安倍晋三首相が来年10月からの消費増税を表明した。好調な景気がこのまま推移すれば、増税は実施されるだろう。ただ、波乱含みの世界経済次第では、また延期される可能性も完全には捨て切れない。
最初に、増税に対する私のスタンスを書いておく。
日本では「財政赤字が大変だ」と言われるが、これは財務省のデタラメ話である。財務省が宣伝する「借金1000兆円」という言い方自体がインチキを証明している。なぜかといえば、財政問題は借金だけでなく、資産との見合いで考えるのが当然だからだ。
話を家計に置き換えてみれば、すぐ分かる。「住宅ローンが1億円ある」と聞けば、驚くかもしれないが、資産が10億円ある人からみれば、何の問題もない。資産から借金を引いた純資産は9億円、純債務はプラスどころかマイナスだ。大金持ちである。
それと同じで、国の財政状況も資産との見合いで考えなければならない。国の負債は2016年度末で1221兆円、うち公債と借入金が合計974兆円だ(https://www.mof.go.jp/budget/report/public_finance_fact_sheet/fy2016/national/fy2016point3.pdf)。これが、いわゆる「借金1000兆円」の根拠である。
ところが、貸借対照表を見れば、資産が672兆円ある。負債から資産を引いた差額の純債務は548兆円にすぎない。これだけで1000兆円話が半分になる。さらに、政府の子会社である日銀は2017年度末で448兆円の国債を保有している(https://www.boj.or.jp/about/account/zai1805a.htm/)。これは資産だ。
したがって、政府と日銀を合わせた「統合政府」の純債務は、政府の純債務548兆円から日銀の資産448兆円を引いた100兆円にしかならない。国内総生産(GDP)比でみれば、2倍どころか2割弱だ。実質的に「財政再建は完了している」のである。
このあたりの話は、当サイトの同僚コラムニストである高橋洋一さんが何度も指摘してきたので、ご存知の読者も多いと思う。高橋さんは先週のコラムで、最近の国際通貨基金(IMF)のリポートを引用し、IMFも「日本の公的部門の純債務はゼロ」と指摘していることを紹介している(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57978)。
ちなみに、IMFは「公的部門」を「中央政府と地方政府(日本の地方自治体)に中央銀行を含めた各種公的機関(たとえば独立行政法人)を合わせた部門」と定義している。国と日銀を合わせた統合政府の純債務は公的部門全体に広げると、一層小さくなっている。財政危機でも何でもない。
そもそも、財政危機なら長期金利が上昇するはずだが、新発10年国債利回りで測った長期金利は10月16日現在、0.145%だ。金融市場が「日本の国債は安全」と見ている証拠である。これでは、財務省もさすがに、もう財政危機を宣伝しにくいだろう。これが1点。
それから、日本はまだデフレを完全に脱却していない。日銀は消費者物価上昇率2%を目標にしているが、8月時点で1.3%(総合指数)にとどまっている(https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/index-z.html)。
以上から、私は消費増税に反対である。テレビの「そこまで言って委員会NP」や「朝まで生テレビ!」でも、そう主張してきた。ただし「べき論」ではなく「現実はどうなるか」と問われたときは「おそらく増税するだろう」と答えてきた。