オーバーロード ありのままのモモンガ 作:まがお
<< 前の話 次の話 >>
リ・エスティーゼ王国の王城、そこにある目立たない場所の一角で、剣を振るっている男達がいた。
「ストロノーフ様、どうされたのですか? なにやら酷く疲れているようご様子。訓練をつけて頂くことは有り難いのですが、はやはり御迷惑だったのでは……」
「いや、そんな事はない。むしろ体を動かしていた方が、スッキリして有り難いくらいだ」
申し訳なさそうにガゼフを気遣う男、彼の名はクライム。
リ・エスティーゼ王国の第三王女、ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ王女、御付きの兵士である。
昔、ラナー王女に拾われた孤児であり、以来ラナー王女に絶対の忠誠を捧げている。
ガゼフが思い悩んでいたのは、最近の出来事についてだ。
始まりは自らを暗殺するために、辺境の村に誘い出された時のことだ。
貴族派閥の横槍により、万全の装備を整えることも出来ず、法国の特殊部隊に殺される寸前だった。
そんな時、救ってくれたのは骸骨の戦士だった。
そのアンデッドに願われ、八百長の勝負をして、私達の部隊は1人も欠ける事なく助かった。
アンデッドと一芝居打って助かりました。そんな事は王に報告する事はできないし、それどころか誰にも相談できない。
それ自体は構わない。命を救って貰ったのだから、多少の秘密を抱える苦労は何でもない。
問題はその後のことだった。
「ガゼフ戦士長!! ご報告があります。エ・ランテルの関所にアンデッドを連れた子供が来ました。『ガゼフ・ストロノーフに話は通っている』そう言われた衛兵が通したようなのですが……」
(アンデッドの御仁か…… あの時、言っていたことだな。難しいが、ここは話を合わせてやるべきだろう)
子供の事は知らないが、きっとあの時のアンデッドだとガゼフは確信する。
貴族達に嫌味を言われることを予想しながらも、命の恩人に借りを返す為に話を合わせる事にした。
「ガゼフ戦士長!! ご報告があります!! こ、ここ王都にアンデッドを連れた子供と女性が来ました!!」
(あの骨、またやりやがった……)
この先何度こんな事が起こるのだろうと思い、溜息を吐きたくなるが、部下の手前、我慢する。
ここで知らないといえば王都はパニックになる。
自分もそろそろ根回しなどを、覚えるべきだろうかと思いながら、話を合わせたのだった。
「クライム…… 誰かと約束するときは、言葉には気をつけるんだぞ……」
「は、はい? いっいえ、分かりました!! 心に刻んでおきます」
あまり意味がわかっていないようだが、しっかりと返事をするクライム。
彼も私と同じ道を辿りそうな気がする……
ガゼフは、次に私の名前が出るのはいつだろうかと悩みながら、クライムと訓練し、汗を流すのだった。