
⑩景気対策のための国債増発によって、国が巨額の借金を抱える状態になった。この借金を返済するために、将来の増税は不可避となった。
どれひとつとっても、バブル景気でわが世の春を謳歌していた10年前には考えることすらできなかったことばかりです。それだけでも、いかに巨大な変化が日本を襲ったか、おわかりいただけると思います。
こうした過酷な状況のなかで、私たちは自分の人生を、公的サービスに頼ることなく設計していかなくてはなりません。そのときのキーワードが、「経済的独立」です。「経済的独立 Financial Independence」という言葉を、私たちはR・ターガート・マーフィー、エリック・ガワー共著の『日本は金持ち。あなたは貧乏。なぜ?』(毎日新聞社)から知りました。
同書によれば、「経済的独立」は以下のように簡潔に定義されます。
「経済的独立とは、文字どおり、お金を他人に依存しないですむことである。経済的に独立すれば、やりたい仕事を選べ、したくない仕事をしないですむ。お望みなら、まったく働かなくてもいい。自分や家族が住みたい場所に住め、会社の都合で住所を決められずにすむ。子どもたちに最良の教育を受けさせ、彼らの将来をよりよいものにできる。自分の趣味を楽しむのもいい。旅行でも、スポーツでも、芸術でも、風変わりな何かでも」