オーバーロード ありのままのモモンガ 作:まがお
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リ・エスティーゼ王国の第三王女、ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフは、一人私室で手に入れた情報を脳内で繰り返し検討していた。
(戦士長の死は確実だった。それを覆すほどの存在、そして同時期に現れたアンデッドを使役する子供。おそらくこれは同一と見て間違いは無い。問題はその行動原理。人を救い、悪に対して憤りを感じながら、対処は杜撰。アンデッドは使役されているという話だけど、その割には行動に子供らしさがあまり無い――)
王城から出ることの無いラナーは、噂話や世間話から限りなく正解の情報だけを繋ぎ合わせていく。
(――いや、時々大人のような対応をしていることがある。つまり、本当は使役されていない。どうして子供に使役されているフリを? もしかしてその子供の能力は、使役じゃなくて、アンデッドの強化? 相互にメリットがあるから一緒にいると考えた方が――)
脳を高速回転させ、様々な可能性を導き出し、一つ一つを消していく。しかし、一向に答えを一つに絞る事ができない。
「ふぅ、やっぱりアンデッドの方の行動原理がわからないわ。敵を皆殺しにしたり、逆に傷一つ付けずに捕縛したり。慎重に行動したかと思ったら、街中を堂々と歩き出す。力があるのに、普段は採取系の仕事しかしていないなんて……」
自身の頭脳を持ってしても、答えを導き出せないことに、ラナーは少し落ち込む。
もしかしたら何も考えていない馬鹿なのでは?そんな考えが頭をよぎるが、それならラキュースを使って、一度こちらの作戦に巻き込めば、相手の行動指針の様なものが分かるはず。
クライムを永遠に自分の元に縛り付ける。優雅に犬を飼って過ごすという、自身の野望を叶える為、ラナーは今日も頭を働かせていた。
ラキュース達と雑談していると、ラナー王女御付きのクライムという兵士が呼びに来た。
クライムはラナー王女から、アンデッドの冒険者のことも、もし会えたら呼んで欲しいと言われていたため、モモンガ達も一緒について行っている。
ラナーへの忠誠心のためか、モモンガを前にしても任務を遂行できる精神は、素晴らしいものだろう。
困った時のガゼフを使いながら、王城に入り、この国の王女と対面した。
(不愉快だな……)
最初は綺麗な女性だと驚いたが、会話の途中から『八本指』という組織の話にさり気無く繋がっていった。
ラキュース、エンリにネムまでも、その話を聞いて憤慨していたが、モモンガは一人冷めた感情で話を聞いていた。
「ラキュースさん、エンリとネムを連れて、少しだけ席を外してくれませんか? 少々血生臭い話にもなるので……」
「えっと、それは――」
「構わないわ、ラキュース。お願い、二人を奥の部屋に連れていってあげて」
ラナー本人に促され、ラキュースは渋々二人を連れていった。彼女達の足音が離れていき、目の前の骸骨は口を開く。
「お前……あの子を、いや、友すらも利用する気だな?」
「……」
「自分の望みの為、あの子達を振り回している自覚は俺にもある。人のことは言えないだろう――」
段々と目の前のアンデッドから感じる圧力が、増していく気がする。ああ、間違いない。このアンデッドは人の手には負えない、正真正銘の化け物だ。
「――だが、貴様は何も感じていない。貴様の事は相当賢いとラキュースが褒めていたぞ。そんな奴が、多少の正義感があれば必ず憤慨する話をしたら、どうなるかは分かるはずだ。女性なら尚のことだろう。この流れなら助ける力を持つ普通の人間は、助けたいと思うだろう――」
このアンデッドは馬鹿ではなかった。確実に私の正体を見抜いている。
「――あの子達が願うのなら、俺は助けよう。だが、貴様に協力はしない。もしこの先、貴様があの子達を利用する様な事があれば、俺は世界を敵に回しても貴様を潰す」
「なぜ、気が付いたのですか? 会話にも演技にも違和感はなかったはずですが」
「俺は本物を知っている。その純粋さがお前には無かった」
目の前の存在は、本当に普通の人間のように、友達を家族を、大切なモノを知っている。それを慈しむ心を持っている。
「貴方は……とても人間らしいのですね。私には無いものです」
「俺だって持ってなかったよ……あの子に貰っただけだ。私がそうだったように、人間のお前なら尚更手に入るさ。まだ若いんだ、手遅れじゃないさ」
いつから周りと同じモノを求めなくなったのだろう。
気付いた時には、私と同じモノを見る存在はいなかった。
クライムが現れるまで、何処にも心の拠り所は無かった。
先程とは打って変わって、優しい声色で語りかけてくる目の前の骸骨。
誰かを思いやる心を持つ異形種。
精神が異形種とも言える私には、それがほんの少しだけ羨ましく思えた。